遺体屋の仕事

日常生活では見ることも聞くこともない「遺体屋の仕事」とは・・・

最後の言葉 という話

2007-08-20 06:56:46 | Weblog
「 さようならも言わないで行っちゃうの? 」
おばあさんはそう言って、死んでしまったおじいさんに抱きつきました。

おばあさんが、まるで明治時代の女子学生のように
可愛らしく言うものだからなんだか絵本を見ているような気分になりました。
故人様は脳梗塞で倒れ、緊急手術を施したのですが
助かる事ができませんでした。
頭には3方向から切開された生々しい手術跡。
ブラックジャックのような縫い傷が手術の緊急さを感じさせます。
頭の傷から出血しないようにお手当て
着せ替えはスーツ一式。
もう長いこと着ていなかったのでしょう。
キッチキチできついのですが、何とか着せ替え完了。

ご葬家にお手伝いいただくのは“お顔のご正式”と“末期のお水”です。
不幸中の幸い?
夏休みでご親戚一堂納棺式に集まる事ができました。
そしておばあさんが何をするにも最優先なので
おじいさんにしがみ付いたまま離れる事もできず
さらに納棺式の進行はスローペースです。
最後にお棺の蓋を閉める という時に
「じゃあ、おばあちゃんおじいちゃんの側に行ってあげて」とお孫さん
「おじいぃちゃん~」とお棺の中のおじいさんの足にしがみつくおばあさん。
「それ!足だから!!」とご一同
目が弱くなっているのでよく見えていなかったようです。
でも悲しみ深い事には変わりないので
葬儀屋さんの配慮で
「少しお蓋を閉めるまで時間を取るので、もういいですよ」と
一足先に失礼させて頂きました。

突然の病気や事故で亡くなってしまった場合
【 どうしても伝えたい事 】を言えずに亡くなってしまう人は
きっと沢山いるのだと思います。
私の大切な愛読書に
≪ さようなら エルマおばあさん ≫ 著:大塚敦子 発行所:㈱小学館

 
 というノンフィクションの写真絵本があります。
癌で余命1年のエルマおばあさんが人生を終える準備を始めていく話です。
自分の人生をまとめ、家族みんなとお別れをし
「最後まで楽しみながら生きたいね」と
死を決して恐れることなく、ゆっくりと旅立っていくお話です。
エルマおばあさんは幸運なのかもしれません。
思い通りに人生を終えることができたのですから。
でも誰もが準備万端で死を迎える事はできません。
「さよなうなら」は言えなくても日頃から【気持ち】は伝えておかなくてはいけないのかもしれませんね。

そのご葬家の告別式の終了した頃、ちょうど同じ葬儀屋さんに到着しました。
あの時のおばあちゃんは車椅子に乗ってお孫さんにエスコートされています。
葬儀屋さんに
「おばあちゃんあれから大丈夫でしたか?」と伺うと
「結構大変だったよ~でもお化粧してもらってよかったって喜んでたよ」との事。
何度かお式も中断されたのでしょう。
突然の不幸に沢山泣いてお別れをしたご葬家ご一同の皆さん
悲しいお別れでしたが、皆さん“さっぱりした”ような表情をされています。
【無事に故人を旅立たせた】そういう思いがあるのかもしれません。
一方通行でもきちんと気持ちの整理をつけることのできる大切な儀式
お葬式って残された人にこそ大切なものなのかもしれません。








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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お仕事お疲れ様です。 (のぶ)
2007-08-20 08:47:47
毎日暑いなかお仕事お疲れ様です。熱中症にならないように、気をつけて下さい。
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悩んでます。。。。 (kumiko)
2007-08-23 13:50:40
大変ためになるお話でいつも読ませていただいています。

故人様の口腔および鼻孔から出る出血及び体液の対応について悩んでます。。。。

いちおう吸い出す道具もあるにはあるのですが、止まらない場合は止血剤と綿でお手当てさせてもらっています。しかしこの方法だと顔が膨張してくるようなんです。いちおうドライアイスは顔周辺に置いてます。結局のところ無理やり止めても顔の膨張は止まらず、ドライアイスで冷えるころには顔はパンパン状態です。これでいいのだろうかと思います。

エンバーミングを行うとするとご遺体に孔を開けることになるようですが、確かにガスなどが抜けてそこからさらに体液を吸引すれば、遺体の現状維持ができるかもしれません。しかし、そんな高等な技術は持ち合わせていません。勉強しようにも専門学校は遠方にしかなく悩んでいます。

とにもかくにもドライアイスで冷やすことなんでしょうか。。。。
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