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弁護士・元ロースクール教授宮武嶺の社会派リベラルブログです。

「べからず選挙法」の打破を3 公職選挙法は違憲だらけ ネット選挙だけでなく全面改正を!

2013年03月23日 | 日本国憲法の先進性

公職選挙法の廃止――さあはじめよう市民の選挙運動 (Civics叢書) [単行本(ソフトカバー)]

市民政調 選挙制度検討プロジェクトチーム 片木淳 

「市民政調 選挙制度検討プロジェクトチーム」は、現行の選挙制度が、自由な選挙運動が規制されており、候補者や政党と市民の隔たりは解消される気配がないことから、だれでもが自由に参加しやすい“選挙”のしくみをつくることをめざす市民・研究者で結成されました。
本著は、自由な市民の選挙運動を実現するために 日本では、選挙運動に関わらない人”や関心の無い人が参加しやすい選挙制度にすることがひとつの手段だとする本。著者は、1947年大阪府生まれ。1971年東京大学法学部卒業。高知県、北海道、大阪府の総務部長、自治省選挙部長、総務省消防庁次長等。2003年4月から早稲田大学公共経営研究科教授。著書に、『地方行政キーワード』、『地方主権の国ドイツ』など。

 

 今日の話は、最初は取っ付きにくく感じるかもしれませんが、久しぶりの宮武嶺先生の憲法講義ということで、我慢してくださいね。角膜炎になるほど目からうろこがボロボロおちて、俄然面白くなる(はず)ですから。

1 表現の自由に対する制約立法の違憲審査基準―民主政過程論と二重の審査基準

(1)どんな基本的人権でも、違憲状態に置かれてはならないことは当然です。しかし、立法・行政の人権制約行為を裁判所が合憲か違憲か判断する際には、人権の種類によって審査基準を分けて考えるべきだとされています。これを二重の基準論と言います。

 たとえば、周囲の商店街の雰囲気を守るために、ある広さ以上のパチンコ店を開業してはならないという法律ができたとすると、そこの出店しようというパチンコ店の営業の自由(職業選択の自由 憲法22条)が制約されるわけですが、この制約には合憲性が推定され、裁判所は緩やかな「著しく不合理であることが明白か」という極めて緩やかな基準で、合憲性を判断します。

 なぜなら、第一に、そういう経済政策は立法・行政という政治部門の方が原告・被告から出された裁判資料しか判断材料がない裁判所より判断能力が高いです(判断能力の問題)。第二に、万一違憲状態にまで制約しても立法・行政がまた合憲状態にまで制約を緩める可能性があるからです(人権回復の可能性の問題)。

 つまり、違憲判断基準の広狭というのは、より人権保障を充実するためには、政治部門と司法部門の役割分担の問題なんですね。

(2) ところが、精神的自由権、とりわけ表現の自由が政治部門が制約する場合には、裁判所は厳格な審査基準で違憲性を判断するとされています。たとえば、街頭での選挙運動では「100フォン以上の音を出すな」あるいは「脱原発については触れるな」と制限するような場合です。

 なぜなら、第一に、商店街の営業問題のような経済問題と違って、どれくらいの音なら我慢できるかとかどんな内容だと他人に迷惑をかけるか、というような他者の人権との調整は裁判所にも判断が可能です(裁判所も判断能力がある)。第二が深刻な問題なのですが、いったん表現の自由がその表現内容に着目して制限されるとそれに基づいて選ばれた当選した議員の構成が変わってしまいます。脱原発議員は選ばれにくくなってしまうのです。そうなると、そんな原発推進議員ばかりで構成された議会が、二度と、自分たちに都合の悪い脱原発の演説を許すように立法を変えることは考えられません。つまり、いったん侵害された精神的自由権は理論上、民主政の過程(立法・行政)で回復が著しく困難なのです(不可能?)。

 ですから、こと精神的自由権が制約される場合には、裁判所が厳格な違憲審査基準で立法・行政を審査して、是が非でも表現の自由を違憲状態にさせないようにする必要があるのです。これを民主政の過程論と言います。

 

 
 

