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NICT、スマホにも搭載可能な小型原子時計システムを提案

2024-06-19 14:59:01 | 科学技術・宇宙・量子・物理化学・生命・医学・生物学・脳科学・意識

圧電薄膜共振子を用いた発振器

 圧電薄膜共振子を用いた発信機(出所NICT)


情報通信研究機構(NICT)、東北大学、東京工業大学による研究チームは、周波数逓倍処理を必要としない小型原子時計システムを共同開発した(ニュースリリース)。

実用化されれば、人工衛星や基地局等に搭載が限定されていた原子時計がスマートフォンなどの汎用通信端末に搭載できるという。

 

 

CPT技術の概要

  CPT技術の概要(出所:NICT)
 
 
 
原子時計は、ルビジウムなどのアルカリ金属元素のエネルギー準位差から得られる共鳴現象に外部のマイクロ波発振器を同調させるように制御することで、高い安定度をもつ周波数標準信号を生成する。
 
マイクロ波発振は、低周波の水晶発振器を基に周波数逓倍処理を行って得るのが一般的だが、これを原子時計に採用するとボード面積と消費電力の大部分をマイクロ波発振器に費やすことになる。
 
 
米国を中心に開発が進む小型原子時計は、原子共鳴をより簡易に取得するCPT(Coherent Population Trapping:変調されたレーザー光と気体状態のアルカリ金属元素を相互作用させて原子の共鳴を測定する)技術を用いて作製する。
 
近年では、一部の海洋探査などに利用され始めたものの、スマートフォンやワイヤレス・センサー・ノードのような汎用無線端末に採用する部品には、コスト・サイズ・消費電力の観点から遠く及ばないという。
 
 
小型原子時計の小型化と低消費電力化のボトルネックとなっているのが、マイクロ波制御系。
 
特に外付け部品の水晶発振器やPLL(Phase Locked Loop)を用いた周波数逓倍処理がボード面積と駆動電力の大きな消費源だとする。
 
 
 
小型原子時計の動作概略とマイクロ波発振器の構成

 小型原子時計の動作概略とマイクロ波発振器の構成
(出所:NICT)
 
 
 
今回研究チームは、電界をかけると歪み、歪ませると電圧を生じる圧電薄膜の厚み縦振動に着目した。
 
薄膜の厚み縦振動は、高い周波数で機械共振を得ることが容易で、ギガヘルツ(GHz)帯にある原子共鳴の周波数に対してそのまま同調動作できる。
 
 
そのため、今まで必要だった水晶発振器や周波数逓倍回路を完全に省略することができ、大幅な小型化と省電力化を実現する。
 
研究では、3.5GHz帯で優れた共振動作を示す圧電薄膜共振子(Thin Film Bulk Acoustic Resonator:FBAR)を周波数リファレンスに採用し、水晶発振器を除いたマイクロ波発振器を開発した。
 
 
このマイクロ波発振器により、外付け部品の水晶発振器やPLLを用いた周波数逓倍処理が不要となり、市販の小型原子時計と比べて、チップ面積を約30%、消費電力を約50%抑えることができるという。
 
 
 
厚み縦振動の機械共振を用いた発振器。現状は機械共振子であるFBARと増幅器は個別実装されているが、共にシリコン基板上に作製される素子のため将来的には1つに集積できるとする。
 
厚み縦振動の機械共振を用いた発振器
現状は機械共振子であるFBARと増幅器
は個別実装されているが、共に
シリコン基板上に作製される素子のため将来的
には1つに集積できると
する。 (出所:NICT)
 
 
 
 
また、アルカリ金属元素から共鳴を取得する場合、アルカリ金属は気体状態であることが必要であり、窓のついたケースに封じ込めてレーザーで観察する必要がある。
 
従来はガラス管を利用していたが、小型化と量産性に課題があった。そこで研究チームは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて、ウエハープロセスで製造できる小型ルビジウムガスセルを独自開発した。
 
 
ルビジウムガスセルは、ルビジウムを微小な容器(セル)に封入したもので、開発したマイクロ波発振器と組み合わせて同調動作(原子時計動作)させると、1秒間で10-11台の周波数安定度を得られた。
 
この結果は、市販の小型原子時計と比べると1桁以上の性能改善にあたるという。
 
 
 
マイクロ波発振器の開発に合わせて試作した小型ルビジウムガスセル。ウエハープロセスで製造し、コストの圧縮につなげる。
 
マイクロ波発振器の開発に合わせて試作した小型ルビジウムガスセル
ウエハープロセスで製造し、コストの圧縮につなげる。
(出所:NICT)
 
 
 
今回の成果が実用化されれば、原子時計システムを大幅に小型・低消費電力化することができ、スマートフォンなどの通信端末に搭載可能になる。
 
原子時計が各端末に搭載されれば、利便性が向上するだけでなく、高い同期精度が求められるセンサーネットワークからの情報取得や、GPS電波が安定しない環境でのロボット制御(屋内ドローンや潜水システム)にも新たな市場創出の機会を与えるとしている。
 

今後はデジタル制御系の簡略・省力化に着手し、さらなる低消費電力化を2019年をメドに実施する。

さらに、高密度実装に適した光学系をもつガスセルの開発も進める。
 
なお、今回の成果はイギリスで開催中の国際学会「The 31st IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems(MEMS 2018)」(2018年1月21日~25日)で発表される。
 
 
 
 
 
        日経記事2018.01.24より引用
 

 



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