空の色

Ricaの気まま日記と詩の世界

『この胸いっぱいの愛を』:レビュー(バレ有り)

2005-11-25 23:21:36 | ドラマ・映画(ネタバレ有もあり)
『この胸いっぱいの愛を』
   もし、人生でひとつだけ
   やり直すことが
   できるなら…

監督:塩田 明彦
脚本:鈴木 謙一、渡辺 千穂、塩田 明彦
原作:梶尾 真治
出演:
  • 鈴谷 比呂志:伊藤 英明
  • 青木 和美:ミムラ
  • ヒロ:富岡 涼
  • 布川 輝良:勝地 涼
  • 臼井 光男:宮藤 官九郎
  • 角田 朋恵:倍賞 千恵子
                他…
    [あらすじ]
    大手百貨店に勤める鈴谷比呂志は、
    自社の企画であるお弁当フェアの担当を任され、
    出張で、北九州は門司を訪れる。
    比呂志は9歳から1年間を母の元を離れ、
    ここ、門司に住む祖母の旅館で過ごしたのだった。
    その旅館も変わらぬたたずまいだった。
    しばし、あの頃と変わらない文字の街並みに見とれる比呂志。
    と、その時、一人の少年が目の前に飛び出してくる。
    目が合う少年と比呂志。
    言葉の出ない比呂志。それはなんと20年前の自分だったのだ。

    困惑しながらある喫茶店で、何度もカレンダーや新聞を確認する。
    そこには1986年と書いてあるのだった。
    動揺する比呂志。
    そこで同じ羽田発、福岡行きの244便に乗り合わせていた、
    若いヤクザの布川輝良と出会う。
    そして、二人は海岸で布川は比呂志にここが1986年であることを話す。
    携帯電話も無い世界。
    二人はお互いの報告をするため、海岸ハズレの赤いくいの下に
    手紙を入れたビンを埋めることを約束して別れた。

    途方にくれる比呂志。
    しかし、突然、ある事を思いだし、旅館『鈴谷』へ走り出す。
    思い出したのは幼少時代、祖母、椿の誕生日にケーキを焼こうとして、
    火事になってしまったことだった。
    慌てて、旅館の厨房に駆けつけると、消火器で火を消し止める比呂志。
    旅館の住人はその突然の訪問者に驚きを隠せなかった。
    それをきっかけに比呂志はスズキヒロアキとして
    旅館で住み込みで働くことになった。
    しかし、自分の気持ちがよくわかる比呂志にヒロは反発してばかり。

    それから、ヒロの部屋で暮らすようになった比呂志は
    部屋の片隅に置かれているバイオリンを見つける。
    遠い記憶の糸を手繰り寄せながら、バイオリンを弾く比呂志。
    そこへ突然、若い女性が戸を開けてやってくる。
    彼女の名前は青木 和美。
    比呂志が幼い頃、孤独な学校生活の心の支えとなっていた女性で、
    密かに憧れていたのだった。
    和美は東京の音大を首席で卒業し、プロも夢ではなかった。
    それでも彼女は門司へと帰ってきたのだった。

    和美と比呂志は将棋仲間で、将棋を教えてもらう代わりにと、
    和美は比呂志にバイオリンを教えていたのだ。
    しかし、彼女が門司へ戻ってきた理由、これからの運命。
    彼女はこの先、難病で手術をかたくなに拒み、なくなってしまったのだ。
    それを知っている比呂志はいたたまれない思いでいっぱいだった…。
    しかし、それは今のヒロにはわからない。

    一方、布川はとある幼稚園で一人の女性に出会う。
    それは自分を生んで間もなく無くなった会うはずの無い母、靖代だった。
    それから間もなく布川は情報交換のため、
    あの比呂志と再開する。
    そこへ、頼りなさげな一人の男、臼井 光男がついてやってくる。
    彼もまた224便に乗り合わせていたのだ。
    これで3人。
    しかし、臼井はもう一人、224便に乗り合わせた盲目の老女が
    この世界にいたのだと言う。
    彼女の名前は角田 朋恵。
    臼井は彼女に20年前にタイムスリップしたらしいことを話すと、
    彼女は不思議なことにとても喜んだという。
    それは朋恵は20年前に最期を看取ることの出来なかった、
    最愛のパートナー、盲導犬のアンバーに会うことが出来るからだった。

