カメブログ

聖蹟桜ヶ丘に住むおじさん(通称カメちゃん)のブログ

ハッシュ!

2006年03月18日 | 映画
いまさらながら、ハッシュ!(2002年公開)を鑑賞。
「30代のゲイカップルとひとりの女性が子作りを巡って繰り広げる紆余曲折を描く異色ドラマ」という設定。

役者の一人一人の存在感のリアリティが映画の世界観の安定に貢献している。特に主役の3人の自然さが素晴らしい。彼らの演技によって勝裕、直也、朝子の世界が映画の中では完結せず、観客のこころの中に続いていく。

劇画的なペットショップの主人や勝裕のストーカーになってしまうエミの描写などに深みがなく、作品の傷になってしまっている。しかし、社会のマイノリティとしてしか心を満たすことのできない3人の哀しみと希望、空気感を描ききっており、胸を打つ。

私が特に胸を塞がれる思いをしたのは秋野暢子演じる兄嫁のセリフであった。
栗田の血に混ざることを許さない、といった意味のセリフである。
血縁に由来する人間の根源から発せられる最大の拒絶。
決して交わることのない意識の隔たり。
何をどう説明しても、決して理解を得られない宇宙の虚空に放り出されたような絶望感。

この感情はあのときのものである。
相手の親・家族は自分とは違う論理で動いているから、同じ感情、価値観は決して持っていない。自分が歓迎されていない状況で結婚を申し出るのは絶望的な気持ちになるものだ。
これは個人的な感情ではなく普遍的なものであろう。

この作品の中では、ふっと時が止まったような、意味を解釈することが難しい光景を写すカットが何回もはさまれている。それが独特な詩的効果を生んでいる。
エンターテイメントではないものの、小説を読むように向き合うことのできる作品と言えよう。


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