凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

反則技 4 (凶器攻撃)

2012年09月20日 | プロレス技あれこれ
 プロレスの反則といえばそれはチョークや急所攻撃も連想されるが、最も典型的なものは、凶器を使用することである。
 いや…かつては典型的であった、と書いたほうがいいだろうか。現在のプロレスにおいては、凶器攻撃はさほど目立たなくなった。むろん、現在でも凶器攻撃がなくなったわけではない。椅子や机などは頻繁に使用される。鉄柱にもよく相手をぶつける。
 しかし、僕が「凶器攻撃」と言って想像するものとはちょっと違う。かつて凶器とは、もっと鋭角的なものだった。

 基本的に凶器攻撃とは、本来リングに持ち込んではならない何らかの器物(危険物)を用いて、相手にダメージを与える攻撃を示す。
 ただし、何も道具を使用せずして「凶器攻撃」が成立してしまう場合がある。それは人体の中にも、凶器となりうるパーツがあるということ。すなわち「噛み付き」。
 これは圧倒的に「銀髪鬼」フレッド・ブラッシーが有名である。
 とにかく伝説が多すぎる。曰く「ヤスリで歯を研いでいた」「テレビ観戦をしていた老人が噛付きによる流血シーンでショック死」「相手の血を啜って肝炎がうつった」等々。
 僕はリアルタイムでブラッシーを見ていない(むしろマネージャーのイメージが強い)のだけれども、幼稚園くらいだったと思うが、何かの雑誌(少年誌だったと思う)でブラッシーが噛み付き血を啜る写真、そしてヤスリで歯を研ぐイラストなどを見た記憶がある。今も鮮明に脳裏に甦らせることができるが、それは、幼児だった僕にすればホラー、怪談とほぼ同じで、強烈な恐怖心を残した。夜中にトイレに行けないような。
 ブラッシーのリング上での具体的なことは、当時何も知らない。ネックブリーカードロップを得意としていたというのも知らない。ただとにかく「怖かった」その記憶は今も鮮烈だ。

 僕はその幼年期から、現実と架空が交わりながらプロレスに馴染んでゆく。架空とは漫画(TVアニメ)のタイガーマスクである。ブラッシーも、タイガーマスクに登場する。
 タイガーマスクは、ご存知の通り「虎の穴」という悪役レスラー養成機関が重要な役割を果たしている。したがって、反則技が数多く出てくる。その大半は、凶器攻撃といえる。もちろん現実にはありえない凶器も出てきたが、リアルのプロレスにも登場する凶器もあった。
 その当時の「リアル凶器」の代表格だった「メリケンサック」というものは、もはや絶滅危惧種だろう。
 メリケンサックとは一種の「鉄甲」である。拳にはめる鉄輪。そもそも正拳が反則であるのに、さらにこんなものを装着して殴れば相手は大変なダメージを負う。使い手は、ディック・ザ・ブルーザーやクラッシャー・リソワスキーなどの荒くれ者。僕らは子供の頃、ダンボール紙やガムテープでメリケンサックを手製しては遊んだ。
 もうひとつ古典的な凶器攻撃として、マスクの中に凶器を仕込み、ヘッドバットを放つ方式がある。ミスターアトミックがおそらく元祖だと思うが、デストロイヤーなどもやっていた。相手の額が割れ、返り血で自らの覆面も赤く染まる。もうこんな反則技はほぼ絶滅したのではないかと思われる。

