
井上ひさしの 子どもにつたえる日本国憲法 (シリーズ子どもたちの未来のために)
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「朝日新聞社が実施した全国世論調査(郵送)で、いまの憲法が全体としてよい憲法かどうか聞いたところ、「よい憲法」は51%で、「そうは思わない」の37%を上回った。
2023年の郵送調査では52%対38%だったので、ほとんど変わっていない。」
というリード文から始まる2025年5月1日付け朝日新聞の
という記事で取り上げられています。
この朝日新聞の世論調査で、興味深いのは
『今回の調査では、80年前の1945年に終わった戦争について、学校でどう教わったか、質問をしている。
「しっかりと教わった」は18%で、「しっかりとは教わらなかった」が大半の77%を占めた。
「しっかりと教わった」と答えた人では、「よい憲法」は60%に上り、「そうは思わない」30%の倍だった。
「しっかりとは教わらなかった」人では50%対39%だった。』
という部分です。
日本国憲法をしっかり教わった人の方がもちろん日本国憲法を「よい憲法」だと高く評価する人の割合は高いのですが、残念ながら「しっかりと教わった」は18%で、「しっかりとは教わらなかった」が77%と、もはや日本国の最高法規である日本国憲法が日本の教育現場ではしっかり教えられていないというのが現状です。
だから、比較的若い世代では日本国憲法への理解が足りず
『年代別にみると、30代は「よい憲法」は41%で、「そうは思わない」49%が上回っている。』
ということになるわけです。
日本国憲法公布70年。憲法のすべての条文は戦前の日本の悪いところを反省材料に作られた。だから戦前懐古の日本会議より新しい。
さて、これまでも幾度となく強調してきましたが、日本国憲法は戦前の大日本帝国憲法下の日本、特にその侵略戦争と植民地支配を反省して作られています。
どんな法にもなぜその法律を作ったのかという制度趣旨というものがあり、その法を必要とする社会における現実、「立法事実」と呼ばれるものがあります。
それが日本国憲法の場合には、戦前の日本が国内では市民の人権が踏みにじられ、どんどん言論の自由など権利を行使することができなくなり、そのため政府が朝鮮半島や台湾などを植民地支配したりすることに日本国民も反対できず、日本軍が中国大陸や南方諸国で侵略戦争を起こしてしまった、起こすことができたという歴史的な事実に対する痛切な反省が立法事実になっているのです。
ですから、日本国憲法前文では、国民主権と、日本人のみならず世界の諸国民に平和の裡に生存する権利があるという平和的生存権が高らかに唱えらえました。
【#終戦記念日】「敗戦記念日」に考える日本国憲法の先進性。日本の平和のために必要なのは改憲でも、軍事費拡大でもなく、基本的人権を尊重し、憲法9条を生かして戦争が決して起こらないようにすることだ。
さて、戦前の日本でなぜ人権侵害が可能となり侵略戦争も起こせたのか。
それは大日本帝国憲法下の日本では、天皇が天照大神の子孫として神格化され、国家神道のもと絶対不可侵のものとされるという絶対的天皇制が確立していったからです。
その反省として、日本国憲法では国家の最終的決定をする権限は国民にあるという国民主権が規定され、本文第1章では天皇の地位は国民主権のもとで国民の総意による象徴にしか過ぎないとされました。
しかし、これは国民主権原理からすれば中途半端な解決になっており、天皇や皇室という特別の存在を認めることは日本国憲法最高の価値である「個人の尊厳」に反し、法の下の平等にも反することですから、いずれは象徴とはいえ天皇を特別扱いする天皇制は廃止するのが正しい方向です。
そして、天皇を絶対化する神社神道を国教として、神官を特別公務員とする一方、他の宗教の存在を許さない国家神道体制は例えば大日本帝国が植民地にした朝鮮半島でも神社参拝を強制するなど、国内外での人権侵害の元凶にもなり、また大東亜共栄圏や八紘一宇など日本の侵略戦争を肯定するイデオロギーにもなりました。
ですから、日本国憲法では政治と宗教を厳格に分離する政教分離原則が信教の自由に関する20条でも、財政の章にある89条でも念入りに規定されています。
象徴天皇制の構造: 憲法学者による解読
そして、第2章ではすべての戦争を放棄し、自衛の名のもとに侵略戦争が行われたという反省のもと、国の自衛権さえ否定し、交戦権も否認し、武力は一切持たないとする憲法9条が制定されました。
前述の朝日新聞の世論調査でも9条改正について尋ねたところ、「変えるほうがよい」は35%で、「変えないほうがよい」56%のほうがはるかに多かったのは心強い結果でした。
【#憲法記念日】ロシアとイスラエルのせいで世界の軍事費が増加している現在だからこそ、日本国憲法9条の戦争放棄と武力不保持は国際社会に燦然と輝く。岸田政権の大軍拡は東アジアの安全保障環境を悪化させる。
また、国内で市民の人権が侵害され放題では対外的に戦争を起こすことをストップできるわけはないのは、戦前の日本のみならず今のロシアを見れば明らかです。
ですから、大日本帝国憲法ではすべて法律の留保がついていて法律を使えば制限し放題だった基本的人権について、他の人の人権との調整の理念である「公共の福祉」による制約はあれども、他者の人権を侵害しない限りは制限されないという多種多様な基本的人権が第3章に規定されました。
そこでは人は生まれながらにして「個人として」尊重され、最高の価値を持つという個人の尊厳が日本国憲法最高の価値として規定されています。
これは戦前の日本で市民の個性や多様性が圧殺されたことが人権侵害と侵略戦争や植民地支配の原因になったことから規定されたものです。
保育と憲法: 個人の尊厳ってこれだ!
