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この特定秘密保護法は、特に秘匿が必要な安全保障に関する情報を特定秘密に指定し、
1 漏えいした公務員らには最高で10年の懲役刑
2 漏えいをそそのかした者にも5年以下の懲役刑を科す
という法律で、当時の世論調査では過半数の国民が反対していたのにもかかわらず、与党自民党・公明党による強行採決で、2013年12月6日に成立しました。
国民世論とマスメディアがこぞって反対する秘密保護法案と強行採決
〈特定保護法〉 国の安全保障に関わる重要情報を関係省庁の大臣らが「特定秘密」に指定し、情報を漏らした公務員や民間業者に最長で懲役10年の罰則を科す。「不当な方法」で漏らすよう働きかけた民間人らにも最長で懲役5年の罰則がある。秘密の範囲は防衛▽外交▽スパイ活動防止▽テロ防止の4分野で55項目ある。
原則5年で秘密指定が解除されるが、大臣らの判断で30年まで延長できる。30年を超える特定秘密は、指定を解除後、国立文書館などに移される。しかし、内閣が承認すれば60年まで延長でき、暗号などは例外として60年を超えて指定を続けることができる。
30年以下の特定秘密は、首相が同意した場合は廃棄できる。運用基準は指定期間が25年を超える特定秘密は歴史資料として重要でないかどうか特に慎重に判断すると定めている。
2 秘密保護法に関する安倍政権の説明
特定秘密保護法は後で見るように、国民の表現の自由・報道機関の報道の自由・国民の知る権利を侵害し、安倍政権が次々に強行してきた武器輸出三原則の放棄・集団的自衛権行使の容認などと相まって、日本を戦争への道に引きずり込む非常に危険な法律です。 この特定秘密保護法について、安倍政権は以下のような手当をしたので大丈夫だと主張しています。
1 特定秘密を違法に取得した場合でも、いわゆるスパイ目的で情報を取得した場合などに限って処罰
2 報道機関による通常の取材行為が処罰されることはなく、一般の国民が処罰の対象になることは通常ない
3 特定秘密の指定期間は最長5年で、更新することができますが、30年を超える場合は内閣の承認を得なければならず、一部の例外を除いて60年後までにはすべてを公開する。
というのです。
そして、政府は、12月10日の施行に先立って、
1 特定秘密を指定できる役職を、防衛省や外務省など19の行政機関の長に限ることと
2 特定秘密の対象として、極秘を前提に外国政府から提供された情報や自衛隊の警戒監視活動など、55の「細目」を明記した運用基準
を決定しました。
政府は、施行に合わせて、特定秘密の指定が適切かどうかチェックする機関として、
1 官房長官をトップに関係省庁の事務次官級でつくる「保全監視委員会」
2 「独立公文書管理監」
を置くことにしています。
では、これらの方策で、本当に国民の自由と人権、日本の平和は担保されるのでしょうか。
3 もともと、制定の必要性に乏しかった秘密保護法
実は、内閣情報調査室(内調)が2011年に特定秘密保護法の素案を作り始めたとき、内閣法制局から、法律の必要性を示す根拠が「弱い」と指摘されていました。 「ネットという新たな漏えい形態に対応する必要がある」との内調の説明に対しても、法制局は消極的な対応でした。
そもそも、重罰化の根拠となる事例もなかったのが実情でした。内調が秘密保護法が必要だとして列挙した8件中で実刑だったのは、2000年のボガチョンコフ事件のみでした。海上自衛隊の三佐が在日ロシア大使館の駐在武官に内部資料を提供したとして、自衛隊法違反容疑で逮捕されましたが、この事件でも懲役10月で懲役10年の重罰など必要な事案です。
2011年には自衛隊法が改正され秘匿度の高い情報を「防衛秘密」と指定し、漏えい罪の罰則を5年以下の懲役に引き上げていますが、その後、どんな重大な情報漏えい事件が起きたか見てみましょう。
