origenesの日記

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『十字架の夢』

2008-02-06 20:13:06 | Weblog
古英詩である『十字架の夢』は10世紀に成立したと考えられる頭韻の長編詩であり、キリスト教信仰を表現した古英語文学の中では『べオウルフ』に次いで有名である。
この詩の語り手は十字架の夢を見る。第1部では、語り手は夢の中でイエス・キリストの磔の場面を想像する。十字架はやがて勝利に立ち上がるが、語り手は生々しい風景に恐怖を感じる。第2部では、十字架が語り手に対して話しかける(!)。なぜイエス・キリストが磔になって死ななければならなかったのか、そして神の意志はどこにあるのか、語りかける。第3部では、語り手は自分のキリスト者としての使命を自覚し、キリストの教えを世に説いていこうと決心するようになる。
この長編詩は、アングロ・サクソン民族にあるアニミズム的な信仰とキリスト教信仰を融合させたものとして名高い。農民が元々持っていたような自然信仰は、キリスト教の教えとうまくハーモニーを奏でている。これは後世のラングランドの詩についても言えることだろう。『十字架の夢』『農夫ピアーズの夢』にしても、夢によるお告げを重要視している。そして、文字も読めないような貧しい語り手がキリスト者としての使命を与えられる。
中世のキリスト教は、哲学者だけが担っていたわけではない。『十字架の夢』や『農夫ピアーズの夢』に出てくるような貧しい人々が、アニミズムとうまく融合させながら、素朴なキリスト教信仰を持っていたということを忘れてはならないだろう。

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