凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

ショルダースルー

2012年12月02日 | プロレス技あれこれ
 「ショルダースルーがもっとも危険な技」という話は、よく聞く。
 だがそのように言われる技だが、難易度は低いのではないか。説明するまでもないが、相手と正対し、身をかがめて相手の懐(腹部あたり)に肩を入れ、そして相手を自分の肩の上にのせて持ち上げると同時に身体を伸ばして相手を上方に跳ね上げ、後方に飛ばし捨てる。補助的に腕を使うことはあっても、基本的に腕は必要ない。相手を肩にのせて跳ね上げる下半身の力と背筋力さえあれば成り立つ。さらに力はなくとも、多くはカウンターで放つためタイミングさえうまくあえば、後方に飛ばすことができる。仕掛ける側のタイミングは確かに重要だが、カウンターの勢いさえあれば非力な僕にだって出来そうである。
 相手が空中高く舞えば、見栄えがする。したがって誰もが試合に取り入れる技だが、これがフィニッシュになることは、まずない。単純すぎる技だからだろう。ボディスラムでピンフォールを奪えた時代というのは確かにあったが、ショルダースルーが決め技になっていた時代はあったのだろうか。ちょっと想像がつかない。また、この技を「得意技」として公言しているレスラーもあまりいなかったのではないかと思われる。公言するほどでもないからだろう。

 この技が危険であるのは、受ける側の技量が必要とされるからだ。相手がどのくらいのパワーで跳ね上げてくるのか。それによって、受身をとるタイミングが変わってくる。絶対に頭から落ちてはいけない。しかし中途半端に足から落ちても怪我をする。よって空中で体勢を整え、うまく背中から落下して背中と手と足で同時に受身をとる。しかし背中に目がついていないので、マットに着地するタイミングをうまくはからなければならない。一歩間違えると、大変なことになる。したがって素人に仕掛ければ一撃必殺の技だ。
 自由落下に身を任せるというのは、実に怖い。高角度から落とされるものには他にデッドリードライブがあるが、雪崩式でないかぎりその高さはリフトアップした高さであり、アンドレがやらないかぎりまず3mはいかない。ショルダースルーは跳ね上げるのでその高さは想像できない。
 よって、若手はこの技の受身を、プロレスの基本として徹底して練習するといわれる。何より危険なのだ。なんせ2階から落とされる技と同じなのだから。
 話がそれるが、僕は昔、投げ技というのは仕掛ける相手がしっかりとホールドしているほうが危険だと思っていた。叩きつける力が加わると思っていたからだ。だからバックドロップもジャーマンも本式は最後まで腕のクラッチを放さない。しかし、投げっぱなしジャーマンというものの危険さを見てから見方が変わった。手を離すほうが危ない。そうやって思えば、クラッチのあまい馬場さんのバックドロップなどは相当に怖い。またバックランドがダブルアームスープレックスで手を離して投げ飛ばしたり、必殺アトミックドロップの体勢で相手を目の高さまで持ち上げ、意表をついて後ろへ放ったりするのはかなり危なかったのではないか。
 自由落下は、危ない。プロレスでもしも殺意を持つとすれば、ブレーンバスターで相手を持ち上げ、そのままパッと手を離せばいいのではないか。こんな怖いことはない。
 なお余談ながら、ショルダースルーは英語で書けばshoulder throughだろう。しかしこれでは肩透かしではないのか。多分に日本語的発想だとは思うが、shoulder throwの間違いじゃないのかと昔は思っていた。肩投げのほうがこの技に適うような。なまじ肩透かしという言葉が日本語にあるだけにそう思ってしまう。なお、肩透かしという技は、相撲にはある。しかしもちろんショルダースルーではない。相撲の決まり手で言えば、居反りに少し近いようにも思う。これは後述。