このような基本的な人権を侵害する法律などすべての法規範は憲法に違反すれば無効とされます。
日本国憲法の最高法規性を規定した第10章の最初の条文が
第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
であることは偶然ではありません。
さらに、2012年に作られた自民党改憲草案ではこの97条を削除してしまっていることが、戦前の妄執に生きる日本の改憲派の本音をいみじくも表していると言えるでしょう。
さて、朝日新聞の世論調査で、日本国憲法を「よい憲法」だと考える人が共産党支持者で7割、自民党や立憲民主党の支持者で6割と高かったのは、これらの政党の支持者が年齢層が高いことも原因だと思います。
つまり、日本国憲法の立法事実である戦前の日本や太平洋戦争をより身近に感じたことのある世代は、それらの歴史的事実を立法事実とする日本国憲法の良さもまたわかるのです。
また日本国憲法を比較的しっかり教えられてきた世代でもあるでしょう。
いま、国民民主党や日本維新の会が世代間の対立を煽って分断し、「若者」や「現役世代」からの支持を得ようと画策しているわけですが、世代に関係なく人は生まれながらにして最高の価値を持つという「個人の尊厳」を最高価値としているのが日本国憲法です。
そして戦争や昔の日本を知っている高齢層には経験があり、若者にはない知恵があるというのも、今回の朝日の世論調査ではっきりしたと思います。
ウクライナ戦争やガザ紛争を見ればわかるように、若者や現役世代はいざ戦争が始まれば真っ先に前線に送られ死ぬ世代でもあります。
若者や現役世代が老人たちの経験と知恵を尊重するような社会こそ、誰もが幸せになれる望ましい世の中ではないでしょうか。
編集後記
今日の憲法記念日にあたって発表された各党の談話で、憲法のすべての人権規定をひっくり返してしまう緊急事態条項を前面に出してきたのは
「時代に即した憲法改正を目指す。
緊急事態における国会機能維持を可能とする憲法改正を実現し、いかなる場合も立法府の機能を維持できるようにする必要がある。憲法の議論をリードしていく」
という国民民主党だけです。
自民党の右側から補完する玉木雄一郎代表と国民民主党は、名実ともに日本一の悪党になりました。
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毎日新聞が4月12、13の両日に実施した全国世論調査では、石破茂首相の在任中に憲法改正を行うことについて尋ねたところ、「賛成」との回答は21%で、「反対」の39%を下回った。「わからない」は39%だった。
2024年10月の衆院選で自民、公明両党が大敗し、憲法改正に前向きな自民、公明、日本維新の会、国民民主の4党は、国会での改憲発議に必要な3分の2を衆院で割り込んだ。改憲に向けた道筋が見えない中、世論の機運は停滞している。
調査方法が異なるため単純に比較はできないが、岸田文雄前首相の在任中に憲法改正を行うことについて尋ねた24年の調査でも、「賛成」27%、「反対」52%だった。岸田前政権では発足翌年の22年調査は「賛成」が44%あったが、年を経るごとに低下していた。
今年の調査では、全ての年代で「反対」が「賛成」を上回った。「反対」が最も多かったのは18~29歳で、45%だった。
支持政党別に見ると、自民支持層でも「賛成」が34%にとどまり、「反対」も25%あった。公明支持層は「賛成」「反対」のいずれも2割強。野党では、国民民主支持層で「反対」が48%、立憲民主党支持層も「反対」が59%と、「賛成」を上回った。「支持政党はない」でも「反対」が33%、「賛成」は15%だった。
また、「賛成」「反対」を問わず憲法改正を巡り関心があるテーマを複数回答で聞いたところ、「自衛隊の明記」が42%と最多で、「大学などの無償化」「同性による結婚」「2院制のあり方など国会改革」がいずれも2割強で続いた。【野口武則】
「憲法記念日」にあたって各党は声明や談話などを発表しました。
自民党