    朋恵と一緒に盲導犬アンバーに会いに行った臼井は比呂志と布川に
    そこで起こった不思議な現象について話し始める。
    朋恵と共にアンバーを探すことになった臼井。
    ある盲導犬施設でアンバーを見つけ、感動の再開を果たす彼女とアンバー。
    しばし、その光景を見守っていた臼井だったが、
    その直後に朋恵が視界が歪むようにぐにゃりと揺れ、
    忽然と姿を消したのだという。
    それから臼井はある仮説を立てる。
    20年前に戻ってきた我々はかつてやり残したあることに、
    決着をつけることが出来たら元の世界に戻れるのではないか、と。
    全くの茶番だと相手にしない布川に対し、
    自分のやり残したことをはっきりと認識できた比呂志。
    それから3人はまた自らの道へと別れていく。

    そして、比呂志は思い出す。
    自分が出来なかった事、それは和美を救うことができなかったこと。
    そのため、ヒロに伝えなければならないことがあると感じた。
    比呂志はヒロにある約束をするため、将棋で勝負をする。
    ヒロが勝てば、給料の1週間分を渡す、負ければ"人生改造の10か条"を守ること。
    しかしそこには9条しかかかれていなかった。

    ある日、和美は比呂志をデートに誘う。
    自転車に二人乗りをし、つかの間の楽しい時間を過ごす比呂志。
    そして、二人はある場所に向かう。
    花に彩られた坂道を登る途中、和美はふとよろけてしまう。
    それでも坂の頂上まで上りきると、彼女はおもむろにバイオリンを出し、
    比呂志の前で弾きはじめた。
    素晴らしい演奏に聞き入る比呂志。
    演奏に拍手を送ると、和美はこれが弾き収めなのだと言う。
    そして、比呂志に自分が病気であること、もうすぐ死んでしまうことを話す。
    知っているのに精一杯知らないふりをする比呂志。
    そして、和美はその場で気を失い、倒れてしまうのだった。

    病院から比呂志は旅館に電話をして、和美の様子を椿に話した。
    和美の父、保は和美の余命があと3ヶ月であることを告げる。
    思わず言葉に出して驚く椿。
    そこへヒロが居合わせた。
    和美の命が間もなく終わってしまうことを知ったヒロは、
    たまらなくなってウチを飛び出してしてしまう!!
    ヒロがその時、どうしたか、それをわかっていた比呂志は
    必死で自分の記憶を頼りにヒロを探す。
    すると、ヒロはある船着場でフェリーを待っていた。
    幼い頃、比呂志はあまりのショックに耐えられず、
    そのまま東京の母の元へ帰ってしまったのだった。
    それから間もなく和美は死んでしまったのだと言う。
    二度と同じ事を繰り返さぬよう、比呂志はヒロに10か条目を伝える。
    「絶対に諦めないこと」
    泣いて言うことを聞かないヒロを説得し、
    比呂志は無事ヒロを旅館に連れ帰ることに成功する。

    しかし、どうしていいかわからない比呂志は布川に相談しようと、
    あの海岸で手紙を入れるビンを掘り当てるが、手紙は入っていない。
    相談したい時にその相手はいない。
    その時ふと、比呂志は海岸に焼け焦げた何かを見つける。
    引き寄せられるように近寄ると焦げ目から見える見覚えのある紙切れが…。
    それを引っ張り出してみると、それは搭乗券の半券だった。
    「スズタニヒロシ」と書かれた半券は焼け焦げている…。
    なぜ?ここに自分の乗っていた航空機の座席が?しかも焼け焦げて?
    その時、ふと比呂志の前へ現れた布川。
    手には鋭利なナイフを持ち、突然、比呂志の腹部を刺す!
    よけきれず、身をよじる比呂志。
    しかし…、なぜか傷はできない…。
    その瞬間、蘇える炎の海と化した旅客機の記憶。
    不思議そうな顔をする比呂志に布川はこう告げる。
    自分達はあの飛行機で事故に遭い、もう死んでしまっているのだと…。
    布川は先にそのことに気がつき、比呂志に伝えに来たのだった。
    その場で崩れ落ち、愕然とする比呂志…。

    それから間もなく、和美の容態が悪化し、彼女は入院をしてしまう。
    病気のせいでバイオリンも弾けなくなってしまった和美は
    生きる気力の全てを失っていた。
    もし、手術を受けて助かったとしても、後遺症の影響で
    一生まともにバイオリンは弾けなくなるのだと言う。
    それでも比呂志は諦めず、ヒロと一緒に和美を説得する。

