今日、大相撲春場所が15日間の全取組を終えました。オーマイニュース(以下OMN)には関連記事が連日掲載されていますが、これは週刊現代の記事に端を発した八百長疑惑に便乗したもので、横綱・朝青龍関の取組を中心に、週刊現代に記事を書いたライターの武田政氏のコメントも毎日寄せられています。OMN初の試みとなる15日間ぶっ通し企画がどのようなものであったか、記事と武田氏のコメントを中心に見ていきます。
今回の企画は武田氏がいなくては成り立たなかったのは、まず間違いがありません。そこで武田氏のコメントから感じられた点を最初に上げます。
・朝青龍関に対するスタンスは一貫している
横綱十分の体制になった取組には、とりあえず八百長の可能性をほのめかすか取組の内容には触れない。負けたり、攻め込まれた取組はガチンコと評する。
・八百長の有無には触れない
コメントで言及するのはあくまで八百長の可能性。
・朝青龍関以外の力士については、発言の一貫性については無頓着
これは力士に限らず、日本相撲協会(以下協会)に対しても同様
ざっとこんなところでしょうか。上記2点については、協会から訴えられている現状ではやむを得ないともいえます。争う姿勢を明確にしていますので、今更八百長はなかったとは言えませんし、だからといって、迂闊にこの取組は八百長と言うわけにもいかないでしょう。どちらにしても、テレビ桟敷から見ただけで断定できる事ではありません。
気になるのは最後に指摘した点です。特に栃東関に関しては、武田氏がどのような見方をしているのかがくるくる変わります。順を追って発言を引用してみます。(引用部分はイタリック体で表示)
非常に調子が良い(4日目)
栃東は今日も完璧で、素晴らしい試合をしました。優勝ラインにも乗れるでしょう。だから、稀勢の里はもちろんですが、栃東にも期待しています(6日目)
直撃取材で、『本当にやっていないのか』と聞いたんですが、(今も)マジで怒っているみたいです。今場所では、『俺には本当に力があるんだ、カネにも困っていない、まだ引退の時期でもない』という意地を見せたいのでしょう。顔は合わせられないけれど、ボクとしては嬉しいですけれどね(7日目)
ここまで栃東関は7戦全勝で優勝争いの単独トップを走っていました。べた褒めです。これが中日に琴欧州関に敗れて初めての土がつくと、まだ白鵬関とトップを併走していたにもかかわらず、がらっと調子が変わります。優勝ラインに乗れると断言してから2日しか経っていません。
対する栃東は、後半戦も厳しい戦いが続く。前半は肩の力が抜けていて、とても良い取り組みをしていたんですが、ちょっとこれからがつらいですね……(中日)
栃東は昨日あたりからあまり内容が良くないですよね。今日も工夫のない負け方だった。明日あたりで勝ち越すのでしょうが……(9日目)
万全じゃないことは分かっているけれど、死力を尽くしてほしいと思います。週刊現代の記事以降、みんなに言われているわけだから、足も折れるような勢いでやっていただきたいと思い、楽しみにしています(10日目)
栃東が十分な状態でなかったというのもありますけれどね(11日目)
そして、栃東関が高血圧で休場してからは完全にバッシングに入ります。自分の思惑通りに動いてくれなかった栃東関に対する怒りが、このような形で口をついたのでしょうか。疑うわけではないが考えてしまう。これは素晴らしい迷言です。
力士として体を大きくする過程で、無理をした結果の休場だと思いますが……。今場所は、八百長の嫌疑を晴らすことと、カド番を脱出すること、この2つの課題をこなしてからの休場となると、疑うわけではないのですが、連勝後の2連敗についても考えてしまいます。その後の前頭・春日王に勝ち、横綱にも善戦していたので(12日目)
角界が動こうとしている中、パージされるのは(30歳代の)千代大海、栃東、魁皇の3大関です。今場所後すぐどうとはならないにしても、あと数場所で(引退の)覚悟を求められるでしょう(13日目)
持ち上げてから落とすのはマスコミの常套手段といわれますが、この手のひら返しはあまりにもひどいのではないでしょうか?武田氏は、先場所5勝止まりの原因となった栃東関の膝の怪我が完治していないのは場所前から明らかなのに、連勝を重ねている間はその事実に目をつぶっています。前に出る相撲の場合、膝にかかる負担が少ないのは少しでも相撲を知っている人にとっては常識です。武田氏のように相撲の記事を書いているライターが、それを知らないはずがありません。それとも、武田氏は相撲関連の記事を書いているだけで、相撲そのものに詳しいわけではないとでも言い訳をするのでしょうか?
疑うわけではないのですが、つい考えてしまいます。
他にコメントで褒めていた力士といえば、朝青龍関を破った時天空関、雅山関と稀勢の里関、琴光喜関ですが、一昨年の秋場所から勝ち越しを続けている琴光喜関以外は、いずれも負け越しか途中休場でした。武田氏の見立てでは、これらの力士は強いはずなのですが、なぜ1人しか勝ち越せなかったでしょう。この結果も協会の筋書き通りなのでしょうか?自分が褒めたから、どこかから見えない力が働いて彼らを勝たせないようにしたと、武田氏は陰謀論を主張するのでしょうか?
