「史上最も不人気な候補同士の戦いだ。米国民は嫌気が差している」。
11月の米大統領選に無所属で立候補するロバート・ケネディ・ジュニア氏(70)は6月15日、西部ニューメキシコ州アルバカーキでの選挙イベント後、第3の候補として「当選」を目指すと宣言した。
ケネディ氏はロバート・ケネディ元司法長官の息子で、ジョン・F・ケネディ元大統領のおい。
選挙運動では父や伯父の映像を使用し「ケネディ」の名前を最大限に活用している。元大統領が1960年の大統領選で使ったヒスパニック向けのスローガン「ビバ(万歳)ケネディ!」を復活させ、民主党離れが進むヒスパニック票を狙っている。
新型コロナウイルスのワクチンを巡る陰謀論めいた発言などでケネディ家からは背を向けられた。
支持するのは、民主党のバイデン大統領にも共和党のトランプ前大統領にも投票したくない若者らだ。
スティーブン・ストーリングズさん(27)は南部バージニア州のケネディ陣営にボランティアとして加わった。2016年はトランプ氏に投票したが、20年はどちらも支持する気になれず棄権した。
「ペロー旋風」の再来はあるか
ケネディ氏はアリゾナ、ネバダなどの激戦州で10%近い支持率があり、1992年の大統領選で19%の票を獲得して選挙戦に影響を与えた実業家、ロス・ペロー氏の再来との声が上がっている。
大富豪でアメリカンドリームの体現者として人気があったペロー氏は、共和党のブッシュ大統領(第41代)と民主党のクリントン候補に対抗する第3の候補として出馬して旋風を起こした。
当時の経済状況を厳しく批判したペロー氏が、現職だったブッシュ氏の再選失敗につながったとの見方がある。
大富豪のロス・ペロー氏㊥は1992年の大統領選で旋風を起こした(1992年)=ロイター
ペロー氏だけではない。2000年の大統領選では緑の党のラルフ・ネーダー氏が出馬し、大統領選の勝敗を決めたフロリダ州で約10万票を獲得した。
同州で勝利した共和党のブッシュ氏(第43代)と民主党のゴア氏の票差はわずか537票で、ネーダー氏がゴア氏を敗北させたとの恨み節が民主党には根強い。
ヒスパニック票がケネディ氏に
今回の大統領選も一部の有権者が第3の候補に投票すれば、僅差で決まる激戦州の勝敗が変わりうる。民主党、共和党のどちらにとって不利に働くのかは意見が分かれている。
一時は民主党からの出馬を目指したケネディ氏の政策は、環境保護や最低賃金の引き上げ、企業増税など民主党・リベラル派と近いものが目立つ。
一方で、対ウクライナ支援の停止、反ワクチンなどの共和党・保守派の主張と重なるものもある。
それゆえ、バイデン氏、トランプ氏の両陣営が選挙戦の「スポイラー(妨害者)」として警戒してきた。
米キニピアック大が5月に実施した世論調査では34歳以下の若者層の22%、ヒスパニックの24%がケネディ氏を支持した。若者層のうち、バイデン氏、トランプ氏のいずれも支持しない「批判票」は3割に上った。
中東問題も波乱要因に
第3の候補はケネディ氏だけではない。6月8日、首都ワシントンのホワイトハウス前で若者を中心に数千人が集まったパレスチナ支援のデモ。
「緑の党」の大統領候補で医師のジル・スタイン氏(74)が登壇し「パレスチナに自由を!大量虐殺を阻止しよう!」と拳を振り上げた。
パレスチナ支援のデモで演説するスタイン氏(6月8日、米首都ワシントン)
スタイン氏が大統領選に出馬するのは2012、16年に続き3度目だ。民主党を中道すぎるとみる左派の受け皿になってきた。
脱炭素社会と雇用創出を目指す「グリーン・ニューディール」の実現と、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザでの軍事行動反対を前面に押し出し、バイデン氏を嫌う左派の票が一部向かう可能性がある。
二極化が台頭の土壌に
第3の候補はなぜ生まれるのか。バルドスタ州立大のバーナード・タマス准教授は「歴史的に第3の候補の台頭を生んできたのは党派の二極化と、社会を分断する問題の存在だ」と指摘する。
民主党、共和党の分断が深い現在の米国は「第3党が台頭する格好の土壌がある」と話す。
二大政党の候補は中東問題や地球温暖化、物価高などの若者の関心が高いテーマに答えを示しきれず、感情的に批判をぶつけ合う。
泡沫(ほうまつ)であるはずの第3の候補が、批判票の受け皿となることで選挙戦をかく乱する。そんな状況に入りつつある。
石川潤、鳳山大成、坂口幸裕、飛田臨太郎、芦塚智子、八十島綾平が担当しました。
2024年に実施されるアメリカ大統領選挙に向け、現職のバイデン大統領やトランプ氏などの候補者、各政党がどのような動きをしているかについてのニュースを一覧できます。データや分析に基づいて米国の政治、経済、社会などに走る分断の実相に迫りつつ、大統領選の行方を追いかけます。
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日経記事2024.07.03より引用