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豊穣な色彩が預言する、ボナールの絵画

2011-02-17 23:34:14 | アート
春のやさしく香気を含んだ風のような、ピエール・ボナールの絵。
彼の絵を見ていると、色がもたらす幸福を実感する。
そこでは、形は色に侵食され、光と空気に溶け込んでいく。
生の喜びを分かち合える一体化の至福に、画面の中から呼びかける声が聞こえてくるようだ。
天国とはこのように、暖かく芳しく柔らかく光に満ちて、個も全も無く、一瞬と永遠が溶け合う、無にして全の世界なのだろうと、ボナールの絵は、囁き語りかける。

そうだ、ボナールは、美術史のジャンルで「ナビ派」に分類されている。
「ナビ派」の「ナビ」とは、ヘブライ語で預言者の意味。
まさしく、ボナールは、色彩という言語を使って預言を語る使者なのだ。
最上の幸福とは、命あるものが孤独ではなく、慈愛と友愛に満ちた寛容の世界で、全ての恐れ(孤独・排斥・無理解・否定・滅亡)がない安心を得られることだろう。

彼は、あえて宗教画を描いたことは無い。
画題は、日常のありふれた光景だ。
愛妻と、共に暮らす犬や猫、身近な親しい人、自分の住居、庭の風景など。
しかし、彼の絵は、深い慈しみの目でもってそれらを画面に描き出すときに、色が発する垣根の無い言葉を感じ、描く対象を愛の世界に定着しようとしたのではないだろうか。
こうして、色の言葉を持って福音を説いたのだろうと想像する。

ボナールの絵は、寒く厳しい冬から、暖かい光で包まれた命が萌え出る春の幸せを、観るものに届けてくれる。
さらに、その先に現れる天国を内包して。