トランプ前大統領は8日の記者会見で、大統領がFRBに「発言権を持つべきだ」
と話した(8日、米南部フロリダ州)=AP
【ワシントン=高見浩輔】米共和党のトランプ前大統領は8日、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策運営に対して大統領が発言権を持つべきだと主張した。利下げを求めても政策に関与できなかった前政権での経験を踏まえたものとみられる。政権奪還が実現すれば中央銀行の独立性は試練を迎える。
「大統領は少なくとも発言権を持つべきだと思う。そう強く思う」。南部フロリダ州にある邸宅マール・ア・ラーゴで記者会見を開いたトランプ氏は、こう強調した。FRBは「多くのことを間違えてきた」と糾弾した。
トランプ氏のFRB批判は従来からあった。今回の発言が際立つのは、金融政策決定の仕組みに大統領を組み込もうというトランプ氏の側近らの計画が水面下で噂されるためだ。
4月に米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが報じた側近らの草案は、FRBをホワイトハウスが審査できるようにしたうえで「大統領を政策金利を決める実質的なメンバーと認める人物」を次期FRB議長に据える計画だ。報道直後はトランプ氏の選挙陣営が否定的だったが、今回は本人が計画を認めるような発言をした。
パウエル議長の任期は2026年5月まで。トランプ氏は米ブルームバーグとのインタビューで「彼が正しいことをやっている場合は」と条件を付けて途中解任を試みない考えを示したが、同時に足元のドル高は製造業の競争力を低下させていると指摘した。自身が政権を取れば積極的な利下げを求めると示唆したものだ。
大統領が金融政策に関わると何が問題なのか。よく例に出るのが72年の大統領選だ。当時のニクソン大統領は再選のため景気浮揚を狙ってFRBのバーンズ議長に金融を緩和的にするよう圧力をかけた。緩くなった金融環境は物価の高止まりを招き、米経済は約10年に及ぶ長期の高インフレに苦しんだ。
8日は、ニクソン氏がウォーターゲート事件を受けて辞任を表明した日のちょうど50年にあたる。
反エリートを標榜する選挙戦略や不祥事の後に起きた大統領の免責特権を巡る議論など、ニクソン氏とトランプ氏には重なる部分が多い。
ニクソン氏の辞任後、米連邦議会は強すぎた大統領権限の縮小に動いたが、トランプ氏の公約「アジェンダ47」は権限の再拡大を掲げている。
トランプ氏は前政権でもFRBの「操作」を画策した。FRBの独立性に否定的な自身の経済顧問ジュディ・シェルトン氏を20年にFRB理事に指名した。金本位制への復帰といった彼女の特殊な主張には米議会で共和内からも慎重意見が広がり承認は見送られた。
いまの共和党は当時よりトランプ色が強まっている。11月の選挙で共和が上院の過半数をとれば、トランプ氏の指名人事が実現する公算が大きくなる。
「私は大金を稼いだ。非常に成功した。FRB議長になるような人よりも優れた直感を持っている」。8日の記者会見で、トランプ氏はこううそぶいた。
日経記事2024.08.08より引用