カーレド・ホッセイニ「千の輝く太陽」(土屋政雄訳)

                


 アフガニスタン出身でニューヨーク在住のカーレド・ホッセイニの小説です。大好きな土屋政雄翻訳の本を探している中で見つけて電子購入し、小説なのかノンフィクションなのかも知らずに読み始めました。


 先日新聞にアメリカがアフガニスタンへの攻撃を始めてから15年、アメリカの戦争の期間としてはベトナムを抜いて最長になったとありました。


 アフガニスタンは1973年に王制を廃止。その後混乱が続き、1979年にはソ連が侵攻します(著者は1980年に米国に亡命)。結局、撤退したのが10年後の1989年。ようやく独立国家として平定するかと思いきや、民族間紛争が激化。しかも大国が提供した武器が大量に残された中での部族どうしの争いは悲惨を極め、多くの市民が巻き込まれて犠牲となります。そして、憎しみ合いの中からタリバンやアルカイダが誕生する。


 救世主と思われたタリバンも原理主義的な思想で市民を支配、大仏の破壊などで世界中から批判を浴びます。


 混乱が続く中、2001年に同時多発テロが発生し、主犯と目されたアルカイダ、ビンラディンが潜むアフガニスタンへは現在までアメリカによる爆撃が続いています。


 40年以上も紛争が続く国家の悲劇です。


 沢木耕太郎の「深夜特急」を数年おきに読み直すのですが、今年の夏、電子書籍版では初めて読んで、改めてワクワクするような旅を堪能しました。


 その中で、アフガニスタンは、ヒッピーの聖地の一つとしての首都カブールと、美しいシルクロードとが描かれます。本に年代の記載はないのですが、1970年代の前半らしいので、もう少し遅かったらこの旅・この本は生まれなかったことになります。


 いつか行ってみたい外国はいくつもありますが、イスラエルやアフガニスタンへ行くことは、私の時代にはもう無理なのかもしれません。


 こういう時代背景の中でのアフガニスタン、ヘラートとカブールでの物語。二人の女性が激動の中を力強く生きていく。美しい国土、家族の死、子供、忍耐、理不尽、ささやかだけど確かな幸せ、父の懺悔、マリアム。とにかく面白く、そして感動的。心が何度も揺さぶられます。
 中東を舞台とした現代小説を読むのは初めてだと思いますが、その異文化の香りも楽しく、一方で逆境に歯を食いしばって生きる人間の営み、泥臭い崇高さは万国共通です。


 余韻の長い読後感、最高の小説を読んだ充実感があります。この小説にめぐり合わせてくれた翻訳の土屋政雄氏にまたまた感謝です。





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