伊勢志摩サミット(主要国首脳会議、5月26~27日)を3カ月後に控え、伊勢神宮(三重県伊勢市)を取材する海外メディアが急増している。各国首脳の参拝を視野に、日本の伝統文化への関心が高まった結果、件数は以前の約10倍に増加。神宮は平成25年の式年遷宮に続き、神道への理解を深めてもらう好機ととらえている。
仏メディアも絶賛
2月18日、サミット開催地の三重県をめぐるプレスツアーで、フランスの取材団5人が伊勢神宮を訪問。事務を担う神宮司庁の職員に境内を案内され、手水などの参拝作法を体験した。
仏紙ルモンドのメスメール・フィリップさん(43)は「樹木や川の音が美しく、すごく良い雰囲気。静かな中でも、しっかりと鼓動を打つ日本のハートを感じる」と絶賛した。
神宮によると、これまで月1件程度だった海外からの取材は開催が決定した昨年6月以降、月平均約10件にのぼった。英BBC放送のほか、イスラム教徒の多いクウェートや仏教国タイの報道機関、露航空会社の機内誌も訪れたという。
安倍晋三首相は開催地発表の際、日本の伝統文化の象徴として伊勢神宮に言及。三重県の鈴木英敬知事も各国首脳に参拝してもらうよう政府に働きかけており、海外メディアの関心を集める要因となった。
「Jingu」に統一
宗教・宗派や国の違いを超えて、日本の神道文化をどう発信するのか。海外メディアの取材窓口となる神宮司庁広報課の音羽悟係長は「感じ方はまちまち。アジア人は境内の自然に、欧米人は精神性に関心があるようだ」と話す。
音羽係長が意識するのは、平安末期の歌人、西行法師が伊勢神宮を参拝したときに詠んだ歌だ。
《何事の おはしますをば しらねども かたじけなさに 涙こぼるる》
見知らぬ神々をも恐れ多い存在とみる感性を紹介し、神宮を日本人の「心のふるさと」だと伝える。
英語表記にも気を配る。伊勢神宮は従来「Ise Shrine」と訳されたが、欧米の聖堂や廟を連想させるとして、日本語の「Ise Jingu」に統一。国や県も協力し、伊勢市内の道路標識を「Jingu」に変えた。
動画でも発信
25年の式年遷宮で神宮司庁は、神社本庁(東京)と共同で、神道文化を解説する英文冊子「SOULofJAPAN」を発刊。電子版のダウンロード数は300万件を超えた。
ここでも神を「God」と訳さず「Kami」と表記し、自然に神々が宿る感覚をイラスト入りで説明。神話や祭祀(さいし)の意味を含め、一神教の宗教とは異なる信仰のあり方を紹介した。
昨年1年間の参拝者838万人のうち、外国人は約1%にとどまったが、サミット開催で、神宮司庁は外国人参拝者が増える可能性も見越す。今回は新たに動画を制作しインターネットで配信したほか、神宮の歴史や祭儀を解説した英文パンフレットも作成した。
神宮司庁は「伊勢神宮は自然と平和、祈りが調和する聖地。一般の訪日客にもこうした理解が広がる機会になれば」としている。