TONALITY OF LIFE

作曲家デビュー間近のR. I. が出会った
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初めて弾くショパン 〜 ピアノ・ソナタ第3番第3楽章

2018-07-15 12:38:55 | 音楽

物語は「ドウロ河流域の小さな町」の夜景からスタートする。
カメラは雨の降りしきる或る通りへとフォーカスしていき、
そのあいだバックに流れていたのがショパンの「ピアノ・ソナタ第3番第3楽章」。
ポルトガルの巨匠、マノエル・ド・オリヴェイラ監督の映画『アンジェリカの微笑み』である。

実はエンドロールのクレジットで確かめるまでショパンと気付かなかった。
さらにマリア・ジョアン・ピリスの名前を捉えたとき、2度目の衝撃を受けた。
まるでこの映画のために作られたのではないかと思わせる巧みな選曲は、
ポルトガル出身のピアニストによって奏でられていたのである。
テロワールの一致は心の土壌にも深く沁み込んだ。

緩徐楽章ならばなんとかなるかと思い、譜読みを開始したのは今年の1月。
この曲は以前にも耳にしたことがあるはずだが、この映画と出会うまで素通りしていた。
家にあったCDを聴くと、かなりゆったりめに奏でるピアニストが多い。
前後の楽章とのコントラストを意識してのことと思われる。
この楽章のみを弾くので、一番早いミロシュ・マギンの演奏をお手本にした。

中間部分には海を感じる。
より低い音域の鍵盤へ移ると海の底に潜っていく。波間に揺れる光が遠ざかる。
再現部の左手の動きには水面を撫でるような心地よさがある。
ところどころ現れる定型のトリルは意外に難しい。
締めの2段は大事に弾きたい。
最終小節の前の休符には何か想いを凝縮させる。
H-durは黒鍵が5つ。白鍵に比べて幅が狭い分、指先の焦点が研ぎ澄まされる感覚になる。

https://www.youtube.com/watch?v=US7C_XnQeM8