凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

ヒップドロップ

2006年06月17日 | プロレス技あれこれ
 ジョン・テンタが亡くなった。享年42歳。死亡原因については錯綜していて、メディアによって白血病、そして膀胱癌とも言われている。2年前から闘病生活であったらしいので、どちらも本当なのかもしれない。でもこれはやはり、身体を無理をしてでも大きく保たなければならない宿命にあるレスラーの壮絶な殉職だろう。テリーゴディや橋本真也のときと同じ感想しか出てこない。アースクエイク。僕はWWEはあまり見ない視聴者なのだけれども、テンタは日本にとっては馴染みが深すぎる。
 そもそも日本との関わりは、テンタが大相撲に入門したときから始まる。約20年前、佐渡ケ嶽部屋に所属、琴天山(琴天太)として3場所連続優勝。結局相撲界では1敗もすることなく角界を去った。このデビュー24連勝という記録は今も破られていない。プロレスラーに転身後も日本とは関わりが深く、当初は全日本プロレス入り。その後アメリカに主戦場を移すも、日本でSWS、WAR、そしてUWFインターにも参戦した。忘れることができないのは北尾との例の「八百長発言」の一戦である。
 テンタはアメリカマットにおいて、WWFに所属してホーガンと抗争を繰り広げた。その際に「アースクエイク(地震)」というリングネームを名乗ったことが、またひとつ彼の寿命を縮めさせたのではないか。こんなリングネームでは身体を大きく保たざるを得ない。そもそもアマレス出身でゲーリー・オブライト(彼も30代で死んだ)のライバルでもあり、アメフトもこなした運動神経の良さを前面に打ち出すプランを封印し、身体の大きさを誇示せざるを得なかったこと。そのフィニッシュホールドはアマレス仕込みのスープレックスではなく、体重を利したヒップドロップであった。

 僕の心づもりでは、ボディプレス、セントーンについて言及してからヒップドロップについて書こうと思っていたのだが、ちょっと繰り上げて記事にする。テンタの得意技であったからである。
 ヒップドロップというのは、見方によっては単純な技である。仰向けに倒れた相手に、臀部から体重を乗せて圧し掛かっていく。例えばリックフレアーのように、相手の足をマットに引っ掛けさせてそこにヒップを落として痛め、4の字固めに移行する繋ぎ技としてのヒップドロップもあるが、フィニッシュに結び付けるには全体重を相手のボディに落とすヒップドロップでないといけない。
 全体重を相手に浴びせる技については、他にボディプレス(身体の前面から)、セントーン(背中から)がある。エルボードロップやニードロップもそうかもしれないが、これはちょっと微妙なところ。強いてあげればアトミック・ボムズ・アウェイ(飛び降り踏みつけ)か。このディック・ザ・ブルーザーの得意技はコーナー上段からのフットスタンプと言えるのだが、テンタほどの体重があるレスラーがやれば相手は腹腔破裂してしまうだろう。相手を押しつぶすほどの体重を持つレスラーにとってベストな全体重浴びせ技はやはりヒップドロップしかないのではないか。
 ボディプレスは放った際自らの両手、ヒザをマットにつくパターンが多く(これは自らが受身を取る必要性があるからだが)、全体重ともやはり言いにくい。またセントーンは全体重が確実に乗るが、背中から落ちるという特殊性上、ジャンプせざるを得ない。こう書くと問題があるかもだが、力の加減が出来ない。ヒップドロップであれば、狙ったところに(腹でも胸でも)落としやすく、しかも両足を先にマットに着地させることが可能なので、相手によって加減(この加減ということで八百長だと連想されても困るのだが、プロレスは相手に怪我をさせることを目的とはしていない)出来る。体重の如何によって、ヒップドロップは自由自在に放つことが出来るのだ。

 さて、「見方によっては単純な技」と書いたが、奥が深くないかと言われればそうではない。この技を日本中に知らしめたのはもちろんサンダー杉山の「雷電ドロップ」である。
 もうサンダー杉山が亡くなって4、5年は経つが、僕は残念ながら杉山の全盛期を記憶している年代ではない。僕が記憶している杉山は既に子供番組に出演していたかわいいおっちゃんだ。ただ、雷電ドロップの名はその頃もまだ轟いていた。小学生のプロレスごっこにも登場していた(余談だが、僕は小さい頃「大臀ドロップ」だと思っていた)。ある意味日本中を席巻した技とも言える。
 サンダー杉山の凄さは、その体格から想像できない身体のバネとジャンプ力だ。助走もなしにゴムまりのように相手レスラーの上でジャンプする。その際相撲のマタ割りのように大きく開脚する。派手だ。いかにも必殺技の匂いがする。そして相手に2度、3度とヒップドロップを落とす。ダメージは計り知れない。「絵になる」ヒップドロップだった。杉山はアマレス五輪代表でスープレックスもこなした技師(わざし)だが、自らの丸い身体を誇示するためにヒップドロップをフィニッシュにしたのだろう。テンタとの共通点が見える。

