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朝吹真理子「きことわ」
2011年02月13日 / 本
話題の芥川賞受賞作2編を読むために文藝春秋2011年3月号を購入しました。これまでも話題の受賞作を読もうと文藝春秋を買ったことは複数回あると思います。それでも実際に読み通せたのは3~4編でしょうか。やはり純文学というのは興味を持続させるのが難しく読み終わっても内容を覚えている作品はほとんどありません。
ただ、選評を読むのは結構好きで、テーマが曖昧で輪郭のはっきりしない異作を女性選者が推薦して、石原慎太郎や宮本輝が反対していると面白いです。今回、石原慎太郎は西村賢太推し、宮本輝は朝吹真理子推しです。
まず、西村賢太「苦役列車」です。面白いです。最底辺に属する貫多が肉体労働に従事しながら生活していく物語。昔なら社会の逆境に打ち克って成長する、そんな中で親しくなって信頼した友人に裏切られて社会の厳しさを知るといったストーリーなのかもしれませんが、主人公が悪童であるのは現代風でしょうか。いい悪いは置いておいて現実に存在する人間を描く。恵まれなかった家庭環境の影響を受けてそれなりに心が荒んでいるのですが悪行を重ねるということでもなく、知人との交流に喜びを見出したり、自分のことを「ぼく」と呼んだりと、不思議な違和感というか面白味があります。印象的でどこか親しみやすい人間をリアルに描いた。正直、こういう作品が芥川賞に相応しいのかどうかは分かりません。ただ、この作者の作品をまた読みたいと思わせます。そういう意味ではいい作品なんだろうと思います。
そして、朝吹真理子「きことわ」です。過去、現在と異なる時間が交錯するプルースト的な(といっても私は「失われた時を求めて」を読み通せませんでしたが)実験的な作品です。こういう物語は好きな方なので期待して読みました。作者も冒頭に綴っていますが、「とりたてて記憶されるべきことはひとつとして起こらなかった」夏の思い出。15歳の永遠子(とわこ)と8歳の貴子(きこ)が25年後にこれまでの時間の流れを振り返り、そして再会をはたす。実際に起こったことなのか、夢なのか、曖昧模糊とした記憶と現実とのオーバーラップ。キラキラと光る箇所もあるのですが、小説として物語として魅了されたかというとそこまでではありません。特に後半は退屈で読み通すのが辛くなりました。ただ、設定や挿入する事件なりが嵌れば相当感情移入して楽しめるんだろうなという予感があります。
確か芥川賞は作品単品の評価(直木賞は作家の筆力・将来性)なので、西村健太氏の方が賞に相応しいのかもしれませんが朝吹真理子氏の将来性、次回作に期待大です。
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