2 表現の自由に対する制約と違憲審査基準 二重の基準

 表現の自由は、民主主義社会では最も重要な人権の一つです。なぜなら、人々が言いたいことを言え、それをお互いに聞くことができて初めて、主権者としての意見を構築することができるからです。ですから、表現の自由に対する政治部門の制約は違憲性が推定され、裁判所が必要最小限度な制約だと判断しなければ違憲とされます。他者の名誉権やプライバシー権などの人権を侵害してはならないからですね。

 その中でも、表現が他の人に届く前になされる制約=検閲は、人々の知る権利を完全に奪うものなので、憲法で絶対に禁止にされています(憲法21条1項 「検閲はこれをしてはならない」)。また、表現の内容に着目してなされる制約は(「脱原発デモはするな」)は表現を委縮させる効果が絶大ですから、その表現をすることが明白に差し迫った危険がある場合以外は禁止できません(「今から原発推進の首相官邸を襲おう!」)。

 それ以外に、表現の内容ではなく方法などに着目した制約もあります。夜遅くにスピーカーで宣伝して安眠を妨害しない、などです。しかし、こういう表現内容中立規制も、①制約目的が正当か、②同じ目的を達成できるより緩やかな制限がほかにないかというLRAの基準(Less Restructive Alternatives)などで違憲審査されます。表現の自由をあまり制約しなくても目的を達成できるなら、そちらの方法を取らないと必要最小限度の制約とは言えないということですね。

憲法判例を読む (岩波セミナーブックス) [単行本(ソフトカバー)] 芦部 信喜 

今から勉強を始めるならまず手に取ってください。昔の本ですが、一般の方でも読みやすく、民主過程論や二重の基準など憲法と判例の本質がわかります。

 

 

3 選挙運動の自由と憲法問題

 選挙運動の自由という言葉は憲法には出てきませんが、これもまた表現の自由から保障されることに異論はありません。むしろ、選挙運動と言うのは主権者が自分の代表者を選んで政治をさせるという民主政の過程で不可欠だという意味では、最も保護されなければならない表現行為だと言えるでしょう。

 さあ、ここからが本日の本番です。憲法学の通説・多数説では現行の公職選挙法が違憲だらけということに、皆さん驚かれると思います。

 ここで大事なことは、選挙運動の自由がいかに大切な基本的人権で、制約は極力、必要最小限度でなければいけないということ。そして、選挙運動の制約原理となる「選挙の公正」が真に具体的に脅かされているかという検証がなされているかです。

(1)事前運動の禁止

 公職選挙法129条は、立候補届け出前の一切の選挙運動を禁止しています。その理由は常時選挙運動が許されると金がかかりすぎるから選挙の公正を害し、選挙の腐敗を招くというものです。ですから、私もネット選挙解禁問題で事前の政治運動と公示後の選挙運動の擁護を使い分けてきました。

「べからず選挙法」の打破を1 成年被後見人の選挙権はく奪は違憲 3・28国に控訴させないためにご協力を

「べからず選挙法」の打破を!2 ネット選挙運動の解禁に大賛成する!!

 ところが、憲法学界では事前運動の禁止は違憲と言うのが多数説です。

 なぜなら第一に、事前の選挙運動と規制されていない日常の政治運動の区別は困難です。第二に公示後しか選挙運動ができないのであれば、新人候補者が著しく不利で平等と言えません(だから自民党の世襲議員はいつも過半数)。第三に期日前の脱法行為として後援会活動が行なわれ、多額の費用もかけているので、選挙の公正や腐敗は理由にならない、ということです。

 民主主義にとって選挙が非常に重要であることや、新人がどんどん政界に出ていくべきこと、ネット選挙が解禁されるならまさに政治運動と選挙運動を分けることは不可能であることにかんがみれば、事前運動の禁止は削除すべきです。

(2)文書・図画の頒布・掲示の制限

 公職選挙法142条は選挙運動期間中に頒布・掲示できる文書・図画を厳しく制限しています。その理由は候補者の経済力で選挙の公平が害され、怪文書が出る可能性もあり、町の美観も損なわれるというものです。

 しかし、これも憲法学では違憲とするのが多数説です。

 なぜなら、文書や図画の頒布は一般国民が選挙運動をするのにネットと並んで最も有効な手段ですし、町の美観は美観を維持する条例で別に取り締まるべきです。怪文書は今でも十分出回っていますし、その内容がプライバシー権・名誉権を侵害するものならそちらで制限すべきで、一律網羅的に規制すべきではありません。

