origenesの日記

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西郷信綱・永積安明・広末保『日本文学の古典』(岩波新書)

2008-02-10 19:14:12 | Weblog
江戸時代までの日本古典文学の歴史を探った著作。
1神話と叙事詩
古代ギリシアにおいては、神話は吟遊詩人のような人々によって伝えられていった。それに対して日本の神話は官製のものであり、日本の中央政権がつくっていったものだという。だからこそギリシア神話に比べて、『古事記』『日本書紀』は政治的な意図が明確にこめられているという。
3源氏物語
著者は源氏における「観念の経験化」に注目している。紫式部は仏教的なイデオロギーに沿いつつも、観念的に物語を編み出そうとはしなかった。ここに彼女の大きな特徴がある。歴史的に見ると『古事記』や『日本書紀』のような観念性を取りはらった、経験的な物語が、『源氏物語』であるのだ。
9芭蕉の俳諧
中世の連歌とは違い、芭蕉の俳諧があくまでも民衆の中にある感情を描き出そうとしたことに注目している。芭蕉は確かに中世の俳諧をよく知っていたし、俊成や西行の世界観に強い影響を受けた。しかし、民衆と離れた貴族的な世界に思いを馳せるのではなく、俊成や西行の見つけた「悲しみ」を民衆によりそった形で表現しようとしたのである。
12歌舞伎
歌舞伎は本来的には、西洋の演劇のように専ら劇の内容で観客を楽しませるものではなく、歌舞伎の俳優を楽しませるものであったという。観客も歌舞伎の劇場を所有しているものだと考えられ、「花道」は演技者と観客を繋ぐ重要な役割を果たしてきたという。著者は歌舞伎が西洋自然主義演劇のアンチテーゼとなり得るのではないかと考察している。

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