十六夜の SORA から 夢が降ってくる

いつも全快で 愛と笑い 届けます
 ☆You'll never walk alone☆
~ RYO,IWAI ~

コバルトブルーの女神 傷追いの翼5

2015-03-01 02:33:27 | SORAからの贈り物☆日記☆

『ひかり君が良いと思いましゅ』
真っ黒な顔でいつも男の子を苛めまくる、竹組の女王様えみちゃんが大きな声で立ち上がった

竹組の先生、内藤じゅんこ先生が皆に
『えみちゃんから、キリギリスの役はひかり君が良いとありましたが、皆もそれでいいですか?』
『はーい』
来月のお遊戯会で竹組がやる“ありとキリギリス”のお話で、一番台詞の多い役が俺に回って来てしまった

幼稚園の年長さんの時、既に理由があって両親と離れて暮らしていた俺は、
皆から声を掛けられてもあまりお話の出来ない、孤独な少年だった
多分、俺の事を気に入っていたえみちゃんは、小さな子供にありがちな
好きだとちょっかい出すと言う余計な行動に出たのだった
『じゃぁ ありさんは・・・』
お遊戯の配役が次々と決められていく中、文句も言えないでただ黙りこくっていた俺が居た

静岡県と愛知県の境にある小さな海沿いの町で、遠い親類の経営する母子寮があって
身内でもなんでもない親代わりに育てられた俺は、今でこそありえない話だけど
片道30分以上掛けて 幼稚園を歩いて往復していた
その途中には海と湖が重なり、とても綺麗な魚が沢山獲れる海岸線を通る
その海岸に俺のお気に入りの場所があった
寂れてしまった海岸の公園に、海に向って置かれた二人掛けのブランコがあり
家に帰っても苛められるしかなかった俺は、略毎日そのブランコに腰掛けて
海と空を交互に見て、力一杯ブランコをこぎ続けるのが日課でもあった

キリギリスの役が決まったこの日も、このブランコに座った
どの位の時間が過ぎたのか、隣のブランコに他のお友達が座っている事にさえ全く気が付かなかった
何時来ても隣のブランコにお友達が座ったり、満員になるなんて事は一度もなかった

『きょうはぜんぜん こがないんだね』
そう声を掛けられて、はっとそちらを見た
多分同じ歳位の女の子が、キラキラした目を更に輝かせてこちらを見ていた
小さいながらに、日本人ではない違う国から来た子供だと思った
印象的なその大きな目は、薄く透き通った青い色に光っていたからだ
『???』
その時の俺は 思い切りキョトンとした顔をしていただろうな
その女の子は、ゆっくりとそしてしっかりとブランコを漕ぎ出した
俺はただ じっとその女の子を見ていた
少しすると、オリンピックなら10.0の最高点を貰えるだろう綺麗な放物線を描きながら
ブランコからぴょんと飛び降りた
その姿に口をあんぐりと開けて 見とれてしまった俺の方に、くるっと振り返り
『いつもすごくたのしそうにみえたのに、今日はぜんぜんこがないんだね
それじゃ、ブランコさんがかわいそうだよ』
そう言って女の子は、海の方に掛けて行った
波打ち際を、大きな白い犬を連れて歩いていくおじさんに大きく手を振る
きっとお父さんなのだろうと思った
ちょっと走るとまた、くるっとこちらを見て
『あしたは元気にブランコに乗ろうね』
そう言って向こうを向いて走りだした
『わたし・・・』
風の音と打寄せる波の音にかき消された女の子の声
その日は、日が沈むまでブランコに座っていたな
家に帰ってまた叱られ苛められるのが解っているのに、そこにずっと座って居たかった

俺の大切な物語が始まった