遺体屋の仕事

日常生活では見ることも聞くこともない「遺体屋の仕事」とは・・・

入院仲間の話

2008-01-25 15:25:03 | Weblog
皆さんは“入院”をしたことがありますでしょうか?
もちろんそんな経験はないほうが良いのですが
非日常の入院生活の中、闘病という拘束を余儀なくされた日々は
その病を含め、己の事、家族の事、人生などを深く振り返る
貴重な時間なのかもしれません。

都内なのに珍しく自宅葬儀を予定されているご葬家。
祭壇を設置する予定の部屋は壁一面に白布が天井から下げられ
床には銀色の敷物が敷き詰められています。
お部屋はすっきり片付けられ、故人様がお布団で寝ているだけです。
すっきりしたお部屋での湯灌の準備はとても楽です。
隣のお部屋から準備を傍観するご葬家ご一同様。
お茶の間テーブルを囲み、親戚の叔母様らしき方などは貫禄たっぷりに
鼻からタバコの煙を吐き出しています。
“末期のお水”の準備をお願いすると
「それなら焼酎で!!」と2リットルぐらい入ってる“ビックなんとか”みたいな
焼酎をお猪口について頂きました。
「あ!でもお父さん(故人様)割らないと酔っ払ってイッちゃう!」
・・・残念ながら違う形で逝っちゃっておられるのですが
喪主の奥様は走って台所に焼酎を割るお水を取りに行きました。

湯灌が始まる前まではなんとなく“てやんでいっ!”口調な喪主様で
息子さんやお嬢さんよりチャキチャキ風でしたが
いざ、末期のお水から始めていただくと
「おとうさーん 好きなお酒だよー もう一緒に飲めないんだよぉぉぉ」
故人様のお顔にご自身のお顔をピッタリくっけて泣き崩れてしまいました。

湯灌が終わり納棺の準備のために外に出ていると、ご近所の方でしょうか?
5,60代の女性が声をかけてきました。
「あの、誰か亡くなられたんですか?お父さんですか?」
私たちが下手に返答するのは良しとしないのですが
玄関先には葬儀の花があり、縁側には葬儀の幕が張っているので
何も言わなくてもモロばれです。
わたしは黙って“コクリ”とうなずくと
その女性の方は大変ショックを受けてしまいました。
「こちらのご主人、うちのお父さんと一緒に入院してたんです。
うちのお父さんだけ退院して元気になっちゃって・・・・。」
そう言われて今にも泣きそうな顔をされてしまいました。

たしか漫画おたんこなーすで読んだのですが
共に入院生活を過ごす患者さんは励ましあいながらも
「オレは○○の数値が上がって回復しつつあるぜ!」的な
回復度合いを競い合うというエピソードがありました。
もしかしたらそんな会話を故人様と近所のご主人も話していたかもしれません。
同時期に病気になり一方は完治し、もう一方は・・・。
「あと一時間くらいでご焼香できるようになりますので」とは
お伝えしましたがご近所の奥さんにしてみれば
ショックであると共に複雑な心境なのだろうと思いました。

湯灌が終わり喪主様にご焼香頂く頃には喪主様は放心状態に近いご様子でした。
ご焼香台の故人様の遺影写真は今の姿の2倍ほどに太っていて健康的で
確かに沢山飲みそうな人でそして、にこやかに笑っていました。






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