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『大磯ゆかりの文人』 高橋誠一郎
戦後第一時吉田内閣で文部大臣を努め、経済学者・文人・
浮世絵コレクターとして名高い高橋誠一郎が大正4年から
60年以上の間暮らし、愛してやまなかった大磯の地。
(随筆集・虎が雨)は、著者の山荘暮らしと、交遊について
綴られた随筆が収められ、曽我兄弟と虎御前の悲恋を描いた
「虎が雨」など、大磯にゆかりのある話が登場します
***
虎が雨
「二十年も昔のことである。 山荘の形ばかりの門を
くぐって、楓の青葉に覆われた長い急な坂道を登って
行くと、その中途の腰掛台に、二人の婦人の休んで
いるのが見えた。 ・ ・ ・
大磯といえば、「虎御前」以来、遊宴の地を想像させら
れる。 初代広重の描いている「虎が雨」に濡れた海浜
の古駅の趣きは、いつか、明治版画のあくどい「大磯海水
浴繁昌之図」と代わった。 しかし、その繁昌も永くは
続かなかった。 今では、大磯にただ一人の芸者もいない。
二十年前に坂の中途で二人の婦人にあったのも、ちょうど
今頃のような気がする。 虎が雨というのはやはり今頃
降る雨であろう。 楓の青葉に、今、細い雨が降りそそい
でいる。」 (『三田文学』 昭和十六年8月号)
(写真は、王城山麓の旧高橋誠一郎邸の入口)
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