抗議の中、秘密法出発 取扱者の適性評価開始

首相官邸前で特定秘密保護法の施行に抗議する人たち=10日午後、東京・永田町で(坂本亜由理撮影)

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 国民の「知る権利」を侵す恐れのある特定秘密保護法が十日施行され、各行政機関は、特定秘密を扱うことができる公務員や民間業者を調査する「適性評価」の実施準備を始めた。対象者は最大で十万人規模だが、家族の国籍や対象者本人の精神疾患まで調べるため、プライバシーの侵害や差別の助長につながるのではないかと懸念されている。 (金杉貴雄)

 適性評価は、特定秘密を扱う公務員らに秘密の漏えいの恐れがないかを調査する。本人の犯罪歴、精神疾患の病歴、飲酒の節度、借金など七項目を調べるとともに、親、配偶者、子、兄弟姉妹らの国籍、住所、生年月日も調べる。

 政府は対象者に関し、現行の特別管理秘密制度で特別管理秘密を扱ってきた公務員の約六万五千人、自衛隊法の防衛秘密を扱ってきた防衛産業などの民間人三千三百人、都道府県警察の一部職員二万九千人-の計十万人規模を最大で想定。特定秘密の指定範囲により増減する可能性もある。

 特定秘密を扱う防衛省や外務省、警察庁など十九の行政機関の長は対象者の名簿を作成し、一年後までに順次評価を進める。

 調査は本人の同意のもと、質問票への記入を求め、上司にも質問票の記入を求める。疑問が生じれば、さらに上司や同僚に質問し、本人と面談する。必要があれば行政機関や病院などに照会し報告を求める。行政機関の長が調査内容を総合的に検討し、不適格と判断すれば特定秘密の取扱者から除外する。

◆運用監視担当に検事出身佐藤氏

 政府は十日、施行された特定秘密保護法に基づく秘密指定の運用などの監視機能を担う内閣府の新設ポスト「独立公文書管理監」に、検察官出身の法務省法務総合研究所の佐藤隆文・研修第一部長(52)を充てる人事を発表した。佐藤氏は、管理監を支える新設組織の情報保全監察室の室長も兼任する。

 特定秘密の指定、解除を指揮監督する首相を補佐する内閣官房の「内閣保全監視委員会」や法律の運用支援の事務は上川陽子法相、管理監の事務は有村治子女性活躍担当相を担当とすることも決めた。

 佐藤氏は早大卒。千葉地検刑事部長や東京地検公安部副部長を歴任。在米日本大使館の一等書記官を務めた経験もある。

 情報保全監察室の体制は二十人規模。

◆「廃止し、国民的議論を」日弁連

 特定秘密保護法が十日に施行されたことを受け、日本弁護士連合会の村越進会長は声明を発表し、「法を廃止し、制度の必要性や内容に関して国民的な議論を行うべきだ」と訴えた。

 声明は同法について「知る権利を侵害し、国民主権を形骸化する」と指摘した上で「国が扱う情報は本来、国民の財産として公表、公開されるべきなのに第三者のチェックがけん制され、アクセスができなくなる」と批判。昨年、国会で審議された際も十分な説明がなく、国民から信任を得たとはいえないとしている。

 また「法廃止のために活動を行っていく」と決意を示すと同時に、情報公開や公文書管理制度の改善、知る権利やプライバシー保護の規定を国際的な基準に沿って明文化するよう国に要求。「法施行後も国が乱用をしないよう、監視し続ける」と表明している。