[FT]日本の安保法案は正当だ(社説)
危険は存在、慎重に行使すべき
(2015年7月31日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
日本が第2次世界大戦の終わりに降伏してから70年近くがたつ。
日本は米国の占領下にあった1947年、米国が書いた戦争に訴える権利を放棄した平和憲法を採択した。
日本国憲法はドイツとは異なり、改正するのが非常に困難になっており、制定以来1条たりとも変更されていない。
日本は現在、この憲法の解釈を変え、集団的自衛権と呼ばれる権利の行使を認めるための法案を通そうとしている。
これを日本の防衛体制の戦後最大の変更だと言う人々もいるが、それは大げさだ。日本は既に憲法の解釈を限界にまで広げている。
憲法9条は、日本は陸海空軍を保持してはならないと定めている。だが実際は、当初は米国からの強い要請もあり、日本は世界屈指の装備を持つ軍隊を保有している。
それを自衛隊と呼ぶことで、その力を隠しているのだ。自衛隊は国連平和維持活動への参加やインド洋で戦闘態勢の米艦船への給油支援を行い、イラクでインフラの整備に携わったことさえある。
保守派の安倍晋三首相は現在、日本による海外での軍事展開を行いやすくしたいと考えている。
広義では、集団的自衛権は紛争で米国の同盟国と共に戦闘に参加できるようにするものだ。
例えば、朝鮮半島で戦争が起こり、それが日本の安全保障に対する差し迫った脅威であるとみなされた場合などがこれにあたる。
また、日本に大きな影響を及ぼす状況では米国の後方支援も行えるようになる。
こうした変更を米国は積極的に支持しているが、中国や韓国は日本の新たな軍国主義が始まった証しだとして反対している。
安倍氏は確かに国家主義者だ。また、明確な修正主義的見解を持っていることも確かだ。
集団的自衛権の必要性についても自国民にうまく説明できていない。同氏はワシントンでは米国と共に行動する日本の新たな役割を強調したが、日本ではその変更が最小限であると説明しようとしている。
世論調査では、日本人の大半が新たな安保体制に反対しており、多くの国民が米国の軍事的冒険に日本が引きずり込まれることを危惧している。
例えそうだとしても、これは正当な変更だ。軍事力の増した中国の台頭で日本の安全保障環境は変化している。
不安定な北朝鮮が核爆弾を持っている事実もしかりだ。日本は戦時の侵略に対する償いをドイツほどうまく行えてはいないが、日本の部隊は過去70年間、敵に弾丸を1発も撃ったことがない。
現在審議中の安全保障法案が成立しても、日本国憲法(の解釈)で許される武力行使の自由裁量は、依然として世界のほとんどの国よりも制限される。それに加え、インド、フィリピン、ベトナムなど多くのアジア諸国は中国のますます強気な姿勢を懸念しており、日本が軍事力を高めることを支持している。
■平和を好む国であることを示す努力見せよ
それでもなお、危険は存在する。日本は新たな力を慎重に行使すべきだ。中国を封じ込めるために米国と手を組んでいるように見られてはならない。
自国の正当な利益が脅威にさらされていると中国が結論づければ、この政策は裏目に出てしまう可能性がある。
また、安倍氏は日本が近代的で平和を好む国であることを示す努力をもっと行うべきだ。
過去をきっぱりと葬り去るためにも、同氏は来月の戦後70年談話の際にこれまでの謝罪の言葉を繰り返し、その内容をさらに広げるべきだ。
安倍氏がそれをすべて行ったなら、中国はそれに報いるべきだ。
アジアは70年前のことをもう水に流してもいいころだ。
憲法の縛りは依然として残るが、日本をより「普通」に近づけることも、そのプロセスの一部である。
(2015年7月31日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
危険は存在、慎重に行使すべき
(2015年7月31日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
日本が第2次世界大戦の終わりに降伏してから70年近くがたつ。
日本は米国の占領下にあった1947年、米国が書いた戦争に訴える権利を放棄した平和憲法を採択した。
日本国憲法はドイツとは異なり、改正するのが非常に困難になっており、制定以来1条たりとも変更されていない。
日本は現在、この憲法の解釈を変え、集団的自衛権と呼ばれる権利の行使を認めるための法案を通そうとしている。
これを日本の防衛体制の戦後最大の変更だと言う人々もいるが、それは大げさだ。日本は既に憲法の解釈を限界にまで広げている。
憲法9条は、日本は陸海空軍を保持してはならないと定めている。だが実際は、当初は米国からの強い要請もあり、日本は世界屈指の装備を持つ軍隊を保有している。
それを自衛隊と呼ぶことで、その力を隠しているのだ。自衛隊は国連平和維持活動への参加やインド洋で戦闘態勢の米艦船への給油支援を行い、イラクでインフラの整備に携わったことさえある。
保守派の安倍晋三首相は現在、日本による海外での軍事展開を行いやすくしたいと考えている。
広義では、集団的自衛権は紛争で米国の同盟国と共に戦闘に参加できるようにするものだ。
例えば、朝鮮半島で戦争が起こり、それが日本の安全保障に対する差し迫った脅威であるとみなされた場合などがこれにあたる。
また、日本に大きな影響を及ぼす状況では米国の後方支援も行えるようになる。
こうした変更を米国は積極的に支持しているが、中国や韓国は日本の新たな軍国主義が始まった証しだとして反対している。
安倍氏は確かに国家主義者だ。また、明確な修正主義的見解を持っていることも確かだ。
集団的自衛権の必要性についても自国民にうまく説明できていない。同氏はワシントンでは米国と共に行動する日本の新たな役割を強調したが、日本ではその変更が最小限であると説明しようとしている。
世論調査では、日本人の大半が新たな安保体制に反対しており、多くの国民が米国の軍事的冒険に日本が引きずり込まれることを危惧している。
例えそうだとしても、これは正当な変更だ。軍事力の増した中国の台頭で日本の安全保障環境は変化している。
不安定な北朝鮮が核爆弾を持っている事実もしかりだ。日本は戦時の侵略に対する償いをドイツほどうまく行えてはいないが、日本の部隊は過去70年間、敵に弾丸を1発も撃ったことがない。
現在審議中の安全保障法案が成立しても、日本国憲法(の解釈)で許される武力行使の自由裁量は、依然として世界のほとんどの国よりも制限される。それに加え、インド、フィリピン、ベトナムなど多くのアジア諸国は中国のますます強気な姿勢を懸念しており、日本が軍事力を高めることを支持している。
■平和を好む国であることを示す努力見せよ
それでもなお、危険は存在する。日本は新たな力を慎重に行使すべきだ。中国を封じ込めるために米国と手を組んでいるように見られてはならない。
自国の正当な利益が脅威にさらされていると中国が結論づければ、この政策は裏目に出てしまう可能性がある。
また、安倍氏は日本が近代的で平和を好む国であることを示す努力をもっと行うべきだ。
過去をきっぱりと葬り去るためにも、同氏は来月の戦後70年談話の際にこれまでの謝罪の言葉を繰り返し、その内容をさらに広げるべきだ。
安倍氏がそれをすべて行ったなら、中国はそれに報いるべきだ。
アジアは70年前のことをもう水に流してもいいころだ。
憲法の縛りは依然として残るが、日本をより「普通」に近づけることも、そのプロセスの一部である。
(2015年7月31日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)