origenesの日記

読書感想文を淡々と書いていきます。

高階秀爾『フランス絵画史』(講談社文芸文庫)

2008-10-14 20:49:23 | Weblog
フォンテーヌブロー派、シモン・ヴーエフィリップ・ド・シャンパーニュのようなバロック美術、ニコラ・プッサンやクロード・ロランの古典主義、ベラスケスを吸収したジャン・アントワーヌ・ヴァトー、新古典主義のダヴィッドドラクロワらのロマン主義、クールベらの写実主義、バルビゾン派、印象派、ポスト印象派……。フランス美術400年の通史を綴った書物である。
イエズス会と交流のあった古典主義の作家ニコラ・プッサンが特に気になった。彼は聖人ザビエルを描く一方で、ギリシア・ローマ神話を題材にしたり、自画像を描いたりと、幅広い作品を後世に残した。古典主義時代においては、プッサン派とベラスケス派というのが存在していたという。ギリシア・ローマを理想化した古典主義者たちの一派と絵画の進化を信じ近代的な作品を創り出そうとした一派。この対立は後者が緩やかに勝利を収める。
-17世紀アカデミーは絵画とは理性に訴えかけるべきものであると考えた。画家が描くべき風景は理想化された風景だった。18世紀ヴァトーやシャルダンの登場により、状況は変わる。
-マルローはルーベンスを吹奏楽、ヴァトーを室内楽に例えた。
>>
ロマン主義とは、主題の選択の中にあるのでもなければ、正確な真理の中にあるのでもない。それは、感じ方の中にあるのだ。
(195)
<<
ボードレールの言葉。彼はロマン派らしい美術批評を残している。

四方田犬彦『ハイスクール・ブッキッシュライフ』(講談社) 

2008-10-14 19:35:01 | Weblog
四方田の本は『空想旅行の修辞学』『アニマとしての読書』『ハイスクール1968』『日本映画史100年』に続き今回で5冊目。本書は少年期の読書傾向を綴った『アニマとしての読書』の続編となる。
著者が高校生だったころに影響を受けた書物について語ったエッセイだ。冒頭の『ヨハネ黙示録』はブレイク、ローレンスなどを交えつつ、新約聖書の黙示録について考察した批評である。ローレンスにとって黙示録とは、神学や哲学を知らぬ庶民のためのものだった。彼らは自らが持つ怒りを黙示録の中の過激な暴力にたくした。炭鉱夫の息子だったローレンスにとっては、ニーチェの反キリスト教的哲学さえも貴族主義的なものだった。
その他にはロートレアモン、ランボー、プルースト魯迅、ジョイス、カフカ、フォークナー、セリーヌ、ボルヘス、レアージュといった前衛好みの著者らしい対象が選ばれている。
ジョイス『ユリシーズ』の章では、ハインズとマリガンの対立に焦点が当てられている。アイルランドを研究するイギリスの民俗学者ハインズが豊かな者であるのに対して、アイルランド文化を重んじるマリガンは貧しい者である。支配する者・支配される者、持つ者・持たざる者の対立はこの長編小説の至るところに見受けられる。
プルーストの章では、著者のこの小説家に対する深い愛が露になる。『ガリヴァー旅行記』を修士論文に選んだのは対象と距離が取りやすかったからで、深く愛しているプルーストの小説などは研究対象にできなかった、という話は頷けた。