凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

ネックハンギングツリー

2012年05月31日 | プロレス技あれこれ
 こうしてプロレス技の話を書いていると、ここしばらくでずいぶんと様相が変わったなと感じる。活躍しているのが自分より若いレスラーばかりになった、というのもあるのかもしれない。彼らは、もちろん僕が見てきたプロレスとは違うものを見て育っている。現IWGP王者(2012/5月現在)のオカダ・カズチカなどは1987年生まれで、僕がこのブログを始めた頃にデビューし、新日本に来たのは2007年。隔世の感がある。当然のことながら、僕より20年以上若い。アントニオ猪木の全盛期など知らないだろう。もちろん彼はプロレスマニアだったはずで、かなり古い試合のVTRだって見ていると思うが、あまり参考にしてはいまい。
 そのオカダがツームストン・パイルドライバーを用いているのは、うれしくもある。これはカール・ゴッチ以来の技。この技を有名にしたのはモンスター・ロシモフ時代のアンドレ・ザ・ジャイアントで、ターザンタイラーを病院送りにしてしまい以後禁じ手にしたという話が凄みを呼んだ。僕らの時代はむろんタイガーマスクの得意技として印象に残る。彼のような体格があればもちろんフィニッシュ・ホールドになりうる技でありそれを期待したいが、今のところ「レインメーカー」とか称する、手を繋いでネックブリーカードロップ(アックスボンバー?)という、非常に分かりにくい技でフィニッシュとしている。ああいう技が、若い人にはうけるのだろうか。僕などにはとても大技には見えないのだが。

 もう少しツームストン・パイルドライバーを前面に押し出してほしいと僕などは願うものだが、いわゆる「古い技」と呼ばれるものも、時々このように復権したりする。中西が使用したアルゼンチンバックブリーカーもそうだろう。あの技は、完全に死に体だったはずだ。カナディアンはまだ少し坂口らが使っていたが、アルゼンチンはあのタイガージェットシンが猪木からギブアップを奪うという衝撃以来、沈黙の中にいた。それをフィニッシュに持ってきた中西は、ある意味センスがあったと思われる。もう彼の復活は無理だろうか。
 パイルドライバーは、今は鈴木みのるがフィニッシュにしている。これも、一種の復権か。鈴木の場合は「ゴッチ式」という従来と異なるクラッチの仕方で、ここに何とか個性を出したいと思ったのだろう。ただ本来の「脳天杭打ち」と呼ばれるドリルアホール・パイルドライバーは、とんと見なくなった。危険なのか、それとも難易度が高いのか。パワーボムが流行りだして、全てとって代わられた気がする。諏訪魔のような高角度のパワーボムもなされているくらいだから、パイルドライバーだって危険度は同様だと思うのだが。かつてのボブ・バックランドや木村健吾のようなジャンピング式など、結構な見せ場が作れるとは思うのだけれどもね。ファルコンアローなど語る気も起きない。
 そうした技の中で、まず復権することはないと思われる技もいくつかある。例えば、ベアハッグ。海の向うではまだ使用されることもあるだろうが、現在のスピード重視の日本のプロレスではまず無理だろう。力皇猛が一時期使用したが、待ちきれずすぐに派生技へと繋げた。その力皇も引退してしまった。
 そういう技は、いくつかある。キャメルクラッチ。また、コブラツイストでさえその仲間に入ろうとしている。
 ネック・ハンギング・ツリーはその最右翼だろう。

 ネック・ハンギング・ツリー。おそらく誰もが聞いたことがある技だと思う。知名度は高い(と思うけど今はそうでもないかな?)。言わずと知れた「人間絞首刑」である。
 そうは言っても一応書くが、正面から両手で相手の首根っこをむんずと掴み、そのまま両腕をさしあげて相手を上方に持ち上げる。つまり「吊り上げる」わけ。相手の体重を支えているのは首根っこだけであり、その技が掛かった姿はまさに首を吊っているのと同じである。相当に恐ろしい技であることは、これだけでわかると思われる。普通なら悶死してしまうぞ。
 子供の頃、4の字固めや逆えび固めはよく真似したりしたものだが(良い子は絶対にやってはいけない)、このネックハンギングツリーだけは絶対に真似出来なかった。むろん、危険ということが大前提としてあるが、これは大変に腕力が必要な技なのである。なんせ相手の体重を首の部分で支えて目よりも高く差し上げなければいけない。無理である。
 つまり、相当な怪力でないと出来ない技となる。なんせレスラーの体重は常人並ではない。相手を腕力だけで持ち上げる技は、他にもパワーリフトなどがあるが(あれは技かな?)、腕への負担はネックハンギングツリーの方が上だろう。いくら力自慢でも、これはギブアップまで長時間続けることはなかなか出来ない。アンドレがグラン浜田を長時間持ち上げることは可能だろうが、そんな対戦は現実的ではない。