 僕らの世代で馴染み深いヒップドロップと言えば、アンドレ・ザ・ジャイアントのそれであろう。アンドレはまず相手をロープに振り18文キック(人間エグゾセミサイルby古館伊知郎)を放つ。そして倒れた相手によっこらしょっと言わんばかりに腰を落としていく。もう相手は返すことなど絶対に出来ない。必殺フルコースである。
 アンドレは器用なレスラーであって他にもいろいろ技は出来ただろう。しかし、その巨大な「人間山脈」と言われた身体を誇示するにはこのフィニッシュしかなかったようにも思われる。アンドレがセントーンをやっていたら相手は病院送りだろう。また、杉山のようにジャンプしてヒップドロップを打ち込めば肋骨は折れ内臓は破裂する危険性もある。なので、ドタドタと腰を下ろす式のヒップドロップしか出来なかった。言ってみれば「手加減」である。200kgを軽くオーバーしていたアンドレの「乗せる」だけのヒップドロップだった。ヒッププレスと言うべきか。そのアンドレもやはり身体を維持出来ず46歳で死んだ。

 トップロープからのヒップドロップもある。使い手の第一人者はペドロ・モラレスだろう。ドロップキックを得意とし強靭な背筋力を誇ったモラレスのヒップドロップは迫力の一言だが、モラレスは体重が110kgほど。アンドレがやってはいけない技である。またサンダー杉山は後年「大雷電」と呼ばれるトップロープからの雷電ドロップを放ったが、杉山もあんな丸い身体で120kgくらいなのである。

 さて、ちょっと関係ない話かもしれないが、ヒップアタックという技がある。カウンターで臀部をヒットさせる技で、越中詩郎の代名詞とも言える技であるが、どうも僕はあまり好きではない。ヒップよりも当然ニーなどの硬い部分の方が効くと思うからであって、ダメージの蓄積において説得力に欠けると思っているからである(尻を顔面にヒットさせられるという精神的屈辱的ダメージはあるが)。しかし越中くらい徹底して使うと技も力を持ってくるものであって、あそこまでやらないと一人前にはなれない。だから、他のレスラーはやらない方がいい(女子プロレスでは以前から使われているが、女子の尻圧というアングルを考えるとこの場合はよしとしたい…僕の論理の破綻)。しかし、最近のTV実況を聞いていると、若いアナウンサーが「鍛え上げた尾骶骨に魂を込めて!」などと言っている。アホかいな。尾骶骨なんぞ鍛えられるわけもなく、尾骶骨をヒットさせれば越中の方にダメージが強くなるのは当たり前のことで、アナウンサーも何でも言えばいいというものではないと思うが。

 しかしながらこうして書いていると、テンタだけの追悼にとどまらず、サンダー杉山やアンドレも早く亡くなっていることに愕然とする。ヒップドロップを絵になる必殺技たらしめんとすればそれなりの体格が必要で、そのことがまたレスラーの寿命を縮めていることに気が付く。正に身体を切り売りする職業なのだ。今ヒップドロップを使うレスラー、僕の大好きな吉江や、楽しい泉田純らは身体のケアには十分気をつけて欲しい。

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6 コメント

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ショック(T_T) (jasmintea)
2006-06-17 00:57:53
ジョンテンタが亡くなったのは全然知りませんでした。

「体を大きく保つ」ってことは大変なことなのでしょうね‥。

こうやって凛太郎さんの記事を拝見すると「鉄の爪」ほどではなくともヒップドロップは理論が証明する不吉な技なのでしょうか?



ジョンテンタのご冥福をお祈りします。

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>jasminteaさん  (凛太郎)
2006-06-17 01:56:21
ヒップドロップが理論的に不吉な技…そこまではさすがに僕は書いていないつもりです(汗)。ただ、レスラーという職業は、以前にも何度も書いていますが、「異形の者」でありつづけなければいけないという宿命を背負っているのです。無理に無理を重ねてレスラーは身体を維持し戦っているのです。ヒップドロップを放って絵になる身体。それは「異形」の姿以外の何者でもありません。そういうことが背景にあるということを僕も自分で知っておきたいと思うので、こんなふうな書き方になってしまいました。

ジョン・テンタに黙祷。
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Unknown (明石家_1955)
2006-06-17 19:19:17
トラバありがとうございます。



大型レスラーの宿命なんですかね。

大型のレスラーとしての体を維持すべく

無理もしていたはずでしょうね。



昨年の橋本といい近い年齢のレスラーが

亡くなると余計悲しみが増しますね。

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>明石家さん (凛太郎)
2006-06-18 00:02:28
なんかテンタって憎めないと言いますか…丸っこい体つきだからでしようか。どことなくユーモアも感じたりしました。

相撲入門がきっかけで彼はあそこまで太るようになったのか。新入幕の頃は何kgくらいだったのかまで調べていないですけど、やはり身体に無理はしていたのでしょうね。

若いのになぁ。合掌。

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サンダー杉山 (今日のジョー)
2006-06-18 11:25:42
グレート草津やストロング小林がエースだった国際プロレスに、アンドレがやってきました。当時はまだモンスター・ロシモフというリングネームでしたが、サンダー杉山のヒップドロップ10連発にあえなくマットに沈み3カウント取られました。あのシーンは今でも脳裏に焼き付いています。その後、アンドレが3カウント取られるシーンなどほとんど見たことがありませんでしたからね。

サンダー杉山も亡くなっていたのですか。

うーむ、言葉が見つからない。
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>ジョーさん (凛太郎)
2006-06-19 07:48:01
僕はサンダー杉山の全盛時を知らないのです(草津もですが)。いや羨ましい。プロレスのことに思いを巡らせるとき、いつも、もっと早く生まれていたらと詮無い事を考えてばかりです。そういえば、ロシモフ時代のアンドレをジャーマンスープレックスで投げたカール・ゴッチの伝説も国プロにはありましたね。それも知らない。(T-T)
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