 そんな漫画とクロスオーバーした幼年期を経て、僕が本格的にプロレスに夢中になっていった時期には、全日に「黒い呪術師」アブドーラ・ザ・ブッチャー、新日に「インドの狂虎」タイガー・ジェット・シンがいた。
 この二人のレスラーは、日本のマットに登場した最後の「ヒールらしいヒール」だと思う。二人以後は、典型的な「悪玉レスラー」は存在しない。
 その反則技としての凶器攻撃は、陰惨なものだった。「凶器は鋭角的なもの」という僕の印象は、ブッチャーとシンから出ている。
 彼らの試合は、ロックアップから始まることはほぼない。相手がリングインしたとき、或いはそれより前に花道などで襲い掛かる。シンなら持っているサーベルの柄などで突いたり、ターバンで首を絞めたりする。そしてなし崩しにゴングが鳴り、いつの間にか試合に突入している。場外で鉄柱や椅子などを利用した反則攻撃で相手を痛めつけ、リングではコブラクローや地獄突きなどのノドを狙った技、或いはトーキックなどの反則技で相手を追い詰める(そういえばブッチャーの靴は凶器シューズと呼ばれた特殊な形状だった。実際蹴っている場面は知らないが)。
 そうして相手にダメージが蓄積された試合後半、凶器をこっそりと手に持つ。多くはタイツやシューズの中から取り出すが、最初からタイツに入れてあれば怪我をするので場外乱闘の途中にでも隠し持つのだろう。それは、五寸釘のような尖った金属製のもので、総じて大きくない。だが小型でも、観客やTV視聴者は凶器を取り出す一部始終を見ているので恐怖心が煽られる。しかし観客には見えてもレフェリーにだけは見えないよう巧みにブラインドをつくので、使用前に発見されることはまずない。これを相手の額に突き立てる。ここから、ほとんどは流血戦となる。
 こうやって書いていても試合は反則技のオンパレードだが、いくつかパターンはあると思う。凶器攻撃について分類してみたい。

 まずは、その場に固定して存在するもの(設営されたもの)を活用する場合。これは、解釈は実は難しい。
 主たるものは鉄柱攻撃である。相手を頭から叩きつけて流血、が最も多いか。さらに鉄柱とロープを繋ぐ金具などを活用することもある。クッションを取ってしまえば、これは危険だ。さらに、コーナーに押し込んでタッチロープで首を絞めるというのもある。
 ここらへんまでは間違いなく凶器攻撃の範疇だが、場外乱闘で相手を会場の壁に叩きつけたりするのは、凶器攻撃にあたるのだろうか。
 凶器攻撃についてのルールは、以下である。全日は「器物・危険物を使用しての攻撃」を反則と規定し、新日は「リング内外を問わず器物(試合進行の妨げとなる危険物)を使って相手競技者に危害を加えてはならない」とする。これだけなので、難しい。
 鉄柱はリングの一部であり設置された状態で動かないが、おそらくは危険物と見なせるだろう(よってコーナーにクッションがある)。しかし壁やら何やらはどうなのか。よく場外乱闘において固い床に直接ブレーンバスターなどの投げ技を放つことがあるが、あれは反則なのだろうか。実に難しい。プロレスは、リング内でのファイトが前提ではあるが、場外での戦いを完全には禁じていないからだ。
 上記新日ルールにも「リング内外を問わず」という文言がある。リング外での戦いを認めていることになる。さらに、勝敗に「場外ノックアウト」が存在することによってもわかる。この場外ノックアウトは、リング内でダメージを負ったのちリング外に落ち、そのまま20カウント内に上がれなかった場合だけを示すのではなく、場外乱闘の末に上がれなかった場合も有効となる。
 場外に居る相手に向かって放つスイシーダ系の技は反則技ではない。とすれば、場外パイルドライバーなどは極めて危険な技だが、反則ではないことになってしまう。
 こういうことはあまり考えたことがなかったので迷宮に入りそうだが、やはり壁や床も「凶器」であると僕は考えたいと思う。理由は、固いから(笑)。もちろんリング内と同様5カウント以内で放たれるため、反則技ということになるだろう。
 なお、新日のルールに「故意に相手競技者を場外フェンスにぶつけてはならない」という一文もある。これも、凶器攻撃の一形態と考えていいだろう。しかし、故意でない場合というのは存在するのだろうか。偶然に相手をフェンスにぶつけてしまう? よくわからん。
  
