遺体屋の仕事

日常生活では見ることも聞くこともない「遺体屋の仕事」とは・・・

泣き虫 という話

2007-08-23 18:10:45 | Weblog
故人様はおばあちゃんで検死されたため、裸でシーツに包まれて納棺室に到着しました。

検死=突然死・原因不明の死なので死因を調べなければなりません。

検死はあくまでも≪死因を調べる≫のが目的

血液検査程度の検死だと終了後、お医者さんが故人様の体のケアなどはすることはありません。

血液検査は首の後ろから血液を採取することが多く、故人様の寝ているシーツに5センチ大の丸い血痕がついています。

亡くなってまだそう時間がたっていないのか?まだ体は柔らかく着せ替えも楽にできました。

準備終了後、ご葬家様を呼びに行くと少しイカツイ感じの神妙な顔の男性が一人。


「他に立ち会う人はいない」

ということなので故人様・ご葬家・私の3人のみの納棺式になりました。







お立会い1人だといろいろ想像してしまいます。

ご葬家の男性はどうやら息子さん

故人様の着せ替え終わってそれなりに身支度は整っているのですが亡くなって寝ている姿に更にショックを受けたようでした。

すこし嗚咽を漏らしながら顔を真っ赤にして涙を流しています。



『母子二人暮らしだったのかな?これから一人で残されちゃうのかな?』なんて。




でもよく見ると結婚指輪はしているので逆になぜ他の方もこなかったのかも不思議になります。







末期のお水を取り終えて、お顔お手元の肌の出ている部分を拭いてもらいます。

手を握り締めながら拭いて、手元を合掌する時も硬くなった指先を一生懸命合わせようとしてくれます。

あとはお化粧のみなのですが大抵の男性は女性のお化粧を見ても

「何をどうしたいのか?」なんてわかりません。

ご葬家に女性がいる場合は口紅やほほ紅などそれなりに好みを伺ったりするのですが

大抵の男性は『塗っている』という事しかわかりません。

“お化粧中の無言の時間”は『ご葬家を待たせてしまっている』という感覚を受け、やりずらい時もあります。

でも息子さんの様子を見ると一心に故人であるお母さんを見つめ泣いています。



『泣かせてあげよう』そう思いました。







葬儀屋さんによく「ご葬家泣いた?」とか先輩からは「泣かせてナンボ」と言われる事があります。

ちゃんとご葬家の心に響くような対応をしたか?という意味なのですが

意識するあまり“過剰なやさしい人オーラ”“演歌調の口上”になってしまうのが私は嫌なので意識しないようにはしています。

自然と出る涙を増徴させる事も止める事もしたくありません。

途中息子さんにご家族から携帯電話がかかってきましたが、我に返り電話にちょっとムッスリしていました。

それ以外はすぐにまたお化粧の無言の時間中、息子さんはそのままずーっと泣いていました。







「男は親の死に目以外で泣くな」とよく聞きます。

それ以外で泣くことを許されず、悲しみに対して鈍感にさせてられてしまう日本男性は

強くもあり気の毒でもあるように思えます。



そして更に想像してしまいます。

故人様を見つめ泣いているこの時間だけが、息子さんにとって

“小さかった子供のころに戻れる時間”なのかな、と。








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