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モーリス・ベジャール/ジョルジュ・ドン「二十世紀バレエ団の芸術」
新婚旅行でパリに行った際、念願のパリ・オペラ座(旧オペラ座ガルニエ宮)でバレエを観ました。モーリス・ベジャール振付の「コンクール」という新作で「Completely Sold Out」と垂れ幕がかかっていましたが、当日窓口に行くとどこかの席は空いていそうです。どこかというのは窓口の女性がフランス語しか喋らないので全く理解できないからです。
フランス人はプライドが高いので英語が使えても絶対に喋らないと聞いていましたが、私の経験では、街中ではほとんどの方は英語が片言も分からないので本当に使えない、理解できないことが多いのだと思います。悪気はないです。一方で、劇場などの窓口では伝聞は本当だと思います。フランス語が全く聞き取れないので(第2外国語はフランス語でしたが…)、こちらが英語を使い始めると露骨に嫌な顔をします。そうは言ってもこちらもチケットがほしいので粘ると結局、ボディランゲージの末、どこかの席を売ってくれます。分かるくせに意地悪しやがってと内心怒りつつ、仕方ないので困りきったお願い顔を作ります。
入場すると、券は桟敷席というのでしょうかボックス席でした。係員が古くて大きな鍵を使って開けて、入れてくれました。ステージから見て、一番右の一階のボックスです。固定席ではなく、椅子が前に3席、後ろに3席置いてあります。我々は後ろの席でした。どおりで安かったんだと思いつつ、生まれて始めてのボックス席に興奮しました。有名なシャガールの天井画や平間席の豪華な赤色のソファのような席を眺めたりしました。ロビーも金ピカで溜息がでるような作りになっています。
そんな位置の悪い席に座っていては、当然、舞台が見えないので、立ち上がって、舞台から遠い端にいって覗き込むように舞台を眺めます。前の席の人も席を詰めてくれて見易い位置を開けてくれます。バレエのコンクールにおける審査員や挑戦者たちの様子をコミカルに描いたようなバレエでした。ただ、我々は結婚式の疲れと時差ぼけとでほとんど寝ていたのでもう席はどこでもよかったです。パリ・オペラ座でモーリス・ベジャールのバレエを観たという思い出作りです。
モーリス・ベジャールのバレエなら、何といってもこのジョルジュ・ドンが踊る「ボレロ」です。「愛と哀しみのボレロ」というヨーロッパ映画でもジョルジュ・ドン自身が、ソ連からの亡命ダンサー役で踊っていたので見たことがある方もいらっしゃると思います。
クラシック音楽同様に、モダン(現代物)はバレエでも浸透していないというか、決定的な演出物がないので出し物の中心にはなりにくいところがあります。今でもまず観るべきは「白鳥の湖」です。見せ場の多さがずば抜けています。その他の演目となるとソリストなどお好みでというところでしょうか。そんな中でこのモーリス・ベジャールによる「ボレロ」はモダンであるのにもはや古典になりつつある傑作です。
不思議な振付のバレエです。思春期に何か衝動を抑えられなくて無意識にとってしまう体の動きといったらいいのでしょうか。実際には、ここで表現されている様々な抽象的な踊り、振り付けに古典や心理学に基づく公式の説明があるのかもしれませんが、見た人が自由に感じることができる芸術になっていると思います。
このディスクにはボレロの他、「アダージェット」、「愛が私に語るもの」というマーラーの音楽に振付けたモダンバレエが収録されています。ボレロほど完成度は高くありませんが、ジョルジュ・ドンという天才カリスマダンサーの凄さを堪能できる一枚になっています。
このモーリス・ベジャール振付による「ボレロ」は、現在、東京バレエ団と一部のソリストにしか許可されていない演目になっていて、この前新聞にシルヴィ・ギエムによる最後の公演があるという宣伝が載っていました。現存する最高の天才ダンサーであるシルヴィ・ギエムは実演ではまだ見たことがないので女性版のボレロも観てみたいなあと思いました(…申し込んでみたところ完売してました。残念。)
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