にいはんは周回遅れ

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たねプロは育たなかった

2008-06-26 | オーマイニュース

今週の月曜日、オーマイニュース(以下OMN)が、今月いっぱいで市民記者編集委員(以下編集委員)制度とたねを育てようプロジェクト(以下たねプロ)を終了させると発表しました。平野日出木編集長名義で出されたお知らせによれば、編集委員制度を打ち切る理由は以下のようになっています。(引用部分はイタリック体で表示、フォント変更・太字は筆者)

現時点で、「たねプロ」に続く次のプロジェクトは具体化しておりません。そこで編集委員制度はひとまず、今期が終了する6月末で打ち切り、次の候補が具体的に浮上してきた時点で、改めて募集することにします。

やる事がなくなったので打ち切るというニュアンスですが、これはいささか説得力に欠けます。

たねプロは昨年11月に初代編集委員の林美幸記者によってその原型となる提案が行われ、第2期編集委員の高橋篤哉記者が編集部に難色を示されながらもそれに肉付けを行い、第3期編集委員の黒須みつえ記者が実行可能な形式に整えてようやくスタートにこぎつけました。そのあたりの経過は、たねプロスタート時に黒須氏が出したアナウンスの冒頭に詳しく書かれています。

そして、アナウンスの中で黒須氏は次のように書いていました。

ひと先ずこのような形でスタートし、開始後、当然出てくるであろう不都合や不足点については、話し合って、随時改良していけばいいと思います。

(中略)

 この案は、高橋記者発案の「たねのブラッシュアップ」とは若干路線が変わりますが、スタートとして、シンプルで手数の少ないものがいいと考えました。このプロジェクトは継続することに意義があります。ケーススタディを積むには回数を重ねることが必要ですので、単純明快な方法で始めたいと思いました

編集部がこの意図をきちんと理解していたならば、わずか9回、実質2ヶ月少々でたねプロが終了してしまう事は考えづらいものがあります。黒須氏が強く意識していたのは、とにかく企画をスタートさせる事でした。形はどうあれスタートさせて、継続していく中でよりよいものにしていこうという考え方です。

ところが、実際にはあっさりと打ち切りが決まってしまいました。編集委員を含む市民記者が5ヶ月間試行錯誤して形にしたたねプロですが、問題点を改良する事も、ケーススタディを積む事もないままの打ち切りです。平野氏はお知らせの中で一定の目標を達成できたと書いていますが、そこにはたねプロを継続させるという目標は含まれていません。編集部が考える目標と黒須氏を初めとするたねプロに関わった市民記者が考える目標は、まるっきり異なるものだったのでしょう。

と、OMNからのお知らせを額面通りに受け取るとこのような感想が出てくるのですが、今回のたねプロ打ち切りにはどうにも唐突な印象を拭いきれないのも確かです。

お知らせによれば、平野氏はたねプロによって投稿がたね送りになる理由や掲載基準が明確になってきたと考えているようですが、掲載基準はその時々で変化していくものです。また、ニュースのたねがある限りたね送りとなる投稿は出てくるのですから、今後たねプロのネタが尽きる事はまずありえません。継続しようと思えばいくらでも継続できるものをこれだけあっさり打ち切るのは、やはり不自然に思えます。

むしろたねプロ打ち切りに関しては、先に編集委員制度廃止ありきと考えた方がよほど話の辻褄が合います。

編集部では、第2期の時点で委員の間のモチベーションに差がある事を問題視していました。第3期では、当初サイト批評を課さず、たねプロも一旦棚上げして企画内容を再検討する条件で制度自体は存続したものの、その時点から制度が行き詰まりの傾向を見せていたのは間違いありません。

そして、黒須氏もたねプロ第7弾のコメント欄で発言しているように、編集委員への報酬の問題もあります。OMNではこの7月から原稿料の引き下げを行います。拙ブログの試算では、1ヵ月あたり10万円強の経費削減効果が見込めるという結果が出ました。それに加えて連載コラムの相次ぐ打ち切りもあります。5月いっぱいで株コラムと、おだちえり・増田剛己両氏のコラムが打ち切られ、烏賀陽弘道氏のコラムも今回が最終回。経費削減の嵐はOMN認定プロにも容赦なく襲いかかってきています。

さらに一点付け加えると、7月からは週間賞のシステムが変わります。これまで編集委員は週間賞の推薦も行っていましたが、選出されるのは1本ですから、責任は軽いとは言わないまでも潰されるほど重くはありません。実際、平野氏が編集委員や編集部員が推薦したものとは異なる記事を選出する例もありました。

しかし、7月以降はそういうわけにはいきません。選出本数が週5~10本に増える事で推薦が選出に直結する可能性が格段に高まります。一般の市民記者から選ばれた編集委員が従来通りに選考に関与してもいいものかどうか、これは賛否が分かれるところでしょう。

そのような現状を考えると、たねプロとは異なり、編集委員制度の廃止にはそれほどの不自然さを感じる事はありません。編集委員制度が廃止されれば、たねプロが打ち切られても止むを得ない部分はあるでしょう。話の辻褄が合うというのは、そういう意味です。

ただ、最初に書いたように、たねプロは編集委員が細い糸をつないでようやくスタートにこぎつけた企画です。それだけに、ここまでたねプロに尽力してきた歴代の編集委員が今回の唐突な打ち切りを聞いてどれだけ残念に思い、OMNに提言・提案を行う空しさを感じたかは察するに余りあります。

OMNとしては、編集委員制度廃止もたねプロ打ち切りもギリギリの選択だったのかもしれません。ですが、理由はどうあれ、OMNがたねプロを育てずにあっさり終わらせた事は確かです。OMNには、5ヶ月かけてたねプロを立ち上げた編集委員を含む市民記者に対し、きちんとフォローをして欲しいものです。


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