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台湾新幹線の行き詰まりでBOTに疑問

2009年09月27日 23時51分36秒 | 経済

(開業当初の台湾高速鉄道。BOTは無理だったか)

台湾の新幹線こと、台湾高速鉄道は2007年に開業、北部の台北市と南部の高雄左営を最短90分で結び、台湾の南北を日帰り生活圏にした。出張や帰省を手軽にする一方、在来線の台湾鉄道のサービス向上や長距離バスの値下げ、国内線航空各社の経営の見直し(路線廃止、価格調整)を促し、広範囲に影響を及ぼした。
また、日本の新幹線初の海外輸出として国際的に注目を集めたばかりでなく、日本の人たちの台湾への親近感アップにも貢献、さらには開業当時の民進党政権の施政実績のシンボル的意味合いもあった。

台湾高速鉄道は「世界最大のBOT案」。BOTとはビルト・オペレーション・トランスファーで、民間が建設し、一定期間運営した後で政府に移譲する方式。政府は土地を調達して提供するだけで、建設資金はすべて民間がまかなうことから、財政負担を増やさない方式として採用された。事業体である台湾高速鉄道公司による運営は1998年から35年間(特別許可期間)なので2033年には政府に渡すことになる。

(フレッシュなイメージで好感を呼んだが・・・。オレンジ色基調のユニフォーム)

しかし、台湾高速鉄道公司は累積赤字がすでに台湾元702億元となり資本の2/3を食いつぶした形に。原因は輸送人数不足。現在、一日あたりの乗客数は延べ約8万人。これは計画時の想定18万人を大きく下回る。また、同社が経営権を握る(2038年まで)各駅での開発事業が進んでいないこと。そして財務上の原因である、建設資金の借り入れ利息と減価償却費の重い負担。開業が1年半遅れたことも影響した。(当初は2005年10月の予定)
結局、当初からの株主がこれ以上の資金をつぎ込めないとしたことから、11月にも経営が破たんする恐れが出て、9月22日の臨時役員会で同社のシンボル的存在だった殷・董事長が辞任、政府系の株主代表で執行長を務めていた欧晋徳氏が引き継ぐこととなった。政府は資本参加しないはずだったが、台湾高速鉄道公司の資金調達がスムーズに進まなかったため、国営企業や政府系企業などを通じて株式を購入、持ち株比率37.4%の実質的大株主になっていたのだ。政府系の株主代表の董事長就任で、事実上、政府が経営の主導権を握ることになった。

(新たな董事長=会長に就任した欧晋徳氏。「人生最後の任務」と決意を)

同社の負債は4000億元と伝えられ、立て直しに国民の税金が注ぎ込まれるとの憶測もある。23日、初の記者会見を開いた欧晋徳・新董事長は、負債3899億元に対して資産は4168億元あり、国に負債だけを残すのではないと説明、借り入れ金利の引き下げや原価償却期間の合理的な延長に期待した。欧・董事長によると、累積赤字702億元のうち400億元は設備の減価償却費によるもの。土木施設は150年、機械設備は60年使用可能だが、26年で償却することになっているという。
また、交通部は24日、利息と減価償却、税金を支払わない条件ならば台湾高速鉄道の利益率は香港の地下鉄や日本のJR東日本などを上回るとその潜在力を強調、台湾高速鉄道は収入増加と支出削減に取り組むと共に、利息と償却面で合理的な解決策を探らねばならないと指摘した。

馬英九・総統、呉敦義・行政院長のいずれも、台湾高速鉄道の運行をストップさせず、利用者の権益を守ることを最優先するとしており、どのような形であれ、「台湾新幹線」は今後も運行される見通しだ。しかし、無視できないのは、計画当初の輸送人数、利息負担、原価償却負担の予測が「甘すぎた」こと。殷・前董事長は辞任前の取材に対して、「景気が悪くなり、収入があがらなかった。甘すぎた」と答えている。

(高雄新交通システムよ、お前もか!?)

これでにわかにクローズアップされたのが、台湾南部・高雄の新交通システム。地下と地上を走る通勤電車のようなものだが、これが「第二の台湾高速鉄道」になるというのだ。2008年4月に開業して以来、年間25億元の損失を出しているという。これもBOT方式で建設されたものだが、事業体の高雄捷運公司の株主構成では政府系が55%を握り、運営を維持するかどうかは政府の態度次第。減価償却や権利金負担を除いても毎月8000万元の赤字が出ている。現在の一日当たりの輸送人数は10万人足らずで、想定した36万人にまったく届かない。ここでも輸送人数の見誤りか。

そして、台北市でのドーム型球場建設計画も問題に。台北市は2006年にBOT方式での建設契約を終えた。その後、近隣の反対などでのびのびとなっていたが、今年いよいよ着工の見通しがたったところだった。しかし、今月になって監察院が規定違反と指摘したことを受けて台北市が作業をストップ、事業体の遠雄巨蛋事業公司ともめている。理由は行政院公共工程委員会の専門知識不足で台北市政府が事業体に対して妥協する結果を招いたこと、ドームの設計が国際基準に合わない恐れがあることなど。
計画では4万人収容可能な体育館(野球、コンサート、見本市)とショッピングセンター、ホテル、事務所ビルを建てるはずだったが不透明になった。監察院の指摘はともかく、心配なのはドーム型球場を作って野球の試合に人が集まるのかということだ。現在、台湾のプロ野球は一試合当たりの観客数が4000人程度。台湾のプロ野球は各試合での収入と支出が主催チーム(一塁側)に帰属する。台北市のドーム型球場を借りるコストを考えると、ここで試合をしようとする球団はあるのか。試合をしたところで、全試合テレビ中継される中で、どれだけの観客がやってくるのか。

BOT方式は成算があってはじめて実現するはずのもの。台湾高速鉄道の問題で、台湾では「BOT方式に適したプロジェクトと適さないプロジェクトがある」という議論も起きている。いずれにせよ、立派な大人が集まり、専門家も加わって進められる大規模なプロジェクトである。「見込み違いだった」との言い訳を笑う子供たちの声が聞こえてくる気がする。(U)


 



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