ブリットの休日

大好きな映画や小説の感想や日々の他愛ない話と、
聴神経腫瘍と診断された私の治療記録。

青山 美智子『鎌倉うずまき案内所』あらすじと感想

2024年06月22日 | 本(小説)

 突然現れた小さなおじいさんの神様に願いをおねだりされる、青山美智子さんの『ただいま神様当番』に続いて、自身3作品目となる『鎌倉うずまき案内所』を読む。

 今回もオムニバス形式で、今の仕事を続けようか悩む雑誌編集者の青年・息子との関係に悩んでいる母親・結婚を目前に躊躇している女性司書・仲間はずれになりたくない女子中学生・立ち上げた劇団の存続が危ない脚本家・人生の意義を見いだせなくなった古本屋のおじいさんの6人が主人公。

それぞれが抱える問題により、将来の不安から進んでいく道が霞んで見えなくなり、あたかも人生から”はぐれてしまった”主人公たちが、観光客で賑わう鎌倉の街で、突然異次元の世界に入り込んでしまう。

目の前に急に現れた閑静な町並みに戸惑いながらも歩いて行くと、閉店している時計屋に掲げられた「観光案内所」の看板が目にとまる。
看板の下向きの矢印に従い、店横のらせん階段を降りていくと、小さな部屋で向かい合いオセロをしているふたりの老人に出会う。

「外巻き」「内巻き」と名乗るグレーのスーツにそろいのネクタイと、顔もそっくりな小柄なおじいさんに、主人公たちは道を聞くつもりが、気がつけばそれぞれが抱える悩みを告白してしまっていた。

悩みをしっかり聞いたふたりのおじいさんは、そろって両手の親指を突き出し「ナイスうずまき!」という。

そして壁に掛かっていた謎のアンモナイトの所長から”キーワード”と”ビジョン”を授かり、さらに”困ったときのうずまきキャンディ”をひとつ手に入れると、再び元の世界に戻っていく・・・。

 思い描いていた仕事とのギャップから転職を考えたり、夢の実現のために踏ん張っていたが年齢のことを考え出したりと、主人公が抱える切実な悩みや不安は、誰もが身に覚えがあるだろう普遍的なものであり、誰もが主人公の誰かに共感しちゃってるでしょうね(^^)

そして案内所で得た”キーワード”と”ビジョン”に導かれ、それぞれが今ほんとに自分に必要なモノを知ることで、霧が掛かったように見えなくなっていた幸せや希望へと続く未来への道が、次第に見えてくる。

読後は自己啓発本でも読んだかのように、改めて自分を見つめ直し、自らの成長へ向けエールを送っている。

 ただねえ、神様がさりげなく主人公の背中をそっと押してくれるという設定が私は好きだったんだけど、今回は「外巻き」「内巻き」さんにアンモナイト所長と、あまりに設定が漫画チックであり、残念だけど都合のいい強引な奇跡にしらけてしまった。

おまけに時系列を逆にし、一番印象的だった黒祖ロイドを始め、その奇跡により成功しちゃってる人物たちの現状を先に見せてしまっていて、この先はまだ分らないが、それでも新たな一歩を踏み出す主人公たちの健気な姿に共感してた私には、そこも明かさないで欲しかったかな。

だいたい神様がある特定の人物にだけ肩入れして、成功に導いちゃってるってどうなのよ(笑)

 それでも読後は6人すべての主人公たちが愛おしく、青山美智子さんが紡ぐ素敵な言葉の数々に、気持ちが軽くなっていること実感する。

なかでも古本屋店主の浜文太じいちゃんのエピソードの中で語られる言葉が、自らも積み上がっている年齢のこともあり、強烈に胸に刺さる。

自らの人生を悔いることは仕方ないけど、その歩んできた人生を否定せず肯定することで前を向ける、そして今を生きていける。

そして精一杯生きていこうと思う。

素晴らしい!

 さあ、次はもう手元で待っている『木曜日にはココアを』を、読むかなあ(^^)