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チェリビダッケ/ミュンヘン・フィル「ブラームス交響曲第4番 他」
久しぶりの特上の一枚です。チェリビダッケがミュンヘン・フィルと初来日した際の演奏会をラジオ放送用に収録したものです。これは1986年10月15日の東京文化会館での演奏。
チェリビダッケは、緑色のジャケットの海賊盤から、例のミュンヘン・フィルとのブルックナー、少し遡ったシュトゥットガルト放送交響楽団との多様なレパートリーのディスクなどなど、熱狂的なファンではないつもりですが、なんだかんだでほとんどのディスクを持っているのでとても気になる指揮者なんだと思います。やはり好きなんでしょう。
ただ、ブルックナーを聴きたいモードにもう何年もなっていないので、最近はチェリビダッケは聴いていませんでした。
それでも最近発掘されている東京ライブものは高品質のものが多いのでHMVのホームページでこのディスクを見付けると迷わずに購入することにしました。もともとは2枚組で5600円で売っていたものを1050円で再発売するという安さも魅力でした。
当日の演奏順に1枚目に前半のプログラムとおまけのリハーサル風景、2枚目に後半のプログラムとアンコールが収録されています。
オープニングの「ロッシーニ“どろぼうかささぎ”序曲」。ドラムロールの後の弦の艶やかさ、輝かしい響き!チェリビダッケが拘った音楽、世界レベルのミュンヘンフィルの機能美。聴き入ってしまいます。オペラ序曲風に勢いよくリズムを刻んだものではなく、アクセントをつけない純音楽風の演奏です。ゆったり堂々としているので晴れやかな祝典風に聴こえます。この音楽を当日ホールで聴いた人達は幸せです。
ロッシーニの序曲の中で最も好きな一曲、というより全ての楽曲の中でも大好きな曲なので普通の演奏でも大いに楽しめるのですが、これは堪りません。
前半のメインは「R・シュトラウス 交響詩“死と変容”」。この曲はそんなに聴いたこともないので他との比較はできないのですが、丁寧に紡ぐ音楽が後半に向けてドラマチックに盛り上がっていきます。この曲には冗長な印象がありましたが、美しい旋律、響きを楽しめた30分でした。私にとっては初めてこ曲を認識できた経験となりました。
そして後半のブラームスの交響曲第4番です。元々第4番は冒頭のティーラーリーラーからして憂鬱で重くて好きになれない交響曲でした。この曲の魅力を開眼させてくれたのが同じチェリビダッケの1974年のシュトゥットガルト放送交響楽団とのライブ録音です。テーマ性を意識させない純音楽的な演奏、しかも一瞬も手を抜いたところの無い濃密に織り成す音楽、これまでの暗めの化粧を落として美しい素顔が現れたような感激を覚えたものでした。
その12年後の演奏ですが、基本的なスタンスは大きく変わりません。ただ、若干速度が遅くなって録音も向上した分、ニュアンスの変化が抵抗なく心に染み入ります。合奏した弦に木管、金管が溶け合って全体として大きく深いんだけど透明感のある響きです。この透明感は以前、パリ管を聴いた時に感じたことがありますがもっと深みのあるもので、深い森の朝の空気とでも言える豊かなものを感じます。濃厚な演奏なんだけど変な満腹感がないのはこの不思議な透明性があるからでしょうか。いい演奏、いいオーケストラ、なんていい曲なんだろうと思えます。
第2楽章の緩徐楽章はよりスローテンポですが、全体として決して遅いだけでなく、第3楽章には力強い推進力、第4楽章にはほとばしる激情があり全体としてバランスの取れた構成です。もう少し後のチェリビダッケの特徴である異様な遅さはまだなく、素直に音楽を楽しめます。
晩年の巨大なチェリビダッケ節は好き嫌いがあるでしょうが、この頃までの演奏はよりノーブルで聴き易い。このブラームスの第4交響曲は文句なく最上の美演です。
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