凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

反則技 1

2012年07月29日 | プロレス技あれこれ
 どんなスポーツにもルールがありそれに逆らったプレーは「反則」となる。「反則」は、基本的には犯してはならない事柄であり、反則を犯したものには一定のペナルティが与えられるのが通常である。競技によっては反則行為を犯せば即敗退、となる場合もある(陸上短距離のフライングなど)。
 したがって、やってもいい「反則行為」というものは本来は存在しないはずである。
 細かいことを言えば例えばサッカーには「マリーシア」とよく呼称されるレフェリーのブラインドをつく反則行為があったりするが、もちろん公式に認められているものではない。認められる行為であればそれは、反則ではない。
 ところが、その「認められている反則行為」という、言葉だけでみれば完全に矛盾したプレーが、唯一プロレスリングにのみ存在する。それを総称して「反則技」と呼ぶ。
 なぜそのような「反則技」が存在するのか。それは決してルールがいいかげんであるからではない。原因は、プロレスルールの二重構造による。

 プロレスファンであれば常識の範疇であり、またプロレス好きでなくとも極めて知れ渡っている「プロレスのルール」であるが、一度ちゃんと整理しようと思う。
 実はプロレスのルールには「ローカル・ルール」というものもある。団体によって微妙な差異があるのだが、おおまかな部分はほぼ統一されている。
 一例として全日本プロレスの公式ルールを紹介する。
第5条 主な反則行為
 拳で殴打してはならない。ただし、レフェリーのチェックを受けたオープン・フィンガー・グローブを着用した場合は許可されるが、顔面への攻撃はしてはいけない。
 頭髪・コスチューム等を、掴んだり、引っ張ったりする行為。
 爪先で蹴る行為。
 噛み付く行為。ひっかく行為。
 肘・膝などによる鋭角的な攻撃。
 金的へのあらゆる攻撃。
 手足の指関節への攻撃は、三本以上でなくてはならない。
 喉をしめる行為。
 ロープエスケープをしている相手に対しての攻撃。
 タッグマッチにおいて、試合権利のない選手が攻撃を加える行為。
 目・鼻・口・耳へのあらゆる攻撃。
 器物・危険物を使用しての攻撃。(凶器攻撃)
 覆面レスラーの覆面を剥がしたり、引っ張る行為。
 レフェリーへの暴行。
 このような行為が禁止事項であり「反則」となる。
 他団体もほぼ同様である。新日本プロレスの公式ルールを参照しても、ニュアンスが多少異なれど基本的には変らない。これ以外に新日には「故意に相手競技者を場外フェンスにぶつけてはならない」との一文が加わっている程度である。これは、場外フェンスを設けていない団体も存在し、ローカルルールと言える。(場外フェンスは今はどこにでもあるが、昔は全日はじめ他団体には存在しなかった。これは新日本で始まったとされる。タイガージェットシンが暴れまわって危険だったから。当時はオーバーザフェンスという反則もあった)
 で、これらの反則を犯した場合のペナルティは「敗退」である。
 前述全日のルールの「第4条 勝敗の決定」において、試合の勝敗決定要因として以下の項目が挙げられている。「ピンフォール」「ギブアップ」「KO」「レフェリーストップ」「リングアウト」「TKO」「試合放棄」「ドクターストップ」「反則」と列記されている。反則攻撃を行えば負けなのだ。これは、全てのスポーツの中でもかなり厳しいルールだと言える。
 ただし「留保」が付く。
 「第5条 主な反則行為」中の一文「以上が主な反則行為で、レフェリーの判断で反則カウントを取ることが出来る。また、レフェリーの判断下において反則行為はこの限りではない」。そして「第4条 勝敗の決定」中の「相手が反則行為を繰り返し、レフェリーが5カウントを数えた場合、勝ち。※また、あまりにも悪質な反則行為を行った選手に対し、レフェリーの判断で即、反則負けを宣告する時もある」という説明。
 あまりにも有名なプロレスのルールである、反則行為は「5カウント以内はOK(ただしやりすぎちゃダメよ)」という規定。これにより「反則行為」は「反則技」へと昇華する。5秒以内なら、やってもいいのだ(あまりにも悪質でなければ)。
 この「あまりにも悪質な反則行為」というのも非常に文学的ではあるが、一応「生命に関わる行為」「選手生命に関わる行為」「翌日の試合に影響を及ぼす行為」と解釈しておこう。そういう行為は反則負けの要因となる。したがい、それ未満の行為(攻撃)は、「反則技」の範疇となる。