2013年の国会で安倍首相は「過去15年間で情報漏えい事件を5件把握している」と答弁しました。ところが、それらの事案は裁判にもしない起訴猶予か、裁判になっても執行猶予付きの判決で終わっているものばかりなのです。しかも、その中で特定秘密に当たるとされるのは1件のみで、これは、2011年に中国潜水艦が火災を起こしているとの事故情報を新聞記者に漏らした事件です。このケースでも、一等空佐は書類送検されたものの、起訴猶予で終わっています。
つまり、防衛秘密制度を設けた後の漏えい事件が少なく、あっても起訴猶予のため、重罰化の論拠にならないのです。
むしろ、公務員が積極的に内部情報を公にした方が良いことがはっきりした事件がありました。いまだに記憶に新しい、2010年年の沖縄県・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の映像流出事件です。このような国家にとって重大な情報は、むしろ国民が正しい判断をするために、すぐに公にされるべきです。
しかも、刑事責任を問うには、形式的に秘密としているだけではなく実質的に秘密として保護するに値する内容でなければならないのですが、法制局はこの事案についても「秘密に該当するのかわからない」と見解を示しています。
こうした軽微な情報、むしろ公になった方がいい種類の情報すら、秘密保護法は恣意的に秘密扱いにしてしまうのです。
4 秘密保護法が国民の人権を侵害しかねない意外な具体例
【市民生活】
神奈川県の海上自衛隊横須賀基地近くで飲食店を営むAさんは、客の増減をつかもうと、常連の自衛官から護衛艦の出入港予定を聞いていた。中には特定秘密に当たる部隊運用に関わる情報も含まれ、これを知った県警が、秘密漏えいを唆した疑いでAさんを事情聴取し、自宅や店を家宅捜索した。
政府は「特定秘密だとの認識がなければ教唆罪は成立しない」としている。思いがけず捜査対象となったAさんは「特定秘密とは知らなかった」と訴えたが、刑事は、なかなか納得しなかった。
【情報公開】
大学教授のBさんは、在日米軍基地をめぐる日米交渉に関する文書の開示を外務省に求めたが、「国の安全を害する恐れがある」として情報公開法の規定を理由に不開示とされた。
ある時、担当職員から「特定秘密だったが、指定が解除された」と言われ、あらためて開示請求すると、公文書管理法に基づき、歴史的に重要と見なされなかった一部が既に廃棄されたことが分かったほか、残りは「外交史料館に移された」との回答があった。
史料館に急いだが、そこでも「国の安全を害する恐れがある」として、公文書管理法の規定を理由に閲覧できず。「秘密指定を30年、60年とできるケースもある。一体いつになったら」と憤る。
【内部通報】
警察官のCさん。特定秘密のテロ活動情報をめぐり、違法性が疑われる捜査手法に疑問を持ち、秘密保護法の内部通報制度を利用しようと考えた。しかし「人事上の不利益な取り扱いを受けるかも。法律は禁じているけど、罰則はないし…」と不安に。通報の際は、特定秘密が誤って漏れないようにしなければ過失漏えい罪に問われる可能性もあり、結局やめた。
通報先が原則、第三者機関ではなく、Cさんの場合は所属する警察本部が窓口で「取り合ってもらえないのでは」と二の足を踏む原因となった。
共同通信 【秘密保護法】 思いがけず捜査対象? 公開、通報制度も課題より
5 秘密保護法の危険性をひた隠しにしている安倍政権
この法をめぐっては「何が秘密か、それが秘密」と言われます。秘密指定の基準があいまいで、指定対象を具体的に明示しないこの法の性質を端的に表しています。この結果、市民がそれと知らずに「特定秘密」に接近し、処罰されるのです。
このような秘密保護法は戦前の軍機保護法との類似性を指摘されています。
軍機保護法をめぐる事案では戦前の宮沢・レーン事件がありました。この事件では、旅好きの大学生が旅先で聞いた海軍飛行場についての会話を、帰宅後に英語教師に紹介し、投獄・拷問され、病死したのです。この飛行場はその10年前にリンドバーグが着陸した飛行場です。軍機保護法では、誰でも知っている軍の施設について会話しただけで罪に問われたわけですが、特定秘密保護法では、戦前と同じような暗黒時代が再来しかねないのです。
例えば、外務省の文書「日米地位協定の考え方」は秘密指定される可能性が高いのです。これは、米軍の治外法権を日本政府が進んで認めている実態を示す文書ですから、沖縄差別といわれる米軍の基地被害の原因となる文書で、沖縄を含む日本国民の人権保障のために必須の情報です。