(3)泡沫新聞の排除

 公職選挙法148条3項は、選挙報道と評論をする新聞を極めて限定しています。それは、選挙目当ての新聞紙や雑誌を排除して選挙の公正を保つのが目的とされています。

 しかし、いまのテレビ・新聞などのマスコミが公正な報道をしていますかあ?泡沫新聞などといわれるミニコミ誌よりよほど嘘も弊害も多いのでは?もし、ミニコミ誌が不当な報道をしても、それはマスコミに比べて選挙の公正に与える弊害はごく小さいのですから、事後的にプライバシー権・名誉権侵害だということで損害賠償請求や刑事罰の制裁を加えれば十分で、同じ目的を達成できる「より制限的でないほかに選びうる手段」があります。

 というわけで、この規定も違憲とされています。

(4)戸別訪問の禁止

 これは意見が割れそうですが、公職選挙法138条は戸別訪問を一律に禁止しており、最高裁もこれを合憲としています(昭和56年6月15日)。家という密室だと不正行為が行われやすいし、生活の平穏が害されるし、過当競争になるというのです。

 しかし、学界では違憲説が有力です。

 だって、買収などの不正行為は別に罰則規定があって取り締まられていますし、買収って家まで行くと目立つからたいていホテルとかでやっているではないですか。戸別訪問禁止の理由になりません。

 また、新聞の勧誘とか宗教の勧誘には来るのに、大事な選挙活動だけさせない合理的な理由はありません。一律禁止でなくても、訪問時間や訪問方法の制限という「より制限的でないほかに選びうる手段」があります。過当競争についてはバイトを雇いまくれないように選挙運動費用の制限を設けたり、一候補一回までと言うような回数制限を設ければいいでしょう。

 事例解説 すぐわかる選挙運動 ―ケースで見る違反と罰則―

事例解説 すぐわかる選挙運動 ―ケースで見る違反と罰則― [単行本(ソフトカバー)] 三好 規正 山梨学院大学ローカル・ガバナンス研究センター 読んだら選挙に出たくなくなる本(笑) 。維新の会必携(爆)

前科前歴者がずらっと当選し、総選挙後1週間足らずで4陣営6人が毎日逮捕される日本維新の会


 

4 べからず選挙の最近の問題

 いがかでしょうか。居住移転の自由を奪われるだけのはずの受刑者の選挙権を認めないなど、まだ他にもいっぱいあるのですが、いかに日本の選挙が不自由かわかっていただけましたでしょうか。これでは、選挙の時にだれがどういう政策・人柄なのかわからず、棄権者が増えるのも無理はありません。

 しかし、表現の自由や選挙権がいったん侵害されると、二度と回復困難といいますが、まさに今の国会はその典型ですね。裁判所に何度言われても議員定数の不均衡さえ是正できないのですから。

 民意を反映しない政策も目白押しです。そりゃそうですよ、選挙運動が違憲状態にまで制限されていて、民意が反映されないからこそ選ばれた人たちばかりなんですから。

 たとえば、最期に書いた戸別訪問はうざいと思われるかもしれませんが、直に候補者の人柄を見極めるチャンスです。家に来たらいろいろ突っ込んでやったらいいのです。もちろん、候補者にとっても有権者から生の声を聴いて自分の政策に取り入れられる貴重な機会となります。だいたい街頭や宣伝カーで名前を連呼しているような選挙運動で、候補者を選べという方が無理です。そりゃ、棄権者も増えるわ。

 我々は国民主権のもとでの主権者です。普段から政治運動が熱心になされ、選挙運動がもっと自由にされて、我々自身が賢くならなければ、とてもよい政治家を選ぶこともできませんし、政治なんてよくなりませんよ。その犠牲になるのは私たち自身です。

 ネット選挙なら負担が少ないからどんどん自由にやっとくれ、ではなくて、ある程度負担の伴うリアルな政治・選挙運動にも積極的に賛成すべきです。

 だって、我々の民意が反映せず、消費税増税には反対しても、原発再稼働に反対しても、増税はされるわ、原発は推進されるわ、おまけに公約違反のTPP交渉にも参加するわなんて政治には、もうこりごりではないですか。

