東京電力福島第1原発事故を受けたドイツの脱原発が完了した。

 最後の原子炉3基が稼働を終え、原子力発電量はゼロとなった。「原発回帰」へ前のめりな当の日本とは一線を画したとも言え、野心的な挑戦を評価したい。

 ドイツは2002年に原発の運転を停止する法律を成立させ、脱原発に道を開いた。10年にメルケル政権が先送りしたが、福島で事故が起き、リスクや放射性廃棄物を問題視し、再び廃炉に転じた。

 ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー危機で、全廃は当初の22年末より遅れたものの、60年以上も続いた原発利用に終止符を打った。欧州最大の経済大国が脱原発を実現した意義は大きい。

 原発事故はいったん起きれば、長期間にわたり甚大な災禍をもたらす。福島事故はなお収束せず、廃炉のめどすら立たない。

 先進7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合で来日したドイツのレムケ環境相は被災地を訪れ、「人々の苦しみがいまだに大きく、事故後の処理の大変さを知ることができた」と語った。脱原発は「核の脅威を最小限に抑える正しい選択だ」との言葉は重い。

 ただ、脱原発後の課題は多い。

 いかにエネルギーを安定供給するか。ウクライナ侵攻を機に高まった原発の運転延長を求める声を押し切った決断だけに、ショルツ政権の指導力が問われる。

 風力や太陽光など再生可能エネルギーが昨年、電力消費量の約46%に到達した実績を背景に、政権は供給に自信を見せる。だが、30年までに8割を再エネで賄うという目標達成は見通せず、石炭火力への依存解消も求められる。

 原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場の選定も進んでいない。廃炉作業と併せ、今後の重大な宿題となろう。

 ドイツより先にイタリアも原発廃止に踏み切っている。一方で、エネルギーの安定供給や気候変動対策を理由に原発活用を継続・拡大する国は多い。

 日本では旧民主党政権が「30年代に原発ゼロ」を掲げたが、政権交代によって脱原発は置き去りのままだ。さらに岸田文雄政権では、運転期間延長や次世代型炉の開発・建設など原発の「最大限活用」に向けた拙速な政策転換が際立つ。

 電力の安定供給は重要とはいえ、安全性や核のごみといった問題を抱える原発への依存は大きなリスクとなる。福島事故を忘れたかのような日本の姿勢は国際社会にどう映るのだろうか。