そもそも、これまで、沖縄返還をめぐる核持ち込み密約、財政負担密約、犯罪米兵を原則として罰しない密約など、政府がひた隠しにした密約は枚挙にいとまがないでしょう?秘密保護法制定後は、時の政権にとって不都合なこれらの真実を報道機関が探ろうとするだけで、処罰されることになりかねないのです。
上述の例のように、特定秘密は公務員のほか、防衛産業などの民間企業も扱うため、民間の担当社員にも秘密を扱うための「適性評価」が義務づけられます。たとえば、防衛省によると、まずはすでに自衛隊法に基づく防衛秘密を扱っている約30社の3300人もの民間人が対象になるというのですから、外務省や警察庁などの各省庁全体では、何万人になるか想像もつきません。
この中で、朝日新聞が防衛産業に携わる主な企業113社に取材したところ、25社が、特定秘密を取り扱う対象、または対象になる可能性があると回答しています。
各企業にとっても、がどこまで特定秘密になるのか、何人が適性評価の対象になるか、その細かい線引きは、施行してみないとわからないということです。
その防衛省でまず特定秘密に指定されると見られるのは現在の防衛秘密にあたる自衛隊の運用や装備品の性能などの情報約4万5千件です(2013年12月末現在)。
そして、秘密を扱う企業は社内で取扱者の候補を選び、リストを担当省庁に提出します。省庁の担当者は、候補者本人にスパイ活動やテロとの関係のほか、犯罪歴、薬物乱用と影響、精神疾患、酒ぐせ、借金などを指定の質問票に記入してもらい、情報漏洩の恐れがないかを評価します。また、本人や直属の上司らに質問したり、裏付けのために渡航歴や病歴などを官公庁や医療機関などに照会したりできるとしています。
適性評価は、特定秘密を扱う公務員らに秘密の漏えいの恐れがないかを調査すします。具体的には、本人の犯罪歴、精神疾患の病歴、飲酒の節度、借金など七項目を調べるとともに、親、配偶者、子、兄弟姉妹らの国籍、住所、生年月日も調べるというのです!
自分が国や自分の会社からこんな調査を受けるとしたら、あなたはどう思われますか。
このような適正調査が、国民のプライバシー権を侵害する恐れがあるのは明白です。
何が秘密化がそもそも秘密という、秘密指定の恣意性が批判されると、安倍政権は前述のような監視機関設置を強調しまそた。しかし、内閣保全監視委員会も、内閣府の独立公文書管理監も、しょせんは政府内機関です。政府内機関が政府を「監視」などできるはずがないのは明白です。
秘密保護法には、秘密指定が繰り返され、永久に秘密にしうる問題点があります。
前述のように、安倍政権は、秘密情報とされる指定期間は原則30年以下だとしていますが、実は、「外国政府との交渉に不利益を及ぼす恐れのある情報」など7項目は半永久的に延長が可能です。先に述べた沖縄返還に関する密約や、原発利権に関する情報が、ここに該当するとされるのは優に想像できます。すると、政府がどんな密約を結ぼうと国民は永久に知ることができないし、原発利権の闇も暴くことができなくなります。
安倍政権は、内部通報制度があるから健全だ、という主張しますが、公務員が政府の失態を隠蔽する秘密指定を見つけ、告発しようとするとき、内部通報する窓口は、なんと当該省庁なのです。外交秘密なら外務省、防衛秘密なら防衛省の窓口に通報するのです。そんなことが不可能なことは明白でしょう。だって、そもそも省庁ぐるみの隠蔽であれば、通報は敵の本陣に駆け込むようなものなのですから。
しかもその際、国家秘密を守るためとして、公務員は通報窓口に特定秘密の内容を伝えることは許されず、「要約」を求められるのですが、要約の基準は不明です。もし、要約が不適当で具体的過ぎるとされれば漏えい罪に問われるのです。こんなリスクを冒して通報する公務員がいるわけがありません。
では、特定秘密保護法が施行された状態で集団的自衛権が行使されるとすればどうなるでしょうか。
まず、集団的自衛権が行使できるとされる6要件は以下の通りです。
①我が国と密接な関係にある国が武力攻撃を受ける...
