台湾の南東部、台東と言えば、手付かずの自然と原住民族の人たちが多く住むことで知られる。ここに「都蘭国小」がある。「都蘭」は地名、「国小」というのは小学校のこと。ここの名前の入ったレトロ調カバンはここ数年、文芸界の人たちの間でちょっとしたブームになっていた。(上の写真は濃い緑色で男子生徒用。女子生徒用は赤色。写真:台湾国際放送)静かな「流行」で知らない人も多く、昨年をピークにブームは一段落したとされていたが、先月から再び人気が再燃している。馬英九・総統の夫人、周美青さんが使ったからだ。
周美青さんは4月26日に長女の馬唯中さんと母娘で台東の都蘭を訪れて休暇を楽しんだ。同行した徐璐さん(新聞記者やテレビ局社長を務めたメディア人)らの薦めで周美青さんと馬唯中さんはそれぞれ「都蘭国小」のカバンを購入。ここまでは一部の関係者しか知らなかったはず。しかし、4月29日、馬唯中さんがアメリカに戻るのを見送りに台湾桃園国際空港に現れた周美青さんの背中にこのカバンがあったのをメディアが見逃すはずがない。一気にこのネタに飛びついた。テレビで大々的に報道され、「都蘭国小」のカバンはそれまでの「文芸界」での流行から「全国区」の人気に。5月初めには品切れで一時入手困難になった。
(写真は4月29日、中央の周美青さんが肩からかける赤いベルトがカバンのもの。左は馬唯中さん。黒い袋の中に「都蘭国小」のカバンが。:CNA)
なぜ、文芸界で流行したのか。周美青さんが使うとなぜ人気となったのか。そもそもこのカバンは何なのか。
2003年8月、個性的な活動で「伝説的な人物」と呼ばれたある俳優が都蘭の海に身を投げた。彼の名は陳明才。現場には彼が愛用したこのカバンが残されていた。陳明才は自ら命を絶つ前の数年、台東の原住民族の人たちのために力を尽くしたという。原住民族の人たちの演劇の発展を目指し、都蘭の製糖工場の空き地を複数の芸術家が運営する芸術文化パークにした。また、都蘭の美しい自然生態保護のために奔走した。しかし、理想を追い求める彼に現実は厳しく、自殺する半年前から彼の携帯電話、健康保険などは支払いが出来ないため停められていたという。彼は都蘭への愛着をカバンで表現していたのか。
文芸界の人たちは彼を偲び、その遺志を忘れないためにこのカバンを持つようになった。政府や社会が文芸活動に冷たくしていることへの無言の抗議の意味が込められているという人も。もうひとつ、流行した原因は「都蘭」という言葉のシャレ。都蘭は原住民族の言葉から来ている。意味は「石が多く積んであるところ」。しかし、発音すると台湾最大の方言、台湾語の「賭爛」に通じるところがある。この「賭爛」は、いわば「F」で始まる英語での放送禁止用語のような意味で、うまくいかないときに言ってみたり、人をののしるときに使う。「無言の抗議」に「人をののしる言葉」が加わって批判的意味合いがいっそう強くなった。
そのカバンを総統夫人である周美青さんが使った。周さんは元キャリアウーマン、中性的なファッションと率直な物言いで知られる。馬英九・総統の、文芸界に関する政策にダメ出しか?とかんぐられたが、周さんはノーコメント。実際のところは周さんのみが知るところである。(U)
買っておけば良かったかな・・・
周美青さんは台湾元400元(日本円約1150円)で買ったと報じられていますが、地元では300元ぐらいらしいです。値段にもよりますが買っておいてもいいかも?ただ、陳明才さんのことを想うとこれを使うには覚悟がいる。冗談には出来ない気がしますよね…。