https://www.youtube.com/watch?v=0fJ1rmX1gWM
次の首相にふさわしい候補の一人として上川陽子外相の名を挙げる人が増えた。手堅く真面目な仕事ぶりには定評がある一方、政治家としての素顔はあまり知られていない。
自身への期待が高まる国内政治と、米大統領選など変数の多い国際情勢をどう見ているのか。
――派閥の政治資金問題で国民の政治不信は極まっている。自民党はこのままでいいのか。
「国民からの信頼があって初めて内政も外交もあると感じる。信頼回復は政治が機能を果たすための土台であり、非常に重く受け止めている」
「日本の内政が安定していることが外交的にも非常に重要な要素になる。各国を回り、日本への信頼と期待が非常に大きいことは感じてきた。政治資金を巡る問題について外交の舞台で話題になったことはない」
――政権基盤が安定しなければ首脳外交に差し障るのではないか。外相として何を意識しているか。
「外相の責務は内政、外政あらゆる分野の最高責任者である首相が首脳外交で最大の国益を確保できるよう戦略を練ることだ。主要7カ国(G7)や同志国の外相、ビジネスパーソンらと個人的な関係を築き、絶えず情報を更新する」
「外務省にいる専門家の力を引き出す。長い蓄積を総動員し、意思決定に臨まなければならない緊張感ある仕事だ。外交に専念する外相にしかできないことはたくさんある。外交の最前線で強い責任感を持って首脳外交を下支えしていく」
いまは外相に一意専心
――「ポスト岸田文雄」に期待する声をどう受け止めているか。
「初当選以来、どの立場でも責務を最大限果たすために自分の持ちうる全てを注ぐという信念で一心不乱にやってきた。いまも外相として一意専心、ひとときも外交のことを考えない時間も日もない」
「政治家を志してからの歩みには紆余(うよ)曲折があった。初当選まで7年半かかった。議員になってから落選も経験した。次に選んでもらえるかどうかは、その時の時間をどう使うかが勝負になる」
ウクライナで女性や子どもたちの支援施設を訪れた上川外相(1月7日)=外務省提供
――外相の職責を果たした先に、総理・総裁を目指す覚悟はあるか。
「自分だけでこの道に進もうと決断してできることはだんだん少なくなる。外相の職責は誰も代わることができない仕事なのでベストを尽くすが、10年先までやっているイメージはない」
「私は『何が何でも自分で』というよりは『そういう時が来ればしっかり役割を果たす』という姿勢で30年来やってきた。期待は大変ありがたく受け止める。期待される人になる、期待される仕事をする、ということに尽きる。それが一意専心の意味だ」
――自民党の麻生太郎副総裁が上川氏を「新しいスター」と評価しつつ容姿に触れる発言をした。記者会見では「どんな声もありがたい」と正面から論評せず、国会で「なぜ抗議しないのか」と質問された。
「どういう意見を持つのかはそれぞれだ。一般論として、いろんな意見があって進化や発展がある。国会で問われた際は『脇目も振らず着実に努力を重ねていく』と答弁した。一意専心を追求する姿を次の世代に見てもらうという思いで発言した」
「それでいいではないかという人もいれば、それは違うと思う人がいるかもしれない。反面教師であってもいい。一人の政治家あるいは外相としての姿を批判も含めてさらすことを通じ、次の世代に評価してもらうことが大事だ」
――4月10日に岸田首相が国賓待遇で訪米し、バイデン氏と会談する。米大統領選を控える状況でどう準備するか。
「国際社会が様々な課題に直面する状況で日米の固い結束が極めて重要だ。今回の首相の公式訪問で、強固な日米同盟そのものを世界に示すことは大変有意義だ。成功に導くためギリギリまで力を尽くしたい」
国益見据え、もしトラ対応
――トランプ氏が本選で勝利し、大統領に復帰した場合の備えは。
「米国は基本的価値を共有する日本にとって唯一の同盟国だ。米大統領選の動向は注視している。日米関係の重要性は米国でも党派を超えた共通認識がある。これからも関係をさらに強化すべく努力を重ねる」
――安倍晋三元首相のようにトランプ氏と渡り合う自信はあるか。
「しっかりと相手を見つめ、日本の国益にのっとって歴史的経緯を説明し、これから先の展開を見据えた外交をしていくのは誰であろうと変わらない」
「『もしトラ』ということではなく、2024年は世界で『選挙の年』と言われる。相手が変わったから変えるのではなく、日本の国益を突き詰めていく。そのために何をしなければならないか戦略的に準備するのは一般論の応用だと思う」
――中国の覇権的な動きが強まっている。日中間の懸案を解決する展望を描けているか。
「日中両国は地域と国際社会の平和と繁栄にともに重要な責任を負う大国だ。処理水問題は専門家を含めて意思疎通し輸入規制の解除を強く求める。拘束された邦人の早期解放も累次にわたって働きかけてきた。相互対話の舞台でしっかりと主張していく」
――安全保障にジェンダー平等の視点をどう生かすのか。
「国会議員になる前に阪神大震災の被災地を回った際、ジェンダーへの配慮が不足し女性に不安が広がっていた。東日本大震災では避難所の生活で教訓が生かされた部分がある。女性の視点を生かすことが重要だとの思いを育ててきた」
「紛争の現場でもWPSの視点は欠かせず、国際社会で大きな比重を占めつつある。外務省にも組織を新設した。ウクライナや中東でも女性、子ども、高齢者が脆弱な立場にある。女性が指導的な立場に立つことで紛争の予防や平和構築につなげられる」
――女性議員として苦労は多かったのでは。
「難問にぶち当たったとき、尊敬する先輩である元国連難民高等弁務官の緒方貞子さんを思い浮かべる。緒方さんには遠く及ばないが、ロールモデルとの自覚を持って山積する外交課題に正面から向き合いたい」
――23年の日本の名目GDP(国内総生産)がドイツに抜かれ世界4位となった。経済は外交力を裏付ける要素ともいえる。
「一時の数字によるマインドの変化をあまり重要視しない方がいい。長期的なトレンドを見定めて今すべきことを切り取るのが政治や外交の役割だ。日本が培ってきた技術力や人材、日本企業の世界への投資に期待する声が想像以上にあふれている」
「新しい時代を日本が作り上げるチャンスであると前向きに捉えたい。グローバルサウスのエネルギーを取り込み、日本の成長につなげていく。官民が連携しあらゆるステークホルダーを巻き込んだ経済外交のフロンティアを開拓したい」
万里の先の国家像は(インタビュアーから)
自民党派閥の政治資金問題で岸田内閣の支持率と自民党の支持率は2012年に政権復帰して以降の最低水準にある。衆目の一致する「ポスト岸田」の候補はまだいない。
上川氏は昨年9月の外相就任後、知名度が高まった。手堅さが持ち味の半面、記者会見では事務方が用意した原稿を読む場面が目立つ。記者の問いには「一意専心、脇目も振らず職務に取り組む」と多くを語らない。
座右の銘は「鵬程万里(ほうていばんり)」。理由を尋ねると「高い理想を掲げ、遠くを見つめる。過去の蓄積の上に今があり、将来の国際社会を見定める視点を絶えず持たないといけない」との答えだった。
更なる高みをめざす意欲がにじんだ。視線の先に見える景色は何か。「世界から尊敬される日本」はどんな国か。宰相候補にはより具体的な国家像をもっと語ってほしい。(藤田祐樹、地曳航也)
写真 宮口穣、映像 井上龍平 小川賢一
【関連記事】
日経記事2024.03.15より引用
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー