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8月の課題本 東山彰良『流』

2017-07-30 12:45:52 | ・例会レポ

東山彰良『流』
講談社文庫 2017年 

1975年、偉大なる総統の死の直後、愛すべき祖父は何者かに殺された。17歳。無軌道に生きるわたしには、まだその意味はわからなかった。大陸から台湾、そして日本へ。歴史に刻まれた、一家の流浪と決断の軌跡。台湾生まれ、日本育ち。超弩級の才能が、はじめて己の血を解き放つ!友情と初恋。流浪と決断。圧倒的物語。(Amazon内容紹介より)

=例会レポ=

 私がこれまで推薦した課題本の中で、これほど「課題本に推してくれてありがとう」とお礼を言われた本ははじめてでした。
 私自身も読んで良かったと思える本でした。青春小説としておもしろく、また台湾のその時代のその空気が読んでいる私たちに感じられるように描かれている。長い物語の中にいろいろなエピソードが、盛り込まれているにもかかわらず、全体を読み終わった後には、1つの「流れ」が見えてくる。文章の書き方も構成もとてもよくできている作品でした。
 その人が生まれた国や時代によって、生き方がどうなるかは決まってきてしまうのですが、それでも人間が生きていく上で感じる気持ちというのは、どんな人でも「ああわかるな」という共通な部分があると思います。
 だから、外国の小説を読んでも、時代小説を読んでも、おもしろいと思えるのだと思います。自分ではその国の人になったり、その時代の人になったりはできなくても、本を読むことによって、あたかもその世界を経験したような気持になれる。中国や台湾の歴史がよくわかっていなかった私ですが、どこの国にも受験に苦しんだり、恋をしたり、肉親との関係に悩んだりする人たちはいるのだということがわかる。世界に生きている人はみんな、自分と同じように感情があって、生きているのだということが実感できる。
 本を1日にまったく読まない大学生が、4割いるというような調査結果があるようです。知識はネットで調べればわかるかもしれないけれど、想像力というか、世の中にはいろいろな人がいて、悩んだり、怒ったり、悲しんだり、その人たちも同じ人間なのだという気持ちが薄れてきてしまうのでは?と思って心配です。本たくさん読んでいればいいってものじゃないのですが…。想像力がないと不寛容になったり、相手を傷つけても平気になったり、大げさに言えば、戦争起こしても平気になってしまうのでは?と思うと未来がちょっと不安。
 全体の感想としては、
・暴力的な描写はあるが、エネルギッシュさを感じる。
・臭いや、音まで感じさせるような、なつかしい雰囲気の台湾の情景が良く描かれている。
・ラストシーンがとにかくいい!(ちょっとビターで、泣いちゃいそう)
・ゴキブリホイホイとか、ジョギングパンツとか、中森明菜の『セカンドラブ』とか小道具の使い方が非常にうまい
・無常観(あきらめ)のなかに優しさを感じた。美しい今をかみしめるラストは心に染みた。
・猥雑さの中の純情!泥田の蓮の花!恋愛が素晴らしい。
などなど


 講師からは、この作品はとにかく出来すぎの作品。作者は今後これ以上の作品が書けるのか?とのこと。
 北方謙三氏が「二十年に一度の傑作」と言ったのも、過去の受賞者がかならずしも最高傑作で直木賞を受賞した訳ではなく、この作者のように最高傑作で受賞できるなんで久しぶりという意味かと。
 描く対象との距離感がとれているので、小道具の使い方がとてもうまく、青春小説としてだけでなく、風俗小説としても優れている。時代が色濃く表れているものほど、いい風俗小説といっていい。
 台湾がひどい状態から脱していく激動の時代の青春。暴力の描写も一種の通過儀礼の表現として書いているのではないか。

 今後、作者がこれ以上の小説を書いてくれることを期待します。

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