
パッチワークスのチーム
豊田通商は2023年、廃棄予定の漁網をナイロン糸に生まれ変わらせる事業を始めた。
繊維や衣服を再利用して循環するプロジェクトの一環で、千葉県の海岸などで引き揚げた漁網をアウトドア向けのジャケットなどに活用する。プロジェクトは10人のチームが関係企業と協力して立ち上げに奔走した。
23年7月、千葉県外房地域の海岸でまき網の回収が始まった。これまでに千葉県を中心に約90トンの廃棄漁網を回収。従来は廃棄されるこの漁網を海外の工場で糸に加工、衣服として販売する。
豊田通商が出資する米スタートアップ、ブレオが保有する漁網リサイクルのノウハウを活用する。ブレオの再生繊維はすでに米アウトドア用品大手パタゴニアの帽子やジャケットなどにも採用されている。
この漁網リサイクルは、豊田通商が繊維・衣服の供給網上の廃棄を減らすプロジェクトとして立ち上げた「PATCHWORKS(パッチワークス)」の一環だ。
パッチワークスは廃棄予定の衣服や工場で出た端材を回収・有効活用する流通網をつくり、再資源化や脱炭素化などに貢献することを目指している。
「つくりすぎ」可視化したコロナ禍
社内でパッチワークス立ち上げの検討が始まったのは2020年。当初は現在リーダーを務める鬼形智英さんや海外担当の高橋浩平さんなど社内の3人が参加した。
豊田通商は前身のトーメン時代から繊維の流通事業を手がけている。だが、「社内では繊維リサイクルの考えはほとんどなかった」と高橋さんは振り返る。
繊維リサイクルを事業化するきっかけは、コロナ禍で繊維の需給バランスが不安定になったことだった。当時、「不要不急」の衣服の需要が減り、繊維の供給が余剰になっていた。
「日ごろから『つくりすぎ』だった状況が見えてきた。ただ流通させるのではなく、適時適量に供給するための方法を真剣に考える必要があった」(鬼形さん)
繊維事業部の大口顧客であるパタゴニアをはじめ、繊維や生地の卸先からも「リサイクル素材を使いたい」というニーズがあった。社内に提案すると「アイデアは面白い。ぜひやったらどうだ」という声が多く寄せられた。
豊田通商の繊維事業はこれまで繊維メーカーから繊維を買い、衣服メーカーなどに販売する形が中心だった。
一方、リサイクル事業では豊田通商が卸す繊維の「バイヤー」だった衣服メーカーが、再生繊維の原料を提供する「サプライヤー」の役割も担う。
取引先の関係性を変える面白さと、事業の多角化に貢献できるとの期待もあった。
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まず着手したのはポリエステルやコットンのリサイクルだった。ポリエステルやコットンは市場規模が大きいものの、ペットボトルなどへのリサイクルが進んでいた。
事業の独自性をどう出していくか。チームで議論し注目したのがナイロンだった。
ナイロン生地はダウンジャケットやレインコートなどで使われるが、従来の技術ではリサイクルが簡単ではないため当時は競合が少なく、需要も高いと考えた。
パタゴニアなど顧客からの需要も見込めたため、事業の立ち上げを決めた。
パタゴニアや漁網リサイクルのブレオとは商品開発の初期段階から連携し、最適な供給網の構築を目指した。関係企業の協力もあった。
漁網の回収を手がけるEllange(エランゲ、東京・千代田)のオーナーは漁網の調達先である外房地域に移住し、地域の特性を理解しようと奔走した。
こうした関係者の協力で、23年7月に日本で廃棄漁網のテスト回収にこぎ着けた。台湾の企業が糸に加工、日本や台湾などのメーカーが生地に仕上げて豊田通商が販売する体制を構築した。
化石燃料を使わないことや原料や廃棄物の追跡をするなど、脱炭素やSDGs(持続可能な開発目標)で付加価値をつける。
取り組みへの共感醸成
一方で課題は残る。一つは価格で、豊田通商が手掛ける再生ナイロン繊維は糸の段階で従来品の1.5〜2倍ほど。値段から敬遠するメーカーもまだ少なくない。
国内営業などを管轄する主任の小玉翔平さんは「ビジネスとしてはまだまだ課題もある。消費者やメーカーにも取り組みを丁寧に伝えて、プロジェクトの価値を上げていきたい」と語る。
他商社でも衣服や漁網などを再生する取り組みが立ち上がってきた。伊藤忠商事はイタリアの再生繊維大手や日本の漁網メーカーなどと組み、使用済みの漁網や工場で出る端材を漁網に再生する事業を始めた。
豊田通商で対外発信を担当する吉川響さんは「繊維リサイクル事業は仕組みが複雑で、機能性の差別化が難しい。いかに共感を得るか考えていきたい」と意気込む。
プロジェクトは廃棄物の焼却や熱エネルギーとして活用するサーマルリサイクルはせず、リサイクルできない物は環境に負荷を与えない方法で処理する。
2050年までには全ての衣服や繊維を再利用することが目標だ。販路を持つ商社として、繊維リサイクルの重要性や取り組みの優位性を取引先や消費者に伝えることができるか。チームの挑戦は続く。
(鈴木大洋)
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日経記事2024.04.22より引用