凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

エースクラッシャー

2012年11月18日 | プロレス技あれこれ
 ネックブリーカーについて書いたので、スタナー系の技についても少し言及しておこうかと思う。アンダーソンのリバース・スタンガンがオールド・ネックブリーカーそのものであり、違う技にせよ、対応しているように思えたので。
 もっとも、スタナーについてはあまり知らない。僕は今のプロレスも好きだが、どちらかといえば自分の青春期に見ていたプロレスに郷愁をおぼえる部分も多々あり、そういう意味では、ファルコンアローなどと同様に「新しい技」として興味が薄かった。スタナーの元祖はスティーブ・オースチンらしいのだが、彼が活躍していた時代('90年代か)、私事だが僕はあまりプロレスを見られる環境におらず、ぼんやりしている間に広まった感がある。なので印象が薄かったのかもしれない。
 だが、よく見ればこれは結構えげつない技である。さらに、プロレス技というのはほぼその原型が4~50年ほど前に出揃った感があり、現在みられるものの多くはそのバリエーション技であることなどを考えると、単純な形の新技が開発されたというのも特筆すべきことであるのかもしれない(ラリアートなどと同様に)。

 スタナーは、まず相手が立っている状態で、その前で同方向に立つ。つまり縦に並んで立つ状態で、後ろの相手の頭部を肩にかつぐ。そして相手の顎を肩に固定し、そのまま自らはドスンと尻もちをつく。さすれば、相手の顎そして首に衝撃が走る。「顎砕き」である。これは厳しい。
 これすなわち、ショルダーネックブリーカーを相手の方向を違えて放つのと同じである。自らの動きはショルダーネックブリーカーと同じ。相手が後ろを向いているか前を向いているかだけの違いである。
 基本的には顎砕きであろうが、頭部の固定の仕方によっては、つまり顎ではなく顔面を肩に当てて尻もちをつけば、顔面砕き、ショルダーフェイスクラッシャーとなる。もう少し頭部を深く担げば(首根っこを肩に当てるような形であれば)、喉ぶえ砕きとなる。ギロチンドロップやラリアートに似た効果を生み出す。
 単純だが、結構なダメージを与えると考えられる。どうしてこんな技が古くからなかったのだろうか。コロンブスの卵だったのか。
 スティーブ・オースチンは、この技をロープを使った反則技から発想したという。すなわち、相手をボディスラムの要領で抱え上げて投げ、顎・首をトップロープに打ち付けるという技。ゲホゲホ言いそうな技だがこの技には「スタンガン」という名称がついていた由(反則だろうに^^;)。ロープより自らの肩口のほうがいいと改良したとか。

 さて、このスタナーとほぼ同型の技がある。エース・クラッシャーである。
 ジョニー・エースの必殺技として名高いが、見ていると、ほぼスタナーと同様の形で顎砕き・首折りの技である。
 スタナーの場合は相手に一発蹴りを入れて、そのダメージの隙に自らの身体を反転させ(つまり同方向を向く)、首を担いで落ちる、という形であったために、相手は足をついたままであることが多く、地味な(見方によっては陰惨な)印象がある。エースクラッシャーはジャンプも入り相手の首を引っこ抜くように放つ。つまりもっと動きが派手であり、相手はたいていの場合飛び上がってしまう。
 したがって、僕はずっとスタナーが元祖で、エースクラッシャーが派生技だと思い込んでいた。プロレス技の変遷は、たいてい地味→派手の系統を辿る。華々しいエース・クラッシャーはスタナーを改良発展させたものだと思っていた。
 最初に書いたが、僕はこのスタナー系の技について詳しくなく、この時代('90年代)のプロレスも詳しくない。だがちょっと調べてみれば、ジョニー・エースはスティーブ・オースチンより年齢も上でキャリアも長く、どうもスタナーよりも早くにエースクラッシャーを開発していたらしい。コロンブスの卵を立てたのは、どうやらジョニーエースのようだ。
 これは申し訳ない勘違いをしていたと思うが、惜しいのはそのネーミングだろう。「エース」クラッシャーと自分の名前を冠しているために、後発だと勘違いしてしまう。自分の名を技名に入れる場合、多くは派生技である(ジャーマンスープレックスから派生したのがドラゴンスープレックスだったりタイガースープレックスであるように。またジョニー・スパイクもそういうことだろう)。そのため、損をしているように思う。ジョニーエースはもちろんオリジナルであるから自らの名を冠したのだとは思うが、もっと一般的で単純なネーミングのほうが良かったのではないか。
 またそのネーミングが個人名であるために、技の分類においても「エースクラッシャー系」とはされず、「スタナー系(あるいはカッター系)」と言われてしまうのも、惜しい気がする。
 つまりスタナーはエースクラッシャーのパクリであると言う事も出来るのだが、関係性はどうなっているのだろう(前述のようにあまり詳しくない)。スティーブオースチンはロープワークの反則技からの発想と明言しているようであるし。
 このあたりは、詳しい方もいらっしゃるだろうからまたご教示していただければ有難い。

