origenesの日記

読書感想文を淡々と書いていきます。

エリック・ホッファー『エリック・ホッファー自伝 構想された真実』(作品社)

2008-09-23 22:24:12 | Weblog
労働者としての視点から哲学書を書き続けたホッファーの自伝。
彼はアーレントと同じく労働というのを極めて否定的に捉えており、人間は一日6時間、週5日以上は働くべきではない、余暇を他のことに費やすべきだ、と提言している。事実、彼は日雇い労働者として働きつつも、労働の余暇には本を読み、自らの思想を編み出していった。
貧しい環境で育った著者は弱者に目を向け、弱者による歴史に注目する。それはニーチェが強者の歴史を描き出そうとしたこととは対照的である(しかしホッファーのニーチェ批判は疑問も残る。ニーチェの力・強者とは経済的・社会的なコンテクストで捉えるべきものではないのでは)。名もなき無数の労働者によってつくられていく歴史。名もなき無数の労働者の中の一人によってつくられていく思想。
多くの者が労働に長時間、身を費やさなければならない現代においては、広く読まれるべき本である。職業の傍ら思索に勤しむことの重要さを教えてくれる。哲学書としては無類の読みやすさであり、彼がモンテーニュの『エセー』と出会って哲学に目覚めたという点は示唆的。

渋谷陽一『ロックは語れない』(新潮文庫)

2008-09-23 15:13:17 | Weblog
ロックは語れない、と言いつつロックを語っている対談集。浜田省吾、山下達郎(意外と毒舌!)、忌野清志郎、大貫妙子、遠藤ミチロウなどの一線のアーティストが渋爺の対談の相手だ。
著者はローリングストーンズの特徴を疲労感だとしている。そしてカントリー・バラードの"Wild Horses"(http://jp.youtube.com/watch?v=RYTPZks1kR8)をストーンズの最高傑作に挙げている。確かにこの曲ほどストーンズの持つ疲労感を上手く表現し得た曲はないかもしれない。渋谷のストーンズ観は極主観的なものであり、反論の余地はだいぶあるものの、なかなか鋭い。そういえば彼は"Angie"を嫌っていたっけ。
対談集の中で、渋谷はジョニ・ミッチェルの"Song for Sharon"(http://jp.youtube.com/watch?v=hIE-7ROd-Pw)という曲を紹介している。自殺した女性にシンパシーを抱いてしまうような危うい状態にいながらも、愚直に恋愛を求める女性の気持ちを歌った曲だという。政治にも抒情にも絡み取られない日常を唄った歌として、ジョニの詩の魅力が前面に押し出された名曲なのかもしれない。