    ある日、大浴場の掃除をしていたヒロは比呂志にあるものを見せる。
    それは東京の楽団のコンサートのチケットだった。
    ヒロはそれを和美と行くためにこっそりと椿に買ってもらったのだ。
    そして、ヒロは比呂志にそのチケットを渡す。
    「俺、兄ちゃんも姉ちゃんも好きだから、一緒に行ってきてよ。
    好きなんでしょ?姉ちゃんのこと…」
    比呂志は熱い思いでいっぱいだった。
    そして彼はとんでもないことを企画するため、
    東京の楽団の有名指揮者間宮 浩介に命がけの頼みごとをする。
    そして、比呂志は和美を父、保とコンサートに来るよう誘う。

    その頃、布川は幼稚園を辞めてしまった靖代と偶然、
    ラーメン屋で再開し、彼女に問う。
    誰が親かもわからない子供を生んでもいいことなんてない、と
    布川は靖代に子供を生まない方がいいと言うのだが、
    靖代はもう、動いているから、と布川の手を子供のいる腹部に当てる。
    そんな靖代に布川はゆっくりと話し出す。
    この子を産んでもろくな大人にはならないし、
    大変な難産となって、自分の命さえ落としてしまうのだと。
    それでも靖代の決意は代わらないことを知り、
    布川は靖代がとても強い女性であることを知る。
    「俺を産んでくれて、ありがとう。母さん」
    そして、布川の姿はゆっくりと1986年から消えてい行った…。

    臼井は和美と比呂志が歩いた、花の咲き乱れる坂道を訪れる。
    そこでは無残にも壊された花壇をたった一人で片付ける男の姿が。
    臼井が手伝いはじめると、男は花を作ったわけを話し出す。
    そして、近所の中学生が花を壊したことも。
    臼井はハッとする。
    「知ったんですか…」
    男はゆっくりと穏やかに話す。
    「その中学生も受験で精神が参っているのだろう、
    だから、花を壊されても、その中学生自身もつらい思いをしているのだ」と。
    臼井の目から涙が零れ始める。
    「ずっと、ずっと謝ろうと思ってました」
    そして、臼井が涙ながらにその男に謝罪を述べると、
    彼の体はゆっくりと消えていき、
    彼が持っていたはずの鉢だけが地面の上でがしゃんと壊れた…。

    コンサート当日、比呂志とヒロは客席に並んですわり、
    和美と保がやってくるのを待つ。
    やがて真っ黒なドレスに身を包んだ和美と保がやってきて、
    オーケストラの演奏が厳かに始まる。
    ゆっくりと瞳を閉じ、聴き入る和美。
    そして、最後の曲になると指揮者の間宮が徐に壇上から降り、
    客席にゆっくりと語りかけるのだった。
    「今日、ここに無名ではありますが、優れたバイオリンの才能を持った、
    お客様がいらしています。その名は青木和美さん。
    ステージへどうぞ!!」
    パッとスポットライトが和美を照らし出し、はっとして和美は
    比呂志の方を見つめる。

    しばらく考え込む和美だったが、
    やがて、保にゆっくりと促されるようにステージに上がる。
    バイオリンを渡されると引き込まれるように神経を集中する。
    間宮とひと呼吸合わせ、和美の手が艶やかな音を奏で出す、
    と、手が痺れ、うまく弾けない。
    ざわめく会場、その空気に飲まれそうになる和美。
    それでも間宮はゆっくりと目で合図し、再び指揮を執る。
    すると、和美の手から美しい音色が流れ、見事、1曲を弾ききる。
    会場からは割れんばかりのたくさんの人々の拍手が響き、
    感無量となった和美は思わず、その場を走り去り、
    舞台から姿を消してしまう。
    そして和美を慌てて追いかける比呂志。

    すると、通路の壁に体を傾け、泣いている和美の姿があった。
    比呂志が駆け寄ると、和美は嗚咽を堪えきれず、叫ぶ。
    「もっと、生きたい!!」
    比呂志の後方からヒロが見守っている。
    ヒロは比呂志と目が会うと、ゆっくりと頷いた。
    そして、比呂志は泣き続ける和美をゆっくりと抱きしめた…。

    それから、20年後の2006年1月21日。
    ある児童バイオリン教室で、ある女性が子供達にバイオリンを教えている。
    あの頃から、年をとり、髪もパーマをかけているが、
    その姿は確かに、和美だった。
    和美はあの時、比呂志の説得で手術を受ける決意をし、
    無事、その命を取り留めたのだ。
    術後、目を覚ました瞬間に和美はとてつもなく大きな恐怖に襲われた。
    しかも、重度の後遺症が残り、自由の聞かない体で、
    昔のようにバイオリンを弾くことはもちろん、日常生活にも苦労する和美。
    ツライ思いをするたびに、生きていることを恨むが、
    そのつど、比呂志が「生きろ」と言っている姿を思い浮かべるのだった。