自民党は「憲法は国のあるべき姿を示す国家の基本法であり、社会環境や国民意識の変化に基づき、必要な改正を行っていかなければならない。主権者である国民の議論を喚起していくことは政治の責務であり、国会での議論と国民の理解を車の両輪としながら、早期の改正実現に向けて全力で取り組む」としています。
立憲民主党
立憲民主党は「世界では紛争が絶えず、憲法が理想とした国際社会は実現されていない。平和を希求し、権力の行使を統制し、個人の尊厳を確保するという憲法の価値を具現化する歩みは恒常的に続けなければならず、立憲主義の精神にのっとった、まっとうな政治を創っていく」としています。
日本維新の会
日本維新の会は「憲法改正は国家百年の大計であり、その実現なくして日本の将来を切り開くことはできず、衆参両院の憲法審査会は、合意形成を加速すべきだ。新しい憲法を一日も早く国民の手に取り戻すため、まい進する決意だ」としています。
公明党
公明党は「国民主権主義、基本的人権の尊重、恒久平和主義は堅持すべき大切な理念であり、これを守り抜き、憲法の価値を不断に高める政治に取り組んでいく。国民の声を聴きながら真摯(しんし)に国会での憲法論議に臨む」としています。
国民民主党
国民民主党は「時代に即した憲法改正を目指す。緊急事態における国会機能維持を可能とする憲法改正を実現し、いかなる場合も立法府の機能を維持できるようにする必要がある。憲法の議論をリードしていく」としています。
共産党
共産党は「自公政権は大軍拡に突き進み、軍事費だけが突出する異常な予算が続いている。憲法の全条項を守り、自由と民主主義、個人の尊厳が花開く社会の実現へと全力をつくす」としています。
れいわ新選組
れいわ新選組は「憲法をどう変えるかではなくどう実現するか議論すべきだ。行うべき議論は、失われた30年の経済・労働政策がいかに憲法が保障する人権を破壊してきたかだ」としています。
参政党
参政党は「憲法の個人主義によって、国柄や哲学、歴史観、互恵互助の精神、家族や地域の絆は損なわれた。戦後80年目の節目を迎えることし、新たな憲法草案を公表する」としています。
日本保守党
日本保守党は「日本を守るためには不戦をうたう憲法を改正しなければならず、9条の改正はまったなしの状況だ憲法を私たちの手で改正しよう」としています。
社民党
社民党は「平和憲法の理念を空洞化する勢力の拡大を許さず、生活といのちが最優先される平和国家への道を目指す勢力の拡大を実現しよう」としています。
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そんな私でも日本の侵略戦争を考えることができたのは、労働組合の平和活動、テレビの特番等々、当時の社会が比較的健全な言論空間だったためかと思います。現在はSNS等による偽情報に覆われ、若い世代ほど翻弄されていることでしょう。一方、年代に関係なくメディアリテラシーに乏しい、或いは人権に疎いハラスメントの自覚なき人たちも同様です。
そんな現代にあって、今当たり前にある平和や人権が現在の憲法で保障されていることを認識し直すことが必要に思います。逆に、ハラスメントなどで人権が侵されている現況に対し、いかに憲法の理念とかけ離れたものか社会全体で周知すべきでしょう。
その意味でも護憲派を自称する人たちが、ハマスの戦争犯罪を擁護したり、「たかが領土」とロシアの侵略を棚上げし一方的にウクライナを批判・蔑視、プーチンの戦争犯罪に逮捕状を発付したICCを罵倒するなど、法の支配を忘却し、正義を揶揄するような事態は深刻です。核の恫喝を批判もせず受け入れてしまい、侵略された弱小国に降伏を迫る、これは日本国憲法の理念ではないです。
彼らがよく言うところの「NATOがロシアを追い込んだ」という議論は、改憲派が日本のアジア侵略を「自存自衛の戦争だった」と言うのと同じ不正義を擁護する思考です。
冷戦史を正しく学んでいれば、ロシアの侵略を客観的に見ることができるのですが、歴史に学ばず、憲法の理念を外れた結果、クレムリンのプロパガンダに乗せられ反米拗らせに転落するのです。
そんな日に、自民党議員がひめゆり記念館に対し冒涜する汚言をはいた最低な記事を読んでしまいました。宮武先生の記事希望します。よろしくお願いいたします。