疑うわけではないのですが、つい考えてしまいます。
武田氏についてはこれ以外にもつい考えてしまう点が多々ありますが、コメント以外のOMN編集部による記事についても考えてみます。個人の署名ではないので断定はできませんが、この記事は、おそらく特定の編集部員が15日間通して書いていると思われます。
その前提で書きますが、朝青龍関が敗れた初日、2日目、勝負がついた後のダメ押しが話題になった中日などは楽しげに筆が踊っています。ですが、武田氏のコメントや記事、スタンスに影響されている感は否定できません。担当編集部員氏が、週刊現代の記事を読む以前からこのような視点で相撲を見ていたのかは非常に疑問です。この企画の売りが武田氏のコメントである以上、氏に批判的な視点を編集部に望むべくもありませんが、氏と同じ視点で相撲を見る必要はなかったはずです。また、編集部員氏が相撲に詳しくないせいか、不用意な断定調が目につきます。
取組後のダメ押しを主題に持ってきた中日、栃東戦をあっさりやりすごしマスコミ報道について延々語った11日目、前日に名指ししてまで武田氏が期待していた琴欧州関が見せ場なく敗れて内容に言及できなくなった13日目、勝ち越しがかかっていた千代大海関を注文相撲で退けた本割に全く触れなかった千秋楽。果たして編集部員氏は、毎日朝青龍関の取組をチェックしていたのでしょうか?
疑うわけではないのですが、つい考えてしまいます。
ノンフィクションライターの武田頼政さんが描く結末は3つだ。
(1)朝青龍が本割で負け、勝ち越しのかかる千代大海と白鵬の両方に花を持たせる。
(2)千代大海を下し、優勝決定戦で白鵬に花を持たせる。
(3)完全ガチンコの優勝決定戦をする。(14日目)
ここまでくれば、どうなるのか分かりません(14日目・武田氏)
13勝2敗で並んだ朝青龍と大関・白鵬の優勝決定戦となった。ここまでは武田さんがかねて予想してきた通り(千秋楽)
前日に3通り(ガチンコの場合の結末に触れていないので実質4通り)の予想を出すだけではあきたらず、どうなるか分からないと逃げ道を用意し、ヨソウハウソヨの回文を地で行っている武田氏を予想通りと持ち上げる編集部員氏は、武田氏あるいは週刊現代編集部から注射を打たれている疑惑をどこかで追及されるかもしれません。一方的に武田氏の主張のみを掲載する記事は、創刊宣言の理念に反し、市民記者規約や市民記者倫理要綱に抵触する可能性が高いと思われますが、OMN編集部は治外法権なのでしょうか?
疑うわけではないのですが、つい考えてしまいます。
また、断定長について一例を挙げると普天王関への言及がそれです。
明日3日目の相手は、ガチンコ力士の代表格・普天王である。朝青龍がもっとも苦手とする相手の1人だ(2日目)
普天王関は確かに朝青龍関に1勝していますが、それは一昨年の秋場所での話です。昨年は1度しか対戦がありませんでした。これは横綱と対戦する地位である前頭上位に、年1場所しかいられなかったという事です。八百長報道の真偽は別にしても、そもそも地力に大きな差がある力士を必要以上に持ち上げるのは何故でしょう?普天王関の後援者には、サイバーエージェント社長の藤田晋氏がおられたはずですが。
疑うわけではないのですが、つい考えてしまいます。
結局、八百長疑惑などというものは疑い出せばきりがないのでしょう。武田氏が優勝決定戦にガチンコの可能性を臭わせたのも気になるといえば気になりますし、魁皇関は5勝7敗から3連勝して勝ち越しを決めました。14日目、琴光喜関が進境著しい栃煌山関を待ったの末叩き込みで下した相撲は、「若造に本場所で角界のしきたりを教えた」と見ることもできます。先場所の千秋楽で、栃東関は何故あんなにあっさり魁皇関に右上手を与えたのかも疑問です。
このままですと本当にきりがありませんので、平野日出木編集次長のお言葉を借りていったん中締めとさせていただきます。
大相撲の八百長疑惑を云々いうのは野暮
こういうときに『野暮』という言葉はたいへんしっくり来ます。
さて、千秋楽の記事は以下のように締め括られていました。
このシリーズは今回で終わりです。
これは非常にもったいない。内容はともかく、15日の長きにわたって続けてきた企画です。武田氏のコメントと編集部員氏の合いの手を垂れ流すだけなら、OMNでやらなくても編集部員氏のブログで十分です。ここで編集部員氏が春場所を振り返る記事を出さなくてどうするのでしょう。
編集部員氏は、まがりなりにも15日間テレビ桟敷で取組を見ていたはずです。自分なりに捉えた見方、感想というものがあるでしょう。連日記事を出してきたのですから、今度は自分のことばで書けばいいだけのことです。場所を終えた力士たちも、春場所を振り返って反省すべき点は反省し、成長した点をしっかり自覚して次の場所以降への糧にするはずです。場所が終わったらおしまいでは、力士たちも編集部員氏も成長は見込めません。これで終わってしまっては、市民記者に「OMNにはTVの感想文を垂れ流しても構わない」と、誤った認識を与えてしまうかもしれません。OMNが日刊ゲンダイのような路線を目指すのならともかく、市民メディアとして創刊宣言に書かれている姿を理想とするならば、自らの企画は自らのことばで総括をするべきでしょう。
もう、コメントを貰うために武田氏に気兼ねする必要はありません。
OMNなり、編集部員氏なりのまとめ記事を出しましょう。