    そして、224便の最後の犠牲者4名の遺体が確認され、
    新聞で和美はあの時の男、比呂志が、ヒロが死んでしまったことを知る。
    驚きでテーブルの下に落としたみかんが転がる…。
    そのみかんを拾うことさえも彼女にとっては他人より難しい。
    それでも、この世界で彼女は生きなくてはならないのだった、
    逝ってしまった比呂志の思いを抱えて…。
    そして、伝えたい、「この胸いっぱいの愛を」

    ~エンディング~
    真っ白な教会で人々と談笑する臼井。
    側にはアンバーをなでる朋恵がソファーに座っている。
    その先の階段には子供達に絵本を読んで聞かせる、布川の姿が。
    絶えず聞こえる楽しそうな子供達の声。
    そしてその階段を登る10歳の和美とヒロ。

    他の子供達がはしゃぎ二人の間を駆け上がってゆく。
    共に階段の先にあるバルコニーに向かうと、
    そこには24歳の和美と30歳の比呂志の姿が。
    ゆっくりと唇を重ねようとする二人。
    慌てて二人が振り向くと、子供達が歓声を上げながら去っていく。
    子供達の後ろを追いかけて走り去る10歳の和美とヒロ。

    白い、白い、バルコニーには比呂志と和美の姿だけ。
    もう一度、ゆっくりと唇を重ねる二人の姿がそこにはあった…。
    -------------------------------------------------

    [作品レビュー]
    全体的に穏やかなストーリーでした。
    ストーリーもタイムスリップという非現実的な題材をより、
    リアルな世界で表現することによって、
    作品の世界にすんなり入っていくことができました。
    物語にしっかりとした筋があり、そこにちりばめられた
    ストーリーたちがちゃんと存在感があり、
    1本の筋をうまくサポートしています。
    とても好きなつくりです☆

    作品中、ミムラさんのバイオリンを演奏する姿はとても素敵です。
    長い真っ黒な髪とサバサバした役柄の和美が奏でるバイオリンは
    とても繊細でその外面とは違う、深い和美の心の中を表現しているようで
    観ていてとても引き込まれました。
    役柄を真っ直ぐに演じてらっしゃってとても素晴らしいと思いました。

    そして、またもや塩田監督にやられてしまいました~(>_<)
    『黄泉がえり』でもそうでしたが、
    この作品はそれとはまた違った異質のストーリーではありますが、
    トリッキーな創りにまたもやはめられました!

    この作品はタイムスリップというファンタジーが描かれています。
    ただ、タイムスリップはストーリーの流れ上、必要な要素ではありますが、
    そこに核として存在するいくつかのストーリーにはタイムスリップという
    ファンタジーとは裏腹にリアルな世界が描かれているんです。
    その緻密な構成としっかりとしたサイドストーリーの描き方に感銘を受けました!

    ラストシーンでは『タイタニック』のラストを彷彿とさせますが、
    あのシーンがあって、心の中がほっと温かくなる最後になります。
    ただただ、和美が生きている、という事実だけ残ると、
    その世界にはもう比呂志はいないわけなので、
    とても痛々しい、切なさだけが胸に残ってしまいますが
    時間がずれていても、二人の想いが繋がったんだと思えました。
    なので、とても素敵なラストシーンだと思いました。

    私も過去にやり残した事があって、それを思い出したりしました。
    この物語の中ではそれはまさに一生に一度、一つだけ、という制限付です。
    それでも、1つだけ、これだけはという出来事が思い浮かんできて、
    昔を思い出しながら観てしまいました(^^;
    そういった意味でも、この作品はとても共感できるものでした。

    余談ですが、この作品上映前に『三年身籠る』の予告が流れて、
    大画面で西島さんを観ることが出来ました(^-^)
    頑張って足を伸ばして観に来て、こんなご褒美が付いてるなんて嬉しかったです♪
    しかも、この作品、音楽を担当しているのは『仔犬のワルツ』で知った、
    千住 明さんでした。
    なんだか西島さんを思い出させる一日でした(^-^)

    自分の中にももし、やり残したことがあるとしたなら、
    それを叶えたいという思いと、今を精一杯生きるという思いと、
    相反する感情を同時に受け止めさせてくれる作品でした。
    -------------------------------------------------
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