 さて、次に器物を使用したわかりやすい凶器攻撃について。その中でも、会場に存在する備品を凶器として活用する場合。
 これは、会場のパイプ椅子が使われることが最も多い。場外乱闘において、畳まれたパイプ椅子の座面で背を思い切り叩く。座面がよく吹き飛んでいる。
 この反則技で思い出すのは何といってもジプシー・ジョーで、しかも叩くのではなく叩かれ役としてである。殴られるのが得意技というのも尋常でない話だが、椅子で殴打されても平気な顔を見せ逆に椅子が壊れるというパフォーマンスは、その体躯の頑強さを大いにアピールした。
 しかし座面にはクッションもあり、また衝突面積も広いので鍛え上げたレスラーには本来ダメージは少ないのではないか(一般の人はやってはいけないが)。また金属製のパイプ部分で腹などを突く場合もあるが、こちらのほうが効きそうに思われる。
 椅子攻撃は最も頻度の高い凶器攻撃で、観戦すれば少なくとも一回くらいは見られる。それがためあまり恐怖心を煽らないが、マットに持ち込んで置き、その上でパイルドライバーやパワーボムなどを仕掛ける場合がある。あれは、怖い。
 長机も多く使われるようになった。かつては相手を殴るのに使われて危険だったが、最近は立てかけてそれに向けて相手を叩きつける。或いは、場外で机の上に相手を置いて、そこにコーナートップからプランチャを仕掛ける。たいてい机は真っ二つになり、衝撃をうかがう事ができる(もっとも、机が折れないとかえって危険だと思われる)。
 他には、本部席にあるゴングやそれを鳴らす木槌、実況用マイクのコード(首を絞める)、またリング設営に使用されリング下にしまってあったはずのスパナなどの道具、リングに上るための梯子なども、凶器として利用された。
 ヒールはそのあたりにあるものは何でも凶器として使うのである。「視界に入った」という理由で。
 現在では、たまにゴングや梯子などは見かけるものの、たいていは椅子と長机くらいしか使われない。絶滅種としては、お客さんが持っていたもの(傘など)。観客のものを使えば補償が必要となりややこしいので廃れたと思われる。あるいはバケツやビール瓶など。今はついぞ「61分三本勝負」などは見かけないが、昔はタイトルマッチにこの形式が多く、インターバルがあるため水を入れた瓶やバケツは常備されていたのである。三本勝負が皆無となった現状ではもうこんなものはない。(実際バケツや金盥、ガロン缶などを凶器として使うと、コントのようになってしまうのが難点だったとも思える)

 次に、自ら凶器を持ち込む場合であるが、これにもいくつかパターンがある。
 まずは、表立って持ち込んでいるものを凶器として使用する場合である。多くは、コスチュームとそれに付随する装飾品を転化する。
 レスラーは様々に飾り立てて入場する。全く飾らずタイツ一枚で出てくるアンドレのようなレスラーもいるが、多くはガウンやシャツなどを羽織っている。このガウンやシャツすら凶器と化す。タオル一枚でさえ、首を絞めるのに使用できる。
 また装飾品もレスラーは多く持ち込む。ワフー・マクダニエルらインディアン系のレスラーは羽根飾が美しいウォー・ボネットを被った酋長スタイルで登場する。対してハンセンらはカウボーイの装束。こういうところからドラマが生じ、衣装はプロレスに欠かせないが、こういうものは全て凶器となる。牛追いのための鞭、カウベルなどは相手を殴打するのに最適だ。
 ただし、レスラーがみなコスチュームを凶器に転化するわけではもちろんない。ブロディもたまに入場時に振り回すチェーンを使うこともあるが、常時ではない。だが、悪役レスラーはこういう装束を大いに活用する。
 かつてアメリカでヒールとして活動していたグレート東郷ら日系レスラーは、たいてい下駄を履いて入場した。これは、凶器とするために履いていたと言っていい。まずこれで殴りかかって相手にダメージを負わせる。
 シンが振り回すフェンシングのサーベル、上田馬之助が持つ竹刀などは、その典型といえる。シンのサーベルは一応は狂気の演出道具だが、実際にこれで攻撃するからたまったものではない。もっとも、柄の部分を利用する。あれで突き出したら事故につながる。
 矢野通は番傘を持ち込んでいるが、番傘は強度がなくしかも現在は結構高価なものなので、あまり凶器としては使用していないようだ。北斗晶の木刀は…どうだったっけか。
 
