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TONALITY OF LIFE

作曲家デビュー間近のR. I. が出会った
お気に入りの時間、空間、モノ・・・
その余韻を楽しむためのブログ

続 オレゴンの極上宿

2009-02-01 13:20:53 | 旅行
何よりもミンモに笑顔が戻ったのがよかった。
昨日は過酷な移動になってしまった。
今日は連泊、この場所で一日ゆっくりと過ごすことにしよう。
食堂からウッドデッキに出ると、2匹の黒い大型犬がしっぽを振りながらやって来た。
建物の周囲ではバラやハーブが昨夜の雨の雫をまとって輝いていた。
山や森、農場を見渡しながらぐるっと歩いてみる。
鳥のさえずりや風の音に耳を澄ましてみる。
それだけで心からリラックスできた。

お昼過ぎには広大な敷地を散策した。
ブドウ畑はいいものだ。
まずは何といっても葉っぱのかたちがすばらしい。
よく手入れされた木々が傾斜地に垣根のように連なっているのもとても絵になる。
以前山梨にある個人のワイナリーを訪ねたときのことが思い出された。
今の時期は深い紫色の房がいたるところに見え隠れし、
これがやがてワインに変わるのかと思うとわくわくした気持ちにならずにはいられない。
「実を食べてもいいよ」と宿の主人に言われていたので遠慮なく口に入れてみた。
とても甘い。
品種は確かピノと言っていた。
いくつも口へと運んでいるミンモ、食欲もすっかり戻ったようだ。

オレゴンの雲は見ていて飽きない。
太陽が顔を出したかと思うとにわか雨が降る。
まるで油絵の具を塗りこめたかのような立体的な雲が、青空を何度も横切って行った。
ふと浮かんできたマイケル・フランクスの曲の一節、
“Deep in July, Counting clouds floating by, Keeps us busy...” (♪「Dragonfly Summer」)
季節は違うがまさにこんな感じ。
ミンモは初めてこだまにも出会った。
山から帰ってくる「ヤッホー」の響きをママと楽しそうに繰り返している。
太陽の光をたっぷり浴びて部屋に戻ると三人で午睡を楽しんだ。
やはりここは天国かもしれない。

この付近にはキノコ料理のフルコースを楽しめるレストランがあって
全米からグルメの上級者が集まってくるそうだ。
さらに足を延ばすと太平洋がある。
実はオレゴンコーストにもぜひ泊まってみたいと思える宿があったのだが、あいにく子連れはNGであった。
オレゴンに留学していたママにとってここは心の故郷。
またいつかきっと訪ねることになるだろう。

夜一人で階下に降りたとき、エントランス近くの扉の上に木のボードを見つけた。
そこに書かれていたのはこんな言葉だった。
“WE CREATE OUR TOMORROWS BY WHAT WE DREAM TODAY”
その瞬間稲妻のような衝撃に貫かれ、見上げたまま立ち尽くした。
シンプルな単語をつないだだけの実に英語らしい表現。
使い古されたはずの “トゥモロ” や “ドリーム” という語感がなぜかとても新鮮で
無限の輝きを放っているかのように感じられた。
最初にこの地に夢を描いたのはどんな人だったのだろう。
天国を感じた宿の根底にあったスピリット。
前へ進む勇気を受け取って、心にしっかりと刻んだ。
(2007年10月の思い出)

http://www.youngberghill.com/

オレゴンの極上宿

2009-01-18 10:44:13 | 旅行
天国があるとしたらこんなところだろうか。
辿り着くのに苦労したから余計にそう思えたのかもしれない。
オレゴン州マックミンヴィルの “Youngberg Hill Vineyards & Inn”。
眼下にはところどころ霧が流れ、雲間から差し込む曙光が葡萄畑を徐々に浮かび上がらせる。
平穏で荘厳な朝のパノラマを、今こうして眺めている奇跡...

前日はシアトルからポートランドまでアメリカの高速を初めて運転した。
片道5車線計10車線の大動脈を4時間ほどかけて南下。
十分明るいうちに着く予定が、バイパスを降りたところでつまずいてしまう。
付近にあるはずの田舎道がどうしても見つからない。
スーパーやガソリンスタンドで道を尋ねるも
焦っているうちに日は容赦なく暮れていき、さらに追い討ちをかけるように強い雨が降り出した。
最大のピンチは誤って畑の道に進入したときのこと。
引き返そうにも左右、後ろは真っ暗闇で、一歩間違うと身動きが取れなくなるところだった。
車酔いしていたミンモもただならぬ状況を察してか、
いつの間にチャイルドシートをすり抜け後部座席から小さな体を乗り出している。
家族3人で激しく作動するワイパーの先を凝視しながら夜道を進んだ。
今度こそは合っているかもしれない...手元の地図と実際の道が感覚として重なるようになってきた。
そして遂に宿の入り口らしき小さな看板を発見。
しかしそこからは道幅が狭くなり、また不安に逆戻りの長い道が続いていた。
この宿は一体どんな場所にあるのだろう。
アップダウンを繰り返しながら少しずつ標高が上がっていくのが分かった。
時折ヘッドライトが霧の中をくぐると、ハンドルを持つ手に一層力が入った。
やがて急勾配が迫った先に見つけた確かな灯り。
押し寄せる安堵感は冒険の大きさに比例していて、
それを共に体験したことで家族のキズナもぐんと強まったように感じた。

昨晩道に迷ったことが嘘のように景色が朝に染まっていく。
ふと浮かんだメロディを慌てて五線譜に書き留めた。
階下の食堂には、そろそろ極上のブレックファストが用意されるているはずだ。


(2007年10月の思い出)