米国の個人消費は想定を超える強さを示している(23年12月、米ニューヨーク)=ロイター
【ワシントン=高見浩輔】米経済が想定外の強さを保っている。2023年10〜12月期の国内総生産(GDP)は個人消費がけん引する形で前期比年率3.3%増の高成長となった。
強い経済はインフレ率の高止まり懸念につながるはずが、実際は鈍化基調が続く。市場は早期利下げへの期待を維持して楽観論が拡大している。
余剰貯蓄、消費を下支え
「昨年の景気後退は避けられないという予測もあったが、バイデン大統領と私はそう考えていなかった」。
イエレン米財務長官は25日の講演で、GDPの良好な結果を受けて「勝利」を宣言した。
23年通年の実質経済成長率は2.5%。1980年代以降で最速となった利上げを経てもなお失速せず、22年の1.9%からむしろ加速した。市場は好感し、25日のダウ工業株30種平均は前日比242ドル高の3万8049ドルと最高値を更新した。
主因は個人消費だ。多くのエコノミストの予想を上回り、10〜12月期に2.8%増えた。実質経済成長率は全体でみると7〜9月期の4.9%から鈍化したが、消費の貢献度合いはほぼ変わっていない。
利上げを受けた減速が予想されながら、なぜ「粘り」が続くのか。
ニューヨーク連銀は昨秋、家計債務の7割を占める住宅ローンの金利耐久力を分析した。新型コロナウイルス禍の低金利時代に約1400万世帯が住宅ローンを借り換え、その後の利上げでも負担を抑制できたという。
住宅価格の高騰で生じた物件の含み益を借り換えを通じて現金化する手法も活発になり、計4000億ドルもの余剰貯蓄が生じたと試算する。
賃上げが物価上昇率を追い越して実質的な所得が回復した面も大きい。株高など資産効果も中高所得層を中心に家計を潤している。
10〜12月期は住宅投資も1.1%と2四半期連続でプラスを維持した。
コロナ禍で2年半もの間マイナスだったが「住宅ローン金利がピークを越えた今、住宅による成長の足かせは最悪期を脱した」(米PNCフィナンシャル・サービシズ)と歓迎する声が上がった。
利下げ観測に追い風
市場がさらに注目したのは、米連邦準備理事会(FRB)が物価動向を分析する際にもっとも重視する米個人消費支出(PCE)デフレーターだ。
10〜12月期はエネルギーと食品を除いたベースで前期比2%のプラスとなり、2四半期連続で物価目標を達成した。
「ソフトランディング(軟着陸)の成功を支持する内容だ」(運用会社ジャナス・ヘンダーソン・インベスターズのアシュウィン・アランカー氏)。市場には安堵の声が広がった。
「FRBに今後数カ月で緩和サイクルに入る余地を与える」。米ウェルズ・ファーゴのジェイ・ブライソン氏は利下げ開始が5月になる予想は変えないとしつつ、3月からという見方が強まるだろうとコメントした。
金利先物市場では3月利下げの予想が1カ月前の8割弱から低下していたが、GDPの結果を受けて4割から5割弱にやや戻した。
政策金利の動向に敏感な米2年物国債利回りは一時4.3%台前半と前日から0.1%近く低下(債券価格は上昇)した。
散見するリスク
だがFRBのパウエル議長はかねて、インフレの鎮圧には経済成長を本来の実力以下に押し下げる必要があると主張してきた。
FRB高官らが考える潜在成長率は1.8%程度だ。これを1年半連続で上回り続けている足元の状況は想定していたシナリオではない。
インフレの高止まりリスクが完全に消えたとは言いがたい。「米国は非常に強い。消費者は強靱(きょうじん)だ」。家庭用品大手のプロクター・アンド・ギャンブルが23日に開いた投資家説明会。
市場予想を下回る業績でもアンドレ・シュルテン最高財務責任者(CFO)は米国での値上げ戦略に強気だった。
市場が見込む24年の経済減速が想定より急な角度になるリスクも低くない。低所得層を中心に自動車ローンなどの延滞率は上昇しており、企業向け補助金など政策効果の息切れ懸念も高まりつつある。
米調査会社コンファレンスボードが10日に発表した経営者向けアンケートでは、24年の最大のリスクが「景気後退」となり、インフレを上回った。不況への準備ができていると答えた割合は37%にとどまっている。
市場とFRBとの間には利下げシナリオを巡って食い違いが残ったままだ。市場は年末までに6回程度の利下げを織り込み、FRBが景気を下支えすると期待している。
一方、米連邦公開市場委員会(FOMC)の参加者は23年12月時点で利下げを3回とみている。
FRB高官らは今後の政策について「データ次第」と慎重さを崩していない。市場予想を大きく上回った10〜12月期のGDPは、軟着陸を探る米経済の力強さとともに、コロナ禍後の特殊な景気回復が今なお「想定内」に収まらないリスクも示す結果となった。