 賢い政治家を選べる賢い有権者になるには、努力も必要です。二度とこんなことにならないように。

自民が比例27%の得票率で小選挙区79%が取れる小選挙区制の弊害と、戦後最低の投票率の衝撃

 いつになるかわかりませんが、次回は、いよいよ、定数是正か政治・選挙運動弾圧事件について書きたいと思います。

 

なぜ4割の得票で8割の議席なのか [単行本] 上脇博之 丸尾忠義 

 

 

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世界の流れに逆行する地裁判決――受刑者に選挙権認めず

 公職選挙法が受刑者に選挙権を認めていないのは憲法違反だとして、違憲確認と慰謝料一〇〇万円を求めた訴訟の判決が二月六日、大阪地裁であった。

 訴えていたのは元受刑者の稲垣浩さん(六八歳)。山田明裁判長は「一定の刑罰を受けた者に対し、法秩序に対する違反が著しいことを理由に、受刑中の社会参加が一定の範囲で禁止、制限されることはやむを得ない」として、違憲確認請求を却下し慰謝料請求を棄却した。

 稲垣さんは釜ヶ崎地域合同労働組合(本部・大阪市西成区)委員長として長年、日雇労働者や野宿者の支援活動に取り組んできた。二〇〇八年六月には府警・西成署で暴行を受けたと訴える男性の相談を受け“怒れる労働者たち”とともに抗議活動を繰り広げた。

 その際、市道に車を止めて街宣活動をしたとして道路交通法違反容疑で逮捕され(本誌〇八年七月四日号既報)、懲役二カ月の判決が確定。これに伴い 確定していた別の刑の執行猶予が取り消された。野宿労働者のテントを大阪市職員らが撤去しないようビデオ監視して「威力業務妨害」罪に問われたもの(本誌 〇七年九月二八日号既報)。結局、一〇年三月~一一月、滋賀刑務所で服役。同年の参議院議員選挙では投票できなかった。

 弁護団は、受刑者の選挙権を一律に否定する規定を違法・無効とする判断が相次ぐ世界潮流を指摘。「受刑者への選挙権制限は国連の自由権規約二五条 違反でもある」と主張したが、山田裁判長は「欠格条項を定めることは合理的な範囲内にとどまる限り、憲法上許される」と国会の裁量を広く認めた。

 稲垣さんは「判決は、選挙情報の入手が困難な点も理由にするが、私自身、テレビや新聞で情報を得ていた。未決勾留者には選挙権が認められており、辻褄が合わない。選挙違反を犯したわけでもない」と即日控訴の意思を表明した。

(佐藤万作子・ジャーナリスト、2月15日号)

 

 

[古都の風]「選挙権喪失」法改正をヘルプ

 財産管理などを代行する「成年後見人」が付いた知的障害者などは選挙権を失うという公職選挙法の規定について、東京地裁が初の違憲判決を出しました。

 この規定を巡る訴訟は、中京区に住む知的障害者の男性(59)も京都地裁に起こしています。男性は政治に関心を寄せ、1994年に後見人が付くま で投票を続けました。東京地裁判決を喜び「京都でも早く判決を」と願います。選挙権が回復すれば、障害者のことを理解してくれる候補者に投票すると決めて います。

 全国では、約13万6400人(昨年末時点)が成年後見人を付けています。知的障害以外に認知症で判断力を欠いた人に付いたケースも多く、突然選 挙権を失うという事態は、誰にでもあり得ることなのです。ハンディーを持てば「暮らしやすい社会を作ってほしい」と切実に感じ、選挙で投じる1票への思い は大きくなるはずです。

 成年後見人制度は13年前、明治から続いた禁治産制度が移行してできましたが、選挙権が失われる問題はずっと棚上げ状態でした。「隠れた差別だっ た」。京都訴訟の弁護士はこう批判し「私たちは議論すらなかったことを真摯(しんし)に反省して、国は法律を変えるべきだ」と訴えます。

 訴訟を取材するまでこの問題を知らなかった私の胸に、弁護士の言葉が突き刺さりました。京都訴訟の判決はまだ先ですが、私たちは目や耳を閉じず、できるだけ早く解決の場を「司法」から「立法」に移すべきだと感じています。(杉山弥生子)

(2013年3月24日  読売新聞)

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