霊犀社2

第2霊犀社(元祖第一は、田中逸平主宰の私塾)@霊際社@P。ネタ帳・メモ書きなど、まあガラクタ。嫌疑76件わざと表示拒否中

「国民国家の亀裂」

2007-07-10 09:55:34 | LinkRecords
『破戒』と『蒲団』との決闘← 「国民国家の亀裂」 スガ秀実の『「帝国」の文学』
平野=中村説が、『蒲団』を『破戒』によって切り開かれた可能性を隠蔽するもの

その『時代のカオス』は、いまだにわれわれを規定している
われわれを規定しているその当のものとは、一九一〇年の『大逆』事件へと帰結する、天皇制と呼ばれもする政治的磁場

日露戦後において全般的に意識されることになる前期自然主義=ゾライズムからの脱却の課題とは、帝国主義的膨張によって国民国家の亀裂がさらにあらわになった時、その亀裂から顕在化する『もの』を、『自然』イデオロギーによって隠蔽

そこでは自然主義は啄木が過大な期待をもつことができたように、一種の「危険思想」でありうる可能性をもっていた。
臼井吉見の『大正文学史』の記述を借用すれば、戦後三年目の一九〇八年には生田葵山「都会」、小栗風葉「恋ざめ」、佐藤紅緑「復讐」、白柳秀湖「鉄火石火」、草野柴二訳「モリエール全集・中巻」、ゾラ「巴里・後篇)、など十二篇が発売禁止になり、翌年には、宮崎湖處子「自白」、永井荷風「ふらんす物語」「歓楽」、森鴎外「魔睡」「ヰタ・セクスアリス」、後藤宙外「冷涙」、徳田秋声「媒介者」、小栗風葉「姉の妹」、「モーパッサン短篇傑作集」、アンドレーフ「深淵」、シンキウィッチ「二人画工」など二十三篇、翌四三年(「大逆」事件の年)の発禁二十五篇には、水野葉舟「旅舎」「おみよ」「陰」、小山内薫「笛」「反古」、木下尚江にいたっては「火の柱」「良人の自白」「乞食」「飢餓」「霊か肉か」の単行本がふくまれていた。
「大逆事件」はこのような弾圧の頂点にあった。支配層は社会のいたるところに「大逆」を発見していたのである。

「もの」から、あるがままの「自然」へと後退していったのは、日本の文学者の多くが、家父長制の旧道徳にたいして、被抑圧者のポジションにいるかぎりでは「市民」でありえても、彼自身が社会生活のなかで「父」の位置に横滑りしたときには、上に恭順を誓い、下を抑圧するひとりの「臣民」でしかなかったからである。

虚構であるはずの権力は、確かに機能している。
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