②攻撃を受けた国から要請がある
③放置すれば日本に重要な影響を及ぼす
④第三国の領域を通過する際はその国の許可を得る
⑤原則として国会の承認を受ける
⑥首相が行使の有効性を総合的に判断する
です。
たとえば、①我が国と密接な関係にある国が武力攻撃を受ける、という条件と秘密保護法の関係について考えると、一見、密接な関係にある国が武力攻撃を受けたかどうかは、判断可能だと思われがちです。
しかし、たとえばベトナム戦争では自衛権行使の口実とされた「アメリカ艦船への攻撃」が、実はアメリカによる自作自演だったことがわかっています。湾岸戦争で、イラクがクウェートの石油コンビナートを攻撃して海に流れ出たとされた油の映像は、実は米軍がイラクの石油タンクを攻撃して流れ出たものでした。イラク戦争開戦の理由となった「大量破壊兵器の保持」も、実際にはありませんでした。
戦前の日本にも自作自演の歴史があります。昭和6年、満州事変の発端になった柳条湖事件です。この鉄道爆破事件を日本の関東軍は張学良率いる中国軍の仕業として満州事変を開始しました。ところが、この爆破を行なったのは関東軍の秘密部隊でした。
しかし、この爆破を関東軍は中国軍によるものとして戦争開始の口実にしました。そして、これが日本軍の自作自演だったことは15年以上隠蔽されました。この事実が明らかになったのは戦後の東京裁判だったのです。
このように、「開戦の理由」は歴史上、自作自演で、しかもそれが秘密にされることが少なくありません。
もし、日本政府が外国からの「攻撃」と称するものが実は日本やアメリカによる自作自演であることについて詳細な情報を得ていたとして、外務省や防衛省に所属する公務員がその情報を漏らすことは、もちろん「特定秘密の漏えい」の罪で、最大懲役10年とされます。
国民や報道機関が、たとえば相手国からの「先制攻撃」が「それがほんとうにあったのか!?」と調べることは「秘密取得」の罪になり、当該公務員に報道機関が接触することは「漏えいの教唆」になる可能性が高いのです。ですから、日本国民は、その「攻撃」がほんとうにあったのかどうか、検証することができなくなります。
9 秘密保護法では、何が秘密化も秘密とされる
また、集団的自衛権が行使できる、③「放置すれば日本に重要な影響を及ぼす」という要件について、何が「重要な影響」なのか、国民に情報が明らかにされなければ、政府はいくらでも抽象的な説明ができます。
そもそも、どんな事態が想定されて、それが起こる確率は実際のところいかばかりか、重要性が国民には判断できなくなるのです。私たち国民がそういったことを知って、政府のやろうとしていることを検証したいと思っても、それを追及すること自体が特定秘密保護法の壁に阻まれます。
集団的自衛権行使が許される、⑤国会の承認、についても、特定秘密保護法によって、国会議員が「特定秘密」を知ることを厳しく制限されます。
ですから、国会議員は政府がやろうとしていることを承認していいかどうか、判断する情報を得ることができないわけです。
10 秘密保護法と集団的自衛権があわさると・・・
以上のように、そもそも、集団的自衛権行使の要件自体があいまいなのですが、特定秘密保護法が制定されたことで、集団的自衛権が行使される危険性が飛躍的に増大したわけです。
このように、あまりにも秘密保護法には問題が多すぎます。しかも一つ一つが深刻民主主義の基礎を根本から掘り崩す性質を持つのです。
秘密保護法にこのような微修正では糊塗できない欠陥がが多数存在する以上、単なる法改正では足りず、秘密保護法の廃止しか選択肢はありません。
