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慶應大学コレギウム・ムジクム「コジ・ファン・トゥッテ」(藤原記念ホール)
慶応日吉協生館にある藤原洋記念ホールで2年振りに演奏会を聴きました。慶應義塾大学コレギウム・ムジクムは定期的に無料コンサートを開催していますが、今回は初のオペラ公演で有料(全席自由2000円)です。
コジ・ファン・トゥッテは、モーツァルトの大好きなオペラです。冒頭の序曲とそれに続くいくつかの重唱は天国的で数多あるモーツァルトの音楽の中でも最上の一つです。全体を通してもシンプルな旋律の重唱の美しさは堪りませんが、一方で「フィガロ」や「ドン・ジョバンニ」にある有名なアリアは少なく若干平坦な印象もあります。
いずれにしても一度生で聴いてみたかったのでよい機会と藤原ホールへ向かいました。開演17時の15分前に到着し、チケットを購入して2階席に上がるとバラバラと空いていて良さそうな席に座れたのですが、開演時にはほぼ空き席ないくらいに埋まっていました。
2年前に聴いたベートーヴェンの第7交響曲同様に指揮は石井明氏です。
17:00~18:25 第1幕
18:25~19:00 休憩
19:00~20:25 第2幕
モーツァルトの音楽ドラマに酔えました。始めはどんな演奏をするんだろう、歌手のレベルはどうだろうと注意して聴いていたのですが、途中からは、「コジ・ファン・トゥッテ(女はみんなこうしたもの)」という移ろいやすい恋心を巡る悲喜劇に浸かってしまいました。
日本語字幕が舞台背面の白幕中央に薄く投影されるのですが、これがちょうどよく見易くて、ストーリー、歌詞の内容を理解しつつオペラを楽しむことができます。特に後半のフィオルディリージが貞操を守るか、新しい恋に落ちるか心揺れるシーンでは音楽は無意識に聴くくらいで、関心は筋書きや演技の方にありました。これはCD鑑賞ではないことです。
また、歌手が客席に向かって、女性は移り気で、チャンスがあれば百でも千でもロマンスを楽しむものですと歌うと、女性客のじっくり聴き入っている雰囲気が感じられました。1790年の初演以来、滑稽な設定に笑いながらも、多くの真面目な観客の内に秘めた浮気心をザワザワさせてきたんだろうと想像しました。改めて歌詞を見ながら音楽を聴くと、能天気な浮気モノではなく、シリアスな人間ドラマであることが分かります。このオペラの本質を初めて知った思いでした。いろんな気付きがある生演奏はやっぱりいいです。
オーケストラは、狭い舞台の前で小さな編成です。2年前に聴いた印象に近く、コンパクトできびきびとした音づくりです。フルート、オーボエなどの木管が魅力的です。弦も良くて、艶やかな最高音が出ないのはアマチュアオケ共通ですが、申し分ありません。ティンパニも正確だったと思います。合奏が乱れたり、ホルンが不安定な個所もありましたが、全般を通しては天晴な出来だったと思います。
歌手は公募オーディションで選ばれた若手プロでした。普段、レヴァイン盤やベーム盤を愛聴していてそこでのトップ歌手しか聴いたことがないので、始めはどうしても陶酔感、躍動感に乏しいかなあ、また、6人の声質の違いがはっきりしないなあと聴いていたのですが、途中からは違和感もなくなり楽しめました。
コーラスはおそらく学生で、2年前に聴いた合唱団と同じなのか分からないのですが、その時と比べると随分よくて、まとまっていました。コッテリ装飾の主役6人と対比して、飾り気のない学生然とした雰囲気がよかったです。舞台が狭いこともあり、1階席から歌ったり、舞台に上がったり、2階席からと移動しているのも楽しめました。
予算の都合上、簡素な舞台でしたが、想像していたものよりずっとよく、全体を通じてシンプルですが簡略のない本当のオペラ上演でした。音楽監督・指揮・演出の石井明氏の総合的な手腕に感服です。
観に行ってよかった。こんなに楽しめるとは想像以上でした。本公演は全4回あり、このあと12/22、1/4、1/5に開催されるようです。
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