 では「反則技」には、どういう技があるのか。
 全日、新日とも、ルールブック筆頭に挙げられているのが「体のいずれの箇所をもナックルパート(正拳)で殴打してはならない(新日)」である。拳で殴る行為は、反則である。殴ってはいけない(但し、5秒以内ならその限りではない)。
 一発殴るのに5秒もかかるスローパンチなど幼稚園児でも避けられる。そんなパンチは存在しない。したがって正拳での殴打は「反則技」となる。
 レスラーは皆、盛大にこの反則技を使用している。これについては以前記事にしたので参照していただきたい。→ナックル
 他に打撃系の反則といえば、爪先での蹴り(トーキック)、そして肘、膝を鋭角的に使用した打撃である。
 これは、あまり使用されない。
 ひとつには拳と異なって加減がしにくいことがあるだろう。プロレスは相手に怪我をさせるために技を繰り出すわけではなく、具体的にはダメージを蓄積させるためである。トーキック(足で行う打撃では最も鋭角的)はそれを超えてしまう可能性がある。実に危険。相手の腹にトーキックをぶちこめば、腹腔破裂の可能性も出てくる。5秒以内の技であっても、危険すぎる。
 なのでトーキックはほとんどのレスラーが使用しないが、僕が知る中では唯一、タイガージェットシンが多用していた。腹部を突き上げるように爪先で蹴る。危ねーなーと思っていつも見ていた・
 鋭角的なエルボーも同様に危険である。実際のエルボー攻撃は肘の先端を使わない。エルボーパッド、エルボースマッシュは肘関節から前腕外側をヒットさせ、エルボードロップやエルボースタンプは肘関節から上腕外側をヒットさせる技である。アックスボンバーは肘関節側面。
 ニー攻撃もこれに準じ、基本的に先端を鋭角的には用いない。例外的に、武藤のシャイニング・ウィザードはその開発初期、膝の先端が相手頭部に正面からぶち込まれていたと思う。あれは、反則技であったと言ってもいいだろう(もちろん5秒以内だが)。この初期型は危険すぎるのですぐに改良され、膝関節上部腿部分が相手の頭部側面に回し蹴りのようにヒットする形態となった。現在のシャイニング・ウィザードは反則技ではない。
 このように、肘・膝の鋭角的攻撃は怪我をするため通常は5秒以内であっても鋭角的には使用されない。
 したがい、打撃系の反則技は、ほぼナックルパートに限られるということになる。また一部トーキックも使用されるが(シンとかね)、一般的ではない。
 なおローカルルールでは、例えばUWFで頭突きが反則となったりもしたが、一般的にはなんら問題は無い。また、チョップが反則とされる国(地域)があったと聞いた事があるが、詳細は知らない。手刀も鋭角的だからなあ。しかし力道山の空手チョップや橋本の袈裟斬りチョップ無き現在、日本のチョップの大半は掌を使用しているので鋭角的ではなくなっているが。
 地獄突きも鋭角的ではあるが、あれは貫手であり鍛え上げたレスラー相手ではなかなかに通用しない。顔面、喉笛、みぞおちなど場所限定となるだろう。なので、反則とはされていない。
 他にも、コーナー上段からの攻撃などが反則とされている場合があるが、いずれもローカルルールである。

 プロレス技は、打撃技・投げ技、極め技(絞め技・関節技)から成る。ジャイアントスイングや雪崩式リングインのような例外もあるが、基本的に攻撃形態はこの3種類に分類される。打撃技においては前述のように主としてナックルが反則技となっているが、他の形態ではどうか。
 投げ技には、反則技はない。ローカルルールとして、例えば藤波辰巳が放つドラゴンスープレックスが危険すぎるとWWWF(現WWE)で「禁じ手」とされたことがあったが、これも「反則技」の範疇であったかどうか。現実的にはルール上は問題がなく、選手を壊す可能性があるので止めてほしい、との要請による。「禁じ手」という技はアンドレのツームストンパイルドライバーなど多々あるが、それらは厳密には反則ではない。
 極め技にも、反則技はほぼ無い。関節技は加減がきくので、相手を壊さない程度であればそれは認められるのがプロレスである。ヒールホールドなどはかなり危険度が高く多くの格闘技では禁止されているが、プロレスにおいて「靭帯や半月板を損傷しない程度で」仕掛けるのは合法である。