 こうした例は、今も多い。例えば真壁がブロディの真似をしてチェーンを持っているが、あれを腕に巻きつけてラリアートを放つ。ああいうのはブロディへの冒涜であり全く好きになれない行為だが、コスチュームの一部を凶器として使用する一例である。
 また、飯塚高史が使用する「アイアンフィンガー・フロム・ヘル」という阿呆らしい凶器も、コスチュームの一部と考えていいだろう。入場時から堂々とアピールし、密かに持ち込んだ空気がまるでないからである。
 僕がかつてイメージしていた「凶器」というものには、まさにその「密かに持ち込む」空気感ががあった。だからこそ、陰惨な感じが滲み出たと言える。そして、形だけでもレフェリーのブラインドをついて攻撃するからこそ、凶器が卑劣な「ヒール」というものの存在を際立たせてきたように思える。現在の椅子や長机攻撃にその陰惨さはない。むしろカラリと明るい。それは、現代プロレスにもうかつてのようなヒールが存在しないことからの帰着であると考えられるが、それは措く。

 その「隠し持った凶器」だが、それにも幾パターンがある。
 まずは、固形の武器でないものの使用。目潰しに使われることが多い。
 かつて日系レスラーは、入場時の下駄による攻撃とともに、持ち込んだ塩を撒くことがあった。さらに、塩を相手の目に摺りこむ。痛そうだ。
 目潰しとしては、滑り止めのロージン(松脂の粉)なども撒かれる。白い粉をわっと投げつけられたレスラーが目を押えてのた打ち回る光景は、よくある。
 口吻による噴霧もある。単純に水を噴いたり、矢野通が酒を噴いたりもするが、やはり毒霧がもっともインパクトが強い。ザ・グレート・カブキの入場パフォーマンスから始まり、ムタやTAJIRIが使用する。赤や緑の毒霧を相手の顔面に噴きつけるが、その成分が何なのかは定かではない。
 最も強烈なものは「火炎噴射」だろう。ザ・シークがおそらく元祖だと思われ、のちに多くのヒールによってコピーされた。日本でも、ミスターポーゴや大仁田厚が火を噴いた。

 さらに、前述したように鋭角的な凶器を隠し持ち、ブラインドをついて使用し流血に追い込むパターン。僕にとって、凶器攻撃と言えばこれである。
 大きさは、たいていは手のひらに隠れる程度のサイズ。レフェリーに見つからず、すぐにタイツなどに隠せるように。針金の太いやつとか五寸釘的なもの(的なもの、とはつまり僕も見ていてはっきりとは確認できていないのだ。チラ見せしかしてくれないので)。これで、主として額を狙う。前頭部は最も流血しやすい。血がドバっと出る。
 ヒールによる凶器攻撃はこの流血こそが主目的であり、血が止まらないさまは試合をヒートアップさせる。ブッチャーは額が割れやすく(額はいつもザクザクの傷だらけの形容である)、ちょっとしたことで流血し、さらに相手も凶器によって流血させるから、いつも双方血だるまの試合となる。
 たいていはそういうパターンだが、ブッチャーはあるとき、その凶器にフォークを選んだ。ブッチャー&シークvsファンクスの試合は、現在でも語り継がれている。それほど、凄惨な試合となった。
 このフォーク攻撃の凄惨さの理由は、ブッチャーがフォークで額を狙うのではなく、腕を狙ったことにあると僕は思っている。主としてテリーファンクが狙われたが、腕は傷つけられても額ほど流血しない。したがって、傷口がよく見えてしまう。思わず僕は目を覆いたくなった。後年、大仁田厚が有刺鉄線デスマッチで皮膚が裂けるさまをいやというほど見せつけ酸鼻を極めたが、ああいうのはやはり本人が言うとおり「邪道」だ。少しもカタルシスを得られない。ブッチャーのフォークによる腕攻撃はそのはしりだったと言えよう。結果的にこれに逆襲したテリーはスターダムに躍り出たが、結局残忍さだけが残ったように思う。
 まだ頭部からの大量流血のほうがマシ、とは変な話ではあるのだが、凶器も度を過ぎるのはよろしくない。個人的意見ではあるけれども。

