6月30日のフランス国民議会(下院)選挙の1回目投票は極右と左派連合の台頭が鮮明となった。
極右は予想よりも勢いが鈍かったが、代わりに左派が伸びた。極右大勝を心配した市場関係者には一安心だが、事はそう単純ではない。
フランス政治の分断は深まり、政権樹立は困難を極める可能性がある。国際金融市場は、フランス国債急落(金利急騰)をきっかけとした混乱、「フレンチショック」に注意が必要だ。
「タンゴを踊るには2人必要だ。パリで政治的な行き詰まりが長引けば、金融不安と欧州経済へのダメージは大きくなるだろう」。
英クイーン・メアリー大学のブリジット・グランビル教授は6月下旬、言論サイト「プロジェクト・シンジケート」への寄稿で、投資家は左右台頭・中道惨敗で多数派形成が難しくなる政治の空白化を最も懸念すべきだと指摘した。
選挙の最終結果は7日の2回目の投票(決選投票)まで分からないが、調査会社の議席予想は極右の国民連合(RN)が240〜270(定数577)。
この場合、RN単独では政権を担うのが難しい。一方、左派連合の新人民戦線(NFP)は180〜200議席。与党の中道連合は解散前の250から60〜90まで減るという。
極右と左派が唯一折り合える政策は財政拡張だ。グランビル氏は寄稿で、「フランスは将来、財政政策を再開する可能性が高い」と指摘した。日本はフランスの中長期債を25兆円(海外の中長期債の約8%)保有している。
欧州連合(EU)は加盟国に、債務残高を国内総生産(GDP)比で60%以下、財政赤字は同3%以下に抑えるという財政ルールを課している。
しかし、国際通貨基金(IMF)のデータによれば1999年のユーロ誕生以降、フランスは2つの基準をクリアしたことがほとんどない。
24年予想は財政収支が4.8%の赤字、債務残高は111%。財政赤字はスロバキア(5.9%)に次ぐ多さ、債務残高はギリシャ(158%)、イタリア(139%)に次いで高い。
それにもかかわらず、安定通貨ユーロを手にし、資金繰りに困ることはなかった。「大きすぎてつぶせないフランスの特権」(グランビル教授)だ。
左右いずれにせよ、新政権がこうした「特権」をみすみす手放すとは考えにくい。しかし、EUの盟主の一国であるフランスの政治空白が長引けば、ユーロの信用は傷つき、結果的にフランスは特権を損なう可能性は高まる。
フランスの長期金利上昇の結果生じるユーロ安は、為替トレーダーにとって重大な転換点の到来を示唆する可能性もある。
金利差を重視する取引(キャリートレード)から政治や経済の安定といったファンダメンタルズを重視する取引(質への逃避)へのシフトだ。このことは円売り・ドル買いへの新たな動機づけとなる。
インフレと格差拡大を背景に欧州で吹き荒れる中道エリートへの反逆の嵐に日本もいずれ飲み込まれる可能性がある。政治不信を背景とした金利上昇と通貨安の悪循環は日本にとっても大きな火種だ。
〔日経QUICKニュース(NQN)編集委員 永井洋一〕
日経記事2024.07.01より引用