 ただひとつ、絞めで禁止されている技がある。それは、チョーク攻撃である。首を絞める行為。首を絞めれば呼吸が出来なくなって死んでしまう。プロレスは殺人のために試合をしているのではない。当然ながら反則となる。スリーパーホールドのように頚動脈を絞めて「落とす」のは合法であるが、気管は絞めてはいけない。
 余談だが、チョークが総合格闘技において合法とされているのがどうも納得いかない。すぐにギブアップするからかまわない、と考えているからなのだろうが、これは明確に「殺す」技である。プロレスのように5カウントがない試合で仕掛けていい技なのだろうか。派生して安田がギロチンチョーク(ワンハンド・チョーク)を掛けたりノゲイラがスピニングチョークを得意技としていたりしたが、実に恐ろしいと思う。(スピニングチョークが喉を絞めているのかには疑問があるがそれはさておき)
 このチョーク攻撃はもちろん反則だが、のどに手がかかっているだけで気道をふさがなければいい。したがってチョーク・スラムなどは無問題である。ネックハンギングツリーもOK。
 問題は絞めていると考えられる技で、ひとつはやはりチョークスリーパーだろう。
 スリーパーホールド(裸絞め)は、技術が必要である。頚動脈を圧迫するように仕掛けて脳への血流を阻害し、落とす。これをヘタなレスラーが力任せにやれば、喉まで絞まってしまうことになる。そうなれば、反則である。ただし、これは外見では判断がつけにくい。
 ただ、スリーパーで喉を絞めるということの多くは、腕でノドボトケを圧迫するということになる。気管を絞めようと思えば本来喉仏より少し上だが、レスラーの太い前腕だけで的確にポイントを押えるのは難しいので、そうなる。
 喉仏を前腕で押されたら。これは自分で喉笛を押してみればわかるが猛烈に痛い。したがってチョークに入ったなら掛けられた側は痛いからアピールをする。そしてレフェリーがチェックに入って反則カウントをとる。5カウント以内に技を解かないと反則負けとなる。
 ここで、グレーゾーンの技がある。猪木の「魔性のスリーパー」と称された、衰えた後年の猪木がフィニッシュとした技のことである。この技の判断は難しい。
 藤原組長に掛けたスリーパー、高田へのスリーパーなどが初期の代表例だが、カクンと入って瞬時に落ちる。落ちる、ということは頚動脈絞めであり喉絞め→呼吸困難による失神ではない。実際喉に入っているとは思えないのだが、vs天龍戦においてレフェリー(タイガー服部)は、このスリーパーをチョークスリーパーと判断し反則とした。あの角度だと違うと思うけれどもなあ。

 この魔性のスリーパーが「反則技」であったかどうかは措いて(よくわかんないんだもん)、喉攻撃のもうひとつの代表的な反則技は、コブラクローである。 
 コブラクローは、もちろんタイガージェットシンの技である。シンは、大試合ではブレーンバスターやアルゼンチンバックブリーカーなども使用したが、通常の試合は大抵このコブラクローで決めていた(もっとも凶器使用による反則負けが多くコブラクローがフィニッシュに結びつくことは少なかったと思うが)。
 さて、コブラクローは反則技、と書いたが、実はそうではないという説も。wikipediaなどは「気管ではなく頸動脈を絞めているので、反則のように見えて、実際は反則ではない」と明確に書いている。そぉかあ?
 コブラクローは通常のクロー技と異なり指2本で喉仏を挟み、そのまま押すことになって頚動脈を圧迫していると言われるが、僕が見た中ではノドボトケを掴んでいるように見えたこともあったぞ。実際はノドボトケを掴んでも反則ではないかもしれないが、角度によっては喉も絞まる。スリーパーのように曲げられない前腕で絞めるのと違い、指はいかようにでも動くので、ノドボトケであろうが頚動脈であろうが気管であろうが自由自在に攻められ、しかもレフェリーに見えにくい。これは、チョークと言ってもいいだろう。パッと見れば、これはどう見ても首を絞めている以外には見えないよ。
 シンがコブラクローを繰り出しても、たいていは反則カウントをとられなかった。だから反則ではない、との見方もあるが、それは単にレフェリーの裁量だったからではないか。たいていはコブラクローとロープブレイクがセットになっていて、二重に反則行為が行われており多くはロープブレイクで反則カウントがとられていたことと、シンは他にもトーキックや凶器攻撃で反則だらけであり、いちいちコブラクロー如きで反則カウントをとってられなかったのかもしれない。しかし、あれはやはり「反則技」だろう。
 なお、コブラクローは別名サフォケーションクローとも呼ばれる。suffocationって窒息の意味だから、やはりコブラクローは反則と言える。
 しかしサフォケーションクローという名称はコブラクローを指すのではなく、チンロックやキャメルクラッチ、またステップオーバーフェイスロックなどの際に、鼻の穴と口をふさいで呼吸できなくなる顔の掴み方を指す、ともいう。鼻と口をふさげばそれは窒息するわな。喉は絞めてないけどね。これは、反則としてどう位置づければよいのかは迷う。口や鼻への攻撃、とも見られるけれども、ふさいでいるだけなのでね。しかし明文化されていなくとも、呼吸できなくする行為はすなわち殺人行為であるから、サフォケーションクローはどっちにせよ反則技だろう。

 次回に続く。

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