 ショルダースルーがうまい、といえば、やはり猪木を僕は思い出す。
 ショルダースルーは、そのタイミングが難しい。ロープに振って返ってきたその反動を利用して跳ね上げるのが最も良いが、相手の懐にもぐりこまなくてはいけないためどうしても頭を下げる。しかし、ロープに振って返ってくるのを頭を下げて待っていればそれは相手に読まれてしまう。一発キックを食らって終り。ヘタをすればスモールパッケージホールドで丸め込まれてしまう。
 猪木のは、その直前まで頭を下げず相手を睨みながら、わずかに肩を下げてすっともぐり込んで跳ね上げる。猪木がショルダースルーを失敗したのを知らない。
 対していつも失敗をしていたのは鶴田だった。鶴田は、ロープに振るやいなやマットの中央で頭を下げて待ち構えている。カウンターで返ってきた相手は、最初から鶴田が中腰の体勢で、ショルダースルー見え見えで待っているために引っかからない。蹴りを放って終りである。鶴田がショルダースルーを成功させたのを、これまた見た記憶がない。
 だがこれは鶴田の名誉のために書けば、お約束のムーブだろう。プロレスは攻めて受けて試合が成り立つ。鶴田は一時期バケモノの如く強かったが、スタミナは無尽蔵であるのに攻めさせるのはあまり得意とは言えなかったと思う。なのでこのようにショルダースルーを失敗することによって相手に反撃の糸口を作った。余裕のなせるわざだが、これは観客にもみなバレてしまっている。全くのところ不器用だった。

 ショルダースルーは、受ける側の技量も必要だと書いたが、そういう意味においては相手の跳ね上げる力以上に自分の勢いで高く飛んでゆくレスラーもいる。危ないのによくやるなと思うが、受身に自信がないと出来ない。そして、そういう動きは試合を派手にする。飛んでいる間にひとアクションいれるレスラーもいた。リックフレアーなどは見事だったと思う。NWAヘビー戴冠記録保持者は伊達ではない。
 Jr.ヘビーの試合になると、飛ばされたレスラーが一回転してマットに両足で着地することがままある。跳躍力を生かして技を殺したわけだが、僕は見ていてあまり好きではなかったなぁ。もちろんレスラーはいかにうまく受身をとってもダメージは当然残るわけで、受けたくはないだろうが。だが、この動きは案外危険だと聞く。レスラーは体操選手ではなく体重も抱えているので、着地を失敗すれば足に怪我をするとも。
 基本に忠実に背中から落ちたほうが安全、とはプロレスの世界もすごいものだとは思うが。どれだけ受身というものは洗練されているのかと感嘆する。

 ショルダースルーは、このようにカウンターでリング中央で放たれるのが通常だが、ロープ際での攻防の際に放つ場合がある。相手が突進してきた場合などは、仕掛けられた側は当然勢いあまってリング下へ落ちることになる。言ってみれば断崖式ショルダースルーであり相当危険であるが、落ちる際にロープを掴んだりエプロンでワンクッション入れたりでそのまままっ逆さまにリング下、ということはまずない(そんなことがあれば大変だ)。しかし当然ダメージはありすぐにマットには上がれない。Jr.ヘビーの場合は、それを見てプランチャ、あるいは反対側へ走りトペ敢行、というのもまたお約束だ。ショルダースルーで場外に落としスイシーダ攻撃、というのはひとつの流れである。
 また、場外フェンス際でも昔はよく放たれた。オーバー・ザ・フェンスの反則があったころはそれで試合が決したことも多かったが、オーバーザフェンスが反則でなくなってからは、なぜかこのムーブは稀になったようだ。

 類似技を考えると、相手を肩に乗せて投げる技というのは他にもある。側面からであれば、柔道の肩車、またアマレスの飛行機投げというのは肩投げだろう。長州力がよく放っていた。これは、横からのショルダースルーであると言えなくもない。
 ファイアーマンズキャリーからの投げであり、必ず腕をとってはいるが、肩で跳ね上げて自由落下の形になっている。ショルダースルーの一派とは見られないだろうか。だが、その「横から」の部分が決定的に異なるため、同範疇でみにくいのも確かである。難しいかな。なお、ここに膝を出せば「牛殺し」になる。

 相手と正対して投げる、ということに拘れば、フロントスープレックスは相手を肩越しに投げるわけではないが、たとえばダブルリストアームサルトなどはショルダースルーに近い。そのリストを掴むのを省略すればショルダースルーみたいだ(もっともリストを掴まなければ成立しないが)。
 だが反り投げはブリッジを前提としているので、類似技とは言えないかも。肩で跳ね上げているわけではないからなあ。これが類似技なら、ノーザンライトスープレックスなども近い技になってしまう(汗)。