 他に、凶器を表には出さず、コスチュームの中に忍ばせて攻撃するという例もある。
 この嚆矢は前述の如くミスターアトミックのマスク内凶器による頭突き攻撃だろう。マスクの中に忍ばせたのはコインともビールの王冠とも言われるが、コインであれば自らのほうがダメージが大きいのではないか(クッションを入れていたのかな)。いずれにせよ捨て身の凶器攻撃と言える。
 このコスチューム内凶器の例は、あまり多くない。噂の範疇で、あの猪木vsアリ戦でアリがグローブに石膏を入れていたという話があるが、おそらくは虚構だろう。対抗して猪木がシューズに鉄板を忍ばせようとしたという話もあるが、話としては面白いが無理だろう。そもそもこれはプロレスではなく異種格闘技戦であるが。
 その後、僕が見た中では、コスチューム内凶器の例が一度だけある。驚くことに木村健吾がやった。
 木村健吾は、新日本プロレス内では常に関脇クラスだった。上には猪木、坂口(またストロング小林)、そして同世代には藤波が居て、ずっとその下に甘んじていた。長州力も居たが、長州は造反によってメインへと上り詰めた。前田日明も登場し、ずっと引き立て役をせざるを得なかったのは辛かっただろうとは思う。さらに次の世代である武藤らも台頭してきていた。
 木村は藤波と組んで猪木・坂口組を破り初代IWGPタッグ王座に就いた。Jr時代以来久々に脚光を浴びた木村は、ついに藤波に挑戦。木村は藤波を押しまくり、ついにレッグラリアートでピンフォールを奪う。だがこのとき、木村は脛のサポーターに凶器を忍ばせていた。スパナだったと言われる。試合後すぐに発覚してしまった。
 この凶器攻撃の意味は何だったのだろうか。善人キャラからの脱却を狙ったのだろうか。しかしその後のヒール転向も、中途半端に終わった。そして、年齢もあり徐々に序列が下がっていった。
 いろんなことを思う。木村はいいレスラーだった。ジャンピング・パイルドライバーは実に美しく、何よりその体躯は猪木に酷似していた。しかしプロレスには、実力だけでは如何ともし難い何かが存在していて、木村を頂点には立たせなかった。

 その木村が凶器を使った80年代後半。ブラッシーやシークはもうリングにはおらず、ブッチャーやシンも既に悪玉としての存在感はなかった。本当の肉体を傷つけるための陰惨な凶器の存在は、この木村の脛に忍ばせたスパナを最後に、終焉を迎えたといえる。遺恨試合となった藤波と木村の再戦のレフェリーには、何とかつての凶器攻撃の雄であった上田馬之助が登用され、その上田が木村の反則攻撃を徹底して封じたことも、それを象徴しているかのように思える。
 その後凶器攻撃はまだプロレスには存在しているものの、かつての陰惨さは失われた。イス大王として栗栖正伸が脚光を浴びたのはすぐその後の90年代初めであり、これも凶器のありかたが変わったことを思わせる。現在の飯塚のアイアンフィンガー・フロム・ヘルに、かつての五寸釘の暗さはない。
 もちろん、それはいいことだと僕は思っている。プロレスは研ぎ澄まされた肉体同士のぶつかり合いが至上であるべきで、何かそこに尖った物などが介在すべきではない。
 ただ、現在の凶器攻撃は、肉体の限界を超えていること、危険度が増していることを誇示するために展開されているようにも見える。長机が真っ二つに割れるさまは、その状況を如実に表している。これもまた、好ましくないように僕には思えるのである。

 反則技の話、おわり。

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