 ここで、ちょっと考える。この技は、どう効くのだろうか。
 これは、案外難しい問題のように思う。プロレスは、首を絞めるのは当然反則である。したがって、この技は実は絞首刑ではない。
 首根っこを掴む、と書いたが そんなところを持ったら反則である。実際は、下顎を両手で支えているのである。その下顎、エラの部分に負荷として自分の体重がかかる。そうなるとかなりキツかろうとは思うのである。おそらくは親指がエラか下顎の内側に食い込んでいるに違いない。レスラーは基本として常人よりも遥かに首を鍛えているが、こういう部分を攻められることは想定外だろう。鍛えられないところは、急所となる。
 この痛みももちろんだが、呼吸もおそらく困難になる。相当な負荷がかかるゆえに。
 そして、首が自らの体重によって伸ばされる。これも、案外キツいのではないか。首関節が脱臼するなどということはないと思うが、究極はそうなる。グラウンドで相手の手首を取り両足を相手の首と脇腹に当てて踏ん張って引っ張る技があり、僕はジャイアント馬場式アームバーと仮に呼んでいるが、これは肩関節の脱臼を狙う技である。それと同じ事を首関節でやっていると言えよう。一種の「ひっぱり技・引っこ抜き技」としても分類できる。首を引っこ抜く技としては藤原組長がフェイスロックを仕掛ける際に後方からよく「首を栓抜きで引っこ抜くように」と表現されるが、ちゃんと掛かればネックハンギングツリーのほうがキツいのではないか。

 かような拷問技だと推定されるが、この技が現在ほぼ幻の技となっている。いや、正確に言えば時々は出る。相手の首根っこを掴んで(便宜上この表現とする)勢いをつけて持ち上げる。この状態でネックハンギングツリーだが、それは一瞬だけで、そのまま相手を前方に叩きつける。仕掛ける側は足を開いて尻餅する形で着地するので、高角度ライガーボムとでも言おうか。一種のパワーボムである。ジャイアント・バーナードがやる。これでは、ネックハンギングツリーとは言えない。派生技にもならないのではないか。むしろ変形チョークスラム(喉輪落とし)だろう。こんな形でしか、姿を垣間見ることが出来ない。
 この技は、やるほうだって大変なのである。
 まず、相手の体重を支えきれる腕力がないと始まらない。そんな力持ちはヘビー級でしか考えられないから、必然的に相手も100kgを超える。ジュニア混合のタッグ戦ならそうでない場合も考えられるが、こういう技はシングルでないと掛かりにくい。
 さらに、高身長であること。例えば大仁田厚が馬場さんに掛けようと手を伸ばしても吊り上げることが出来ない。漫画になってしまう。相手と同等の身長であれば理屈上は仕掛けられるが、見栄えがよくない。やはり、ある程度の上背が必要となる。背の高い怪力レスラーでないと、あまり仕掛けても絵にならない。
 日本で言えば坂口や鶴田などがやっていたが、得意技の範疇にまで入るかどうか。馬場さんの身長であればそれは絵になっただろうとは思うが、後年のあの細腕繁盛記をみるととてもネックハンギングツリーという発想が浮かばない。その後、日本人レスラーでこれをやったのは、中西くらいだろうか。
 僕がちゃんとしたネックハンギングツリーを見た最後は、スコットノートンだったかもしれない。しかしウォリアーズにせよ誰にせよ、いずれも短時間の技でありギブアップを奪うまでには至らないのが実情だろう。漫画のタイガーマスクではこれを仕掛けて相手が泡を吹き気絶、というシーンが出てきたような記憶があるが、そんなことはなかなか起こらない。

 この技の代名詞的存在として、かつてはアーニー・ラッドが居た。
 これは僕の記憶なので資料として考えないで欲しいが、アーニーラッドはネックハンギングツリーでギブアップを奪ったことがあったのではないか。今少し検索してみたがそういう話は出てこないので記憶違いかもしれないが、それほどラッドはネックハンギングツリーを得意技としていた。
 身長207cm。馬場さんにも匹敵する。ただこれが不思議なことに体型のバランスが良く、さほど異形の者として映じなかった。もちろん大変にデカくて、試合をして相手レスラーと組み合うとその大きさはよくわかるのだが。アンドレと組み合うとこれまたアンドレが常人に見えた。その長い手足により日本では「毒蜘蛛」と異名をとった。
 アメフト出身であり、タックルやベアハッグなども得意としたが、この長い手足を生かす技も多く使用した。それはフロント・キックであり(馬場さんやアンドレと同様である)、またギロチン・ドロップも映えた。さらにフライングボディプレスも敢行したが、こういうところがいわゆる「巨体レスラー」とは一線を画した均整のとれた体躯であったことを証明している(実際、あまり違和感が無い)。
 そのアーニーラッドの長い腕を十二分に生かした技が、ネックハンギングツリーであったとも言えるかもしれない。身長と腕の長さでラッドを凌駕するレスラーはほとんど居ないため「人間絞首刑台」の役割を果たすには十分に過ぎた。
 そのラッドも亡くなってしばらく経つ。ネックハンギングツリーを必殺技として使い得る、そういう意味での後継者はいない。 

 必殺技とまで昇華せよとは言わない。今なら誰がこの技をこなせるか。田上や高山は盛りを過ぎた。高橋裕二郎は圧倒的に身長が足らない。それこそ、身長のあるオカダ・カズチカがやれば、目よりも高く相手を吊るし上げてニヤリとでもすればヒールチャンピオンっぽいとは思うが、やらないだろうな。

 とりあえず、東京スカイツリー開業記念として書いてみた。

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