 水車落しは、さらにショルダースルーに近い。
 タックルで相手の懐に入りそのまま持ち上げ肩の上にのせ後方へ投げるのだから、これは字面だけだとショルダースルーと相似形とも言える。カウンターで入るかタックルで入るかはどちらでもいいこと。これを必殺技としていたサルマン・ハシミコフは、必ず相手の片方の手首を掴んでいた。だが、手首は掴まなくても水車落しは成立する。
 水車落しにはブリッジも必要ないのだが、肩に担いで一旦動きをためる。ここが、まずショルダースルーと違う。そして後方に倒れこんで投げる(実際にはブリッジとは言わずとも反り投げている)。ショルダースルーはカウンターでの勢いや遠心力を活用して投げるため、むしろ「跳ね飛ばす」と書いたほうが相応しい。ここが決定的な差異であるように思える。
 また、マットに落とすときに自らの体重を相手にかけ押しつぶす、というのがこの技のミソである。ここもショルダースルーと異なる。なのでかつて僕は水車落しをバックフリップの縦バージョンであると考えた(→バックフリップ)。
 ただ、ショルダースルーとは異なるものの、正対した相手を肩にのせて後ろへ投げるのだから、やはり系統は近い。

 前述した相撲の「居反り」はかなりショルダースルーに近い。四つ相撲で相手のふところにもぐりこんで肩で相手を持ち上げ、腰と背筋で後ろへと投げる。まわしをとっていても、主体は肩(背中)で投げる。そしておすもうさんにブリッジは難しい。
 しかしこんな技は普通は出ませんな。智の花が昔これを決まり手としたことがあったが、何十年ぶりとか言っていた。だが、ショルダースルーには近い。
 この居反りに近い技がプロレスにある。リバーススープレックスである。
 スープレックスと名はついているが、これは一種の返し技であって自ら仕掛けることは難しい。例えば相手がドリルアホールパイルドライバーを仕掛けようとする。当然、正対して頭を股の間に入れ、上からがぶって胴をクラッチし、逆さまに持ち上げようとする。自分からみれば相手の重心が高く、身体が背中にのっかっている状態だ。そこで、タイミングをみて上体をよっこらしょと起こし相手を持ち上げる。相手は自分の胴を持っているので跳ね上げることはできないが、そのまま後方に倒れると相手の背中をマットに打ち付けることができる。体重も乗る。
 がぶられたときの返し技として有効で、パイルドライバー以外にもパワーボムや、カナディアンバックブリーカーを仕掛ける体勢などは、返しやすい。まれにはサイドスープレックスやダブルアームスープレックスもこれで返す。
 この技で誰もが忘れられないのはカールゴッチのそれで、昭和47年の新日旗揚げ戦のメインイベントvs猪木で、ゴッチは猪木の技をリバーススープレックスで返し、何とそれでフォールを奪っている。体重のかけかたが絶妙だったのだろう。地味な返し技が必殺技に昇華した瞬間だった。
 水車落し同様その体重のかけ方がこの技のキモなので、ショルダースルーと同列には考えられないが、相手を後背部で投げるという部分はショルダースルーと兄弟技と言っていいかもしれない。
 
 派生技として、フラップジャックがある。ショルダースルーで相手を跳ね飛ばす際に、相手が一回転して受身をとろうとする動きを許さず脚をとり、そのまま後方へ倒れこむ。相手は顔面からマットに落ちる。フェイスバスターとなるが、怖い技だ。オカダカズチカが使用する。
 また、ショルダースルーで相手を上方に跳ね飛ばし、落ちてくるところで頭部を肩で受けそのままエースクラッシャーにいく。メキシカン・エースクラッシャーと称される。
 タッグの合体技においては上ふたつの複合技というのもあって、ショルダースルーからフラップジャックを仕掛けると同時に、もう一人が空中で頭部をキャッチし担いでエースクラッシャーにいく。ダッドリー・ボーイズがやればダッドリーデスドロップ(3D)、天山と小島なら天コジカッターとなる。

 なお、肩で投げるという観点を外せば、その形状と効果においてショルダースルーに実に近い技がある。モンキーフリップである。
 これは、つまり両足で放つ巴投げである。カウンターに限らないが、正対して相手の頭部を掴み(場合によっては手四つの体勢から)、ジャンプして自分の両足を相手の腹部に当て、引きずり込むように自ら後方に倒れこんでマットに背中がついたら両足を思い切り跳ね上げる。脚の力と自らの後方回転による遠心力で相手は飛ばされて、回転して背中からマットへと落ちる。相手の頭や腕から手を離せば相手はポーンと跳ね飛んでゆく。ショルダースルーが肩投げならこれは足裏投げだが、後方に跳ね飛ばすという部分においてショルダースルーと同様の効果が得られる。

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