今度の選挙では、国民はぜひとも新しい国会でこの法の廃止法案を可決できる議員を選ばねばならないのです。
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毎日新聞 2014年12月09日 21時19分(最終更新 12月10日 01時40分)
国家機密の漏えいに厳罰を科す特定秘密保護法が10日、施行される。安全保障に著しい支障を与える恐れのある情報を政府が特定秘密に指定して秘匿する。昨年12月に国会で採決を強行し批判を浴びたことから、安倍政権は施行に先立ち運用基準を策定、「適正な運用」を強調する。しかし根本的な改善には至らず、政府に不都合な情報の半永久的な隠蔽(いんぺい)や、国民の「知る権利」侵害への懸念が根強いままの実施となる。
菅義偉官房長官は9日の記者会見で「国民の意見を踏まえ、政令や運用基準の制定などの準備を慎重に、丁寧に進めてきた」と強調。引き続き国民の理解を得るよう努める考えを示した。安倍晋三首相は11月18日のTBSの番組で、同法の運用で「表現の自由」の侵害や報道の抑圧が起きれば辞任すると明言している。
特定秘密は外務、防衛両省や警察庁、公安調査庁など19行政機関が、安全保障上の秘匿が必要と判断した▽防衛▽外交▽特定有害活動(スパイなど)防止▽テロ防止−−の4分野55項目の情報に限って指定する。しかし基準はあいまいで、政府が指定を恣意(しい)的に広げ、政治家・官僚の不祥事の隠蔽や、情報公開の阻害につながりかねない、との懸念が残る。
指定期間は5年ごとに更新すれば、原則30年まで可能。その後は国立公文書館に移されるが、指定期間中でも首相の事前同意があれば廃棄できる。指定は内閣が承認すれば60年まで延長でき、暗号など7項目は例外として半永久的に延長できる「抜け道」もある。
特定秘密を取り扱う公務員や民間事業者による漏えいは最高懲役10年、共謀や教唆(そそのかし)、扇動(あおる行為)は同5年。従来の国家公務員法の懲役1年以下、自衛隊法の同5年以下よりも重罰化するうえ、一般人も対象になる共謀などは線引きが不明確で、政府に批判的な市民活動への規制や「見せしめ」的な立件につながる恐れも出ている。
特定秘密保護法が施行 情報隠しの懸念残る
特定秘密保護法が施行 安全保障の機密漏出に厳罰
安全保障などに関する政府の機密情報を「特定秘密」に指定する特定秘密保護法が10日、施行された。秘密をもらした公務員や民間業者に最高で懲役10年の刑罰を科すなど、情報もれに厳しい措置をとる一方で、秘密の指定が妥当かをチェックする仕組みに乏しく、問題点は残った。
特定秘密は①防衛②外交③スパイ活動防止④テロ防止の4分野で、「自衛隊の訓練又は演習」「国民の生命及び身体の保護」などの55項目が該当する。外務省、防衛省、警察庁など19の行政機関の大臣らが指定する。衛星画像が多く、数十万点に上るとみられる。指定期間は最長60年で、暗号情報などはさらに延長できる。
不正な秘密指定をチェックする機関として、内閣府に新設する「独立公文書管理監」には、検事が就任する見通しだ。管理監は内部告発の窓口にもなる。
特定秘密を扱う公務員や民間の契約業者は、秘密をもらす心配がないかを調べる「適性評価」を、施行後1年以内に受ける。犯罪歴、精神疾患、酒癖、借金や、家族と同居人の名前、国籍、住所も確認される。こうした取扱者に対し、特定秘密をもらすように「不当な方法」でそそのかした記者や市民も懲役5年以下の罰則を受ける。
秘密法は昨年12月、自民、公明両党で成立させた。しかし、両党は衆院選の公約で同法に触れていない。一方、民主党は「国会等の監視機関の不十分さ」を指摘し、共産党と社民党は同法廃止を訴えている。
