
三浦しをん 著
税込価格 : 1,890
出版 : 新潮社
サイズ : 四六判 / 507p
発行年月 : 2006.9
昔、たしか「徹子の部屋」だったと思うが、ゲストの土居まさる(初代TVジョッキー司会者!)が、陸上部だった中学生か高校生のころに地元の駅伝大会に出た際、道を間違えたか何かの失敗をしてしまい、チームは大敗。その後、しばらく、村八分のような目にあった、と話していたのを覚えている。
陸上競技の中でも駅伝は、もっとも個人競技と団体競技の度合いが拮抗している競技ではないだろうか。
同じように長距離を走りぬくマラソンは、勝つも負けるも個人次第だから、たとえ転んで金メダルを逸しても、「こけちゃいました」と笑って済ませられるのだろう(言う人の人柄もあるけれど)。だけど、駅伝ではそうはいかない。へまをしてしまった選手に対する周囲からのバッシングや、自分自身のトラウマは、きっとものすごいものなのだろう。
というわけで、三浦しをんの『風が強く吹いている』。
読んでいて先を読むのがもったいない、早く読み終わりたいのだけれど、ずっとこの物語の世界に浸っていたいと思わせてくれた、現時点での今年のベスト1。寄せ集めのメンバーが、その世界の頂点を目指そうとする、というパターン自体はありきたりかもしれないが、作品として成功するかしないかは、そのメンバーの個性がきちんと描き分けできているかどうかにかかっているのだろう。
その意味で、本書の「彼方へ」と「流星」の、2章分まるまるを使って描かれた箱根駅伝往復の場面は圧巻。襷をつなぎながらひた走るという単純な行為をモチーフに、メンバー10人それぞれの、みずからの育ってきた境遇や襷を手渡す次のランナーへの思いが、駅伝での順位争いとカットバックで描かれ、もう涙なしでは読めないよ。
いまどき、こんなさわやかな大学生なんていないよ、とはなから相手にしない人もいるだろうし、冗談気分で箱根駅伝に参加すること自体に眉をひそめる関係者もいるだろう。僕自身、あまりに順調に進んでいくストーリーや、かっこよすぎる結末にはう~ん、とうなるところもあったけれど(この種のお話で一番好きなのは、ウォルター・マッソーとティタム・オニール主演の元祖「頑張れ、ベアーズ」のラスト)、それは瑣末なこと。初めて読んだ三浦しをん、文章もうまいし、ほんと、お薦めの一冊です。
余談。登場人物中の「双子」の二人、どうしても「ザ・たっち」のイメージで読んでしまいました。
(T.I.)
双子のビジュアルは、私も、どーしてもザ・たっちが浮かんでしまう。作者のイメージとしては、もっとgood lookingな2人組なんでしょうが。
私は六道大の求道的なエースが好きです。
この手のものでは「シコふんじゃった」が、私の中では、不動の一位です。それぞれのメンバーの悲しみとか寂しさとかが伝わってきて、そこに挿入歌の「悲しくてやりきれない」が重なって、いいんだなー。ちなみに「悲しくてやりきれない」はサトーハチローの詩なんですね。
ベアーズも、「シコふんじゃった」も、この本も、本質は同じ、ですよね。
山口晃のカバー絵と扉絵もいい。この人は、こういうイラストっぽい絵や漫画形式で描いた軽いものが、好き。
本文中の挿絵は、なんかダサくて変!だけど。