フィールドに入ってきた新谷仁美はしきりに胸を手で押さえたり、不安そうな顔をのぞかせたり、いつもの強気で陽気な様子とは違っていた。どこか体の調子でも悪いのかとさえ思った。
オリンピックでも走っているのだし、まさか「緊張で胸が苦しい」というようなこともないだろう。いったいどうした?、そんな感じ。
体脂肪率3.1%まで絞った(とQちゃんが解説していた)という身体はやせ過ぎに見えた。1日に何度も半身浴を繰り返し痩せたそうだ。彼女は突きつめて考えすぎるタイプのように思える。ちょっと心配になる。
これで最後までもつんだろうか? Qちゃんこと高橋尚子さんも、勝負レースで絞りすぎてスタミナが切れ終盤失速、結局オリンピック代表を逃したことがあった(マラソンではないので、そこまで気にしなくてもいいのかもしれないけれど)。
圧倒的な優勝候補はティルネシュ・ディババ。美人三姉妹として有名らしい。実際エチオピアの王族の末裔かと思わせる雰囲気がある。10000mで負けたことがないというものすごい戦績だ。三人とも世界大会の陸上長距離でメダル獲得歴があるが、なんといっても彼女が最強だろう。
5000mは世界記録を保持している。5000mと10000mにエントリーしているが、2007年の大阪世界陸上以降(欠場したテグ大会を除き)、ロンドン五輪の5000mが3位銅メダルだったほかはすべて金メダル。
いかに新谷が頑張っても当分勝ち目はない。
それは新谷もわかっていて、目標はあくまで優勝ではない。事前のインタビューでは「最低目標の8位入賞は譲れない。本気でメダルを取りに行くつもり」だと言っていた。
この種目では、毎年正月の「城下町おおがき新春マラソン」に来てくれる千葉真子さんが3位に入ったことが一度だけあるが、ほとんど世界とは勝負にならない。あの福士が何度チャレンジしてもほぼ手も足も出なかった。
それでも新谷は本気だった。序盤スローペースを嫌い、自分のペースで走るべく例によって先頭に立つ。先頭を走ることはこれまでもあったが、今回は最終盤9600mまでトップを走り続けた。 絶対的な女王ティルネシュが新谷を追う作戦を継続したからであり--彼女は本当にジョギングみたいだった、息などまったく上がりはしない--他の有力選手がティルネシュ選手を追い抜くことなど決してないからだ。
この絶対ルールをハナから破っていたのが新谷仁美というわけである。まったく恐れを知らない行為とも言える。
苦しさに顔をゆがめながら踏ん張る新谷を横目に、残り400mで軽々と横に付きティルネシュが追い越して行く。他の選手も続く。あと400m、されど400m。
それとわかるほどの強い体感。大きなストライド。速すぎる脚の回転。桁違いの走力であることは明らかだ。
新谷はねばってねばって5位をキープ。見事に目標を達成した、かに見えた。しかしその表情に笑顔はまるでなく、ゴール直後1度だけ軽く首を横に振った。不満げに。
インタビューエリアに現れた新谷は泣きじゃくっていた。
メダルを取れないんじゃここで生きてる意味がないんです。
「陸上はわたしにとって仕事なんです」とも言っていた。とにかく彼女は本気だったし、命がけだったというのも間違いない。
とにかく、新谷のこの日の走りには目を奪われるようなインパクトがあった。
オリンピックでも走っているのだし、まさか「緊張で胸が苦しい」というようなこともないだろう。いったいどうした?、そんな感じ。
体脂肪率3.1%まで絞った(とQちゃんが解説していた)という身体はやせ過ぎに見えた。1日に何度も半身浴を繰り返し痩せたそうだ。彼女は突きつめて考えすぎるタイプのように思える。ちょっと心配になる。
これで最後までもつんだろうか? Qちゃんこと高橋尚子さんも、勝負レースで絞りすぎてスタミナが切れ終盤失速、結局オリンピック代表を逃したことがあった(マラソンではないので、そこまで気にしなくてもいいのかもしれないけれど)。
圧倒的な優勝候補はティルネシュ・ディババ。美人三姉妹として有名らしい。実際エチオピアの王族の末裔かと思わせる雰囲気がある。10000mで負けたことがないというものすごい戦績だ。三人とも世界大会の陸上長距離でメダル獲得歴があるが、なんといっても彼女が最強だろう。
5000mは世界記録を保持している。5000mと10000mにエントリーしているが、2007年の大阪世界陸上以降(欠場したテグ大会を除き)、ロンドン五輪の5000mが3位銅メダルだったほかはすべて金メダル。
いかに新谷が頑張っても当分勝ち目はない。
それは新谷もわかっていて、目標はあくまで優勝ではない。事前のインタビューでは「最低目標の8位入賞は譲れない。本気でメダルを取りに行くつもり」だと言っていた。
この種目では、毎年正月の「城下町おおがき新春マラソン」に来てくれる千葉真子さんが3位に入ったことが一度だけあるが、ほとんど世界とは勝負にならない。あの福士が何度チャレンジしてもほぼ手も足も出なかった。
それでも新谷は本気だった。序盤スローペースを嫌い、自分のペースで走るべく例によって先頭に立つ。先頭を走ることはこれまでもあったが、今回は最終盤9600mまでトップを走り続けた。 絶対的な女王ティルネシュが新谷を追う作戦を継続したからであり--彼女は本当にジョギングみたいだった、息などまったく上がりはしない--他の有力選手がティルネシュ選手を追い抜くことなど決してないからだ。
この絶対ルールをハナから破っていたのが新谷仁美というわけである。まったく恐れを知らない行為とも言える。
苦しさに顔をゆがめながら踏ん張る新谷を横目に、残り400mで軽々と横に付きティルネシュが追い越して行く。他の選手も続く。あと400m、されど400m。
それとわかるほどの強い体感。大きなストライド。速すぎる脚の回転。桁違いの走力であることは明らかだ。
新谷はねばってねばって5位をキープ。見事に目標を達成した、かに見えた。しかしその表情に笑顔はまるでなく、ゴール直後1度だけ軽く首を横に振った。不満げに。
インタビューエリアに現れた新谷は泣きじゃくっていた。
メダルを取れないんじゃここで生きてる意味がないんです。
「陸上はわたしにとって仕事なんです」とも言っていた。とにかく彼女は本気だったし、命がけだったというのも間違いない。
とにかく、新谷のこの日の走りには目を奪われるようなインパクトがあった。