菅義偉官房長官は9日の記者会見で「(有識者でつくる)情報保全諮問会議や国民の意見を踏まえながら運用基準を制定した。しっかり運用して施行状況を公表し、国民の知る権利が損なわれないようにすることを明らかにしていきたい」と述べた。秘密法を担当する上川陽子法相は「国家として当然有すべき安全保障上の重要機密情報を管理する一元的な法律上のルールが定められた」と語った。
■知る権利の侵害、懸念
特定秘密保護法が昨年12月に成立した際、「国民の知る権利が侵害される」との強い懸念が出た。政府は施行までの1年で、運用基準に対する国民からの意見公募を実施したが、政府に不都合な情報が隠されるおそれは残ったままだ。
意見公募では、政府が秘密指定する「55項目」の基準があいまいだとの指摘があった。さらに不正な秘密指定をチェックする「独立公文書管理監」も、省庁に特定秘密を強制的に出させる権限がなく、指定が妥当なものかを判断できるか、意見公募でも疑問が出た。秘密を扱う公務員や民間業者が受ける「適性評価」は精神疾患などにも及び、人権侵害だとの指摘が精神科医団体からも寄せられている。
しかし、政府は制度が揺らぐと見て、これらの根幹部分は一切変えなかった。意見公募を踏まえた修正後の運用基準には「知る権利の尊重」を記すにとどまり、法成立時から制度の本質は全くと言っていいほど変わっていない。政府が国民の不安を払拭(ふっしょく)できたとは言いがたい。(久木良太)
秘密保護法が施行 外務・防衛 6万件指定
2014年12月10日 東京新聞朝刊
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国民の「知る権利」を侵す恐れのある特定秘密保護法は十日午前零時に施行された。国家安全保障会議(日本版NSC)や外務、防衛両省、警察庁など十九の行政機関が、特定秘密の指定や秘密を扱う公務員や民間業者への適性評価を始める。安全保障政策を担う外務、防衛両省の秘密指定は計約六万件に上る見通し。
特定秘密は、国の安全などに関わる情報で、特に秘匿する必要があるとの理由で選別された現行の「特別管理秘密」(特管秘)を中心に最初は指定される。総数は昨年末時点で約四十七万件。特管秘以外や、新たに入手した安保関連情報なども特定秘密に追加され、際限なく増え続けていくことも懸念される。
これまで職務上知り得た秘密を漏らした場合、国家公務員法の守秘義務違反(最高懲役一年)などの対象だったが、特定秘密の漏えいは最高懲役十年の厳罰が科される。秘密を知ろうとした側に対する最高懲役五年の罰則も設けられた。
防衛省の指定対象は約四万五千件。自衛隊の作戦などに関する情報で「防衛秘密」として他の特管秘と区別され、法施行とともに特定秘密に移行したとみなされる。外務省は外国からの提供情報など約二万一千件を対象に、大部分を特定秘密にする方向で手続きを進める。特管秘全体では約九割が衛星情報という。
適性評価は、特管秘を扱う資格者(約六万人)や防衛産業の関係者を中心に、犯罪歴や精神疾患、借金、家族の国籍を調査する質問票の提出を求める方法で、一年後までに順次進める。
◆広すぎる対象範囲
特定秘密保護法の成立から一年。安倍政権は運用基準を策定し、監視機関を設置したが、国民の「知る権利」を侵害する懸念はほとんど払拭(ふっしょく)されていない。にもかかわらず、予定通り運用が始まる。運用基準などで懸念が消えないのは法の根幹が変わっていないからだ。
特定秘密の対象は外交から警察関係まで幅広い。拡大解釈可能な表現が盛り込まれ、指定は政府側が都合よく行うことも可能。そんな秘密の漏えいを防ぐため、厳罰で臨む。秘密を知ろうとした市民や記者も、最高懲役五年の罰則対象となる。特定秘密は永久に指定され続ける恐れがある。
