亜樹 直/オキモト・シュウ「神の雫」(第24巻)

               

 お気に入りの漫画は新刊が出ていればその都度購入してという感じで特別に一巻を紹介するつもりはなかったのですが「神の雫24」は特に面白く感じました。

 何かというとこれまでのストーリーとは関係なくちょっと脱線していて過去の巻を読んでいなくても楽しめる一冊になっています。具体的にはボルドー地方のワイン畑の中を走るメドックマラソンをなぞって走りながらマラソン大会同様に沿道のシャトーが振舞うワインを飲みながら(酔いながらなんて無謀ですが)走るというものです。

 有名シャトーのワインを口にしながらお約束の“トリップ”が連続してあります。どうしてこの漫画がフランスの名だたるワイン雑誌・団体から特別表彰されているのかがよく分かるワインの面白さ、奥深さをビジュアルに伝える名シーン集となっています。ワインっていいなあ、ワインは飲まなきゃ分からないということを再認識させてくれる小旅行に同行します。この漫画を読んだことのない方にもお奨めできる一冊です。

 今も開催されているのか分からないのですが、私と妻は新婚旅行でパリに滞在した際、オプションツアーでブルゴーニュのコート・ドール(黄金の丘)のワイン畑を巡るワゴンツアーに参加しました。ただツアーといっても出発地はコートドールの端に位置するディジョンなので、パリからはフランスの新幹線にあたるTGVに乗って移動しなければなりません。確かディジョン到着からツアーの出発時間まで1時間くらいしかなかったのですがどうしてもこのツアーに参加したくてTGVの券を事前に予約して何とか合流することを計画しました。幸いにも全ては予定通りに進んで(国内旅行なら当たり前ですが)パリからディジョンに2時間弱で到着。
 ツアーはワゴンに乗ってディジョンから、シャンベルタン村、ロマネ・コンティの畑などを通ってボーヌまで、途中数ヵ所で醸造所に寄って試飲するというものでした。楽しくて本当に忘れられないブドウ畑巡りになりました。ボーヌで3時間近くの自由時間があり観光してそれからディジョンに戻るルートでしたが、全てが楽しく印象に残っています。
 また帰りのTGVを待つ間にディジョンの街中を散策した際に予備知識なくぶらっと入った店がディジョンマスタードの「マイユ」の本店というラッキーもありました。妻が容器を異常に気に入って何個も買い込んだのもよい思い出です。新婚旅行なのに見知らぬ外国の街で時間ギリギリの綱渡り、今となってはよくやったよなと思いますが、結果としてあの1日は何から何までうまくいった最高の小旅行になりました。

 それを思い出したこの「神の雫24」です。

          

 そして紹介されていたワインの中から「シャトー・グリュオ・ラローズ2000年」を注文しました。岡山に来て2年、いろいろあったけど一応終えたという自分への慰労を名目に購入しました。いつか飲んでみたかったのとちょうどエノテカのセールで21,000円を14,800円で売っていたからです。

 「神の雫」やエノテカにいろいろと書かれていましたが、まずは無心で味わいます。

 カベルネソーヴィニオン特有の香りがふわっと広がります。最近飲んだ「ラスカーズ」や「コス」がそれ程香らなかったので、これこれ、こうでなくちゃと思います。口にすると繊細なんだけどどっしりとした果実味を感じます。酸味、心地よいすっぱさが口に残り繊細さを感じる一方で、味わいの真ん中にバランスよい佇まいがあります。今はまだまだ軽い印象もありますがもっと重厚になる風格を感じます。
 2000年なので10年経過しているワイン、1.5万円の価値があるのかよく分かりませんが、この位のワインを飲みたいなあと思います。これは十分なレベル、旨いです。
 「神の雫」では馬に乗ってパリの凱旋門に凱旋する英雄のイメージにトリップして、「凱旋門だ  なんて巨大で勇壮なんだろう でも近寄って見ると繊細で優美な造りに魅了されてしまう  このワインは戦士を迎え祝いそして癒してくれる凱旋門だ」とあります。私に凱旋門は見えませんが、この表現には共感できます。この「グリュオ・ラローズ」は納得です。

 「神の雫」で紹介されるワインは値段の面でも何とか手が届く1本にすることにも配慮されていると読みました。味だけだとブルゴーニュの希少ワインとボルドーの1級5大シャトーがやはり美味しいんだと思います(飲んだことないので分かりませんが)。それをワインは飲むことに意味があるという視点で値段も考慮した結果、ボルドーでは2級シャトーが結構紹介されることになっています。ロバート・パーカーjrが持ち込んだ消費者の視点は評価されるものの結果としてワイン価格の高騰を生みました。それを乗り越えてリーズナブル(といってもちょっと高いですが)なワインの中にも素晴らしいワインはありますよという「神の雫」の視点がフランスで評価されている理由かもしれません。


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