沼田まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち」

              

 大型書店の店頭に山積みされてプッシュされている沼田まほかるの「九月が永遠に続けば」、「彼女がその名を知らない鳥たち」です。今回、初めて著者のことを知りました。56歳でのデビューです。

 2作のうち、より扱いの大きいデビュー作でホラーサスペンス大賞受賞の「九月が永遠に続けば」です。女性主人公の研ぎ澄まされて増幅された感情表現にクラクラして惹き付けられました。桐野夏生をさらに過激にした感じでしょうか。目が眩む。ただ、途中からの展開に少しずつ違和感を感じてしまい結局付いていけなくなりました。

 それで、第2作である「彼女がその名を知らない鳥たち」についても正直途中で止める覚悟で恐る恐る読んでいたのですが、こちらは止まらなくなりました。

 終わってしまった不倫の思い出を引きずりつつ、成り行きで関係を持った気持ちの悪い肉体労働者の陣治と暮らす十和子。華やかな過去の恋愛シーンの回想と下品で汗臭い現在の男との生活が綴られていきます。書店の手書きポップには前半は読むのが辛いようなことが書いてありましたが、とんでもない、ここが滅茶苦茶に面白いです。
 十和子は陣治の献身的な世話を受けつつも、品のないしぐさ、卑屈な行動を軽蔑して、罵倒し続けます。そして、新しい男との出会い、不可解な出来事、隠されていた過去が明らかになる・・・。

 書店の手書きポップにあったようにラストシーンは驚愕です。よくある映画、小説の宣伝コピー「あっと驚くラストシーン」にはだいたい驚かないのですが・・・。ぞっとして、何とも言えない複雑な感情が湧いてきます。忘れられなくなります。

 とにかく読ませます。面白い。これは名作だと思います。個人的には、桐野夏生の「OUT」、「柔らかな頬」、奥田英朗の代表作、角田光代「八日目の蝉」などと並んで日本のエンターテイメント小説の代表作の一つです。


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