 エース・クラッシャーには、旧型と新型がある。旧型はスタナーと同様尻もち型だったが、ジョニーエースは放つ時にジャンプするためスタナーよりも危険性が高いことが想像され、それに加え自らの尾てい骨への負担もかなり大きかったと思われる。おそらくそうしたことが原因で、自らの身体を前方に投げ出して背中で受身を取る新型へと移行した。この新型もかなり相手の首への負担が大きいと思うが、肩に直接打ち当てる度合いは低下したようにも思われる。また、自らも背中から落ちるためにより派手になったという見方もできよう。
 その後エースクラッシャーはさらに動きが大きくなり、相手を上方へはね飛ばし、空中で首を捉えて落とすような形にまで発展した。こうなるとスタナーとはかなり趣きが異なり、ますますスタナーが派生技だったことがわかりにくくなってしまったのかもしれない。そして、エースクラッシャーはまた広がりをみせる。
 ダラス・ペイジがダイヤモンド・カッターという、新型エースクラッシャーとほぼ相似形の技を使用するが、これはエースクラッシャー由来であることははっきりしているらしい(直伝とか)。それとスタナーの誕生がきっかけになったか、どんどんこの技は広がっていく。
 WWEをあまり見る機会がないのでランディ・オートンのRKOという技はよく知らなかったのだが、エースクラッシャーやダイヤモンドカッターとどう異なるのかはよくわからないにせよ(片手なのか?)見ると相当に迫力を感じる。コジコジカッターとはかなり違うなと(もっとも小島は繋ぎ技として使っている)。そして現在、カールアンダーソンが「ガンスタン」と称して、日本でこれをフィニッシュとして使用している。
 また、バリエーションも生むようになる。田中将人はブレーンバスターの体勢から落下させエースクラッシャーに持っていくというすさまじい技を出す。また、ドラゴンスリーパーの体勢で、自ら前方回転してエースクラッシャーへと持っていく。無茶な技だとつくづく思う。危ない。
 しかし、このようにバリエーションが登場することによって、エースクラッシャーは普遍的な技になったとも言える。
 丸藤のやる不知火は、最初の技の入り方はスタナーと同じだが、一回転するため後頭部を打つことになり、これは別系統と考えるべきだろう。

 さて、エースクラッシャー、もしくはスタナー、ダイヤモンドカッターはネックブリーカーに非常に近しい技ではないかと最初に書いた。ネックブリーカーは相手の後頭部を自分の肩に乗せて落とすのに対して、エースクラッシャー系は顎を肩に乗せて落とす。相手の体の向きが異なるだけで、ダイヤモンドカッターはゴージャス・ジョージのオールド・ネックブリーカーと同じであり(ジャンプ等を加えることにより勢いが増しているが)、スタナーはビル・ロビンソンのショルダーネックブリーカーと体勢は同じである。
 しかし、ダメージを与える部位は全く違う。ネックブリーカーは後頭部、後頚部であり、エースクラッシャーは顎、もしくは顔面、のど笛となる。受ける側の体勢が間逆である以上、当然である。
 ちょっと違う発想でエースクラッシャーを見てみる。
 頭部を担いで尻もちをつく、或いは身体を投げ出して背中で受身をとり、クラッチを話さずしっかりと頭部を固定していれば相手の顎そして頚部に強いダメージを与える。また背中受身方式で頭部固定をあまくすれば、顎と頚部への衝撃は軽減するかもしれないが、顔面が肩もしくはマットに当りフェイスバスターのダメージが加わる。これは、ブルドッキングヘッドロックに実に近いのではないか。
 ブルドッキングヘッドロックは、近頃とんと見なくなった。カウボーイ・ボブ・エリスが元祖とされ、僕がプロレスを熱心に見ていた時代は日本人選手ではラッシャー木村、そして外人選手ではアドリアン・アドニスがよく放っていた。最近みないので一応書いておくと、まず相手をヘッドロックにとらえ、走って勢いをつけジャンプ、自らマットに倒れこみ、その衝撃で相手の頚部にダメージを与えるという技だ。
 ラッシャー木村のそれは、ヘッドロックを離さないことによって首に強い衝撃を与える。アドニスは、ジャンプした瞬間にヘッドロックを解き、抱えていた腕を上に向け、ちょうどエルボーを後頭部に押し付けるようにしてマットに顔面を叩きつけ、フェイスバスターの効力も加味していた。
 無骨な木村式がスタナー、華麗なアドニス式がダイヤモンドカッター(もしくはRKO)に対応するのではないか。そういえばアドニスがきれいなジャンプで最後はマットにすべりこむように背中で受身をとっていたのに対し、ドタドタと走る木村はむしろ尻もちをついていた(ように見えた)。
 エースクラッシャーとブルドッキングヘッドロックとの差異は、相手の頭部を肩に担ぐか、脇に抱えるかの相違である(とも言える)。
 エースクラッシャーは、瞬く間にマットに広まった。その流行が、ブルドッキングヘッドロックを廃れさせたのではと想像してみる。牛の首根っこを捕まえてねじり倒すことから発想されたカウボーイ系の技であるブルドッキングヘッドロックよりは、エースクラッシャーのほうがよりスピーディで見栄えがしたのかもしれない。木村もアドニスも、もうこの世にいない。
 完全な想像だが、ブルドッキングヘッドロックという技が好きな僕には、少し残念なような気がするのである。もっとも、これは当然ながらエースクラッシャーのせいではないが。
 

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