政府によると、近年重大な情報漏えい事件は起きておらず、現状で罰則強化は必要ない。
「知る権利」を守るため、厳重に管理するのは防衛や外交の重要な情報に限定するべきなのに、範囲が広すぎる。歴史の検証を受けるため、一定期間を経れば、必ず公開されるような制度もない。
同法はあまりに問題点が多い。国民の不安の声を考えると、同法はやはり必要ないと言わざるを得ない。 (金杉貴雄)
首相官邸前で特定秘密保護法の施行に抗議する人たち=10日午後、東京・永田町で(坂本亜由理撮影) |
国民の「知る権利」を侵す恐れのある特定秘密保護法が十日施行され、各行政機関は、特定秘密を扱うことができる公務員や民間業者を調査する「適性評価」の実施準備を始めた。対象者は最大で十万人規模だが、家族の国籍や対象者本人の精神疾患まで調べるため、プライバシーの侵害や差別の助長につながるのではないかと懸念されている。 (金杉貴雄)
適性評価は、特定秘密を扱う公務員らに秘密の漏えいの恐れがないかを調査する。本人の犯罪歴、精神疾患の病歴、飲酒の節度、借金など七項目を調べるとともに、親、配偶者、子、兄弟姉妹らの国籍、住所、生年月日も調べる。
政府は対象者に関し、現行の特別管理秘密制度で特別管理秘密を扱ってきた公務員の約六万五千人、自衛隊法の防衛秘密を扱ってきた防衛産業などの民間人三千三百人、都道府県警察の一部職員二万九千人-の計十万人規模を最大で想定。特定秘密の指定範囲により増減する可能性もある。
特定秘密を扱う防衛省や外務省、警察庁など十九の行政機関の長は対象者の名簿を作成し、一年後までに順次評価を進める。
調査は本人の同意のもと、質問票への記入を求め、上司にも質問票の記入を求める。疑問が生じれば、さらに上司や同僚に質問し、本人と面談する。必要があれば行政機関や病院などに照会し報告を求める。行政機関の長が調査内容を総合的に検討し、不適格と判断すれば特定秘密の取扱者から除外する。
◆運用監視担当に検事出身佐藤氏
政府は十日、施行された特定秘密保護法に基づく秘密指定の運用などの監視機能を担う内閣府の新設ポスト「独立公文書管理監」に、検察官出身の法務省法務総合研究所の佐藤隆文・研修第一部長(52)を充てる人事を発表した。佐藤氏は、管理監を支える新設組織の情報保全監察室の室長も兼任する。
特定秘密の指定、解除を指揮監督する首相を補佐する内閣官房の「内閣保全監視委員会」や法律の運用支援の事務は上川陽子法相、管理監の事務は有村治子女性活躍担当相を担当とすることも決めた。
佐藤氏は早大卒。千葉地検刑事部長や東京地検公安部副部長を歴任。在米日本大使館の一等書記官を務めた経験もある。
情報保全監察室の体制は二十人規模。
◆「廃止し、国民的議論を」日弁連
特定秘密保護法が十日に施行されたことを受け、日本弁護士連合会の村越進会長は声明を発表し、「法を廃止し、制度の必要性や内容に関して国民的な議論を行うべきだ」と訴えた。
声明は同法について「知る権利を侵害し、国民主権を形骸化する」と指摘した上で「国が扱う情報は本来、国民の財産として公表、公開されるべきなのに第三者のチェックがけん制され、アクセスができなくなる」と批判。昨年、国会で審議された際も十分な説明がなく、国民から信任を得たとはいえないとしている。
また「法廃止のために活動を行っていく」と決意を示すと同時に、情報公開や公文書管理制度の改善、知る権利やプライバシー保護の規定を国際的な基準に沿って明文化するよう国に要求。「法施行後も国が乱用をしないよう、監視し続ける」と表明している。