【 物忌場所 】
古くは、海浜または海に通じる川の淵などに作られたもの
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村落が山野に深く入ると、大河の枝川や池・湖の入りこんだ所など
を選んで、ユカワダナ(差し出し棚・湯河板挙)を作った。
その地で生まれ育った女子は、その村落の神の嫁となる神女で、
物忌み籠り・修行をし、成女戒を受けはたした後は、女子皆この
資格を得ることができた。その中から選りだされた兄乙女(えおとめ)
が、この棚造りの建物(サズキ・サジキ・タナとも言われる仮屋)に
住んで、神の訪れを待っている。
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こうした処女の生活が、後世伝説化して水神の生け贄といった型に入れられる。
【 手布(たな) 】
訪れる神のために地機(じばた)を設けて、タナ(手布)を織っていた。
その手布による神忌布・神忌衣は、神の身そのものと考えられていた。
この印象が外国から渡来した置部・海部伝承の信仰を受け継ぎ、
今に残る深淵・大河・渓谷の掟・滝壺の辺りに、筬(おさ)の音がするとか、
水底に機織る女がいるとか伝える――若い女とも婆様ともいうが――
村落から離れての生活(人の近寄れぬ所)のためその年齢は不明になる。
これは、常世神とそれを迎える巫女の姿であり、
特に初秋の水神祭りが、農作の豊穣を祈願した夏祓えと同じく、
川水に供物・流し物をし、機織る女(たなばたつめ)
――銀河の織姫星が持つ常世神――牽牛星と輪郭がそっくりゆえ、
漢文学に溺れた藤原・奈良時代の歌人を喜ばせた。
七月七日・・・星祭の支配から選ばれた日取り
本来は季節の交差点に行ったいわゆる「ユキアイ祭」であった。
歌人だけでなく、「※乞功奠(きこうでん)」の星の故事を学んだことは、
手習師匠などの感化もあるようだ。
※「乞功奠(きこうでん)」~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
〔技巧を乞う奠(=祭り)の意〕陰暦七月七日の行事。牽牛(けんぎゆう)・
織女の二星を祭って、手芸・芸能の上達を祈願する。中国から伝わった
行事で、日本では奈良時代から宮中で行われ、のち七夕として民間にも
普及した。(三省堂大辞林より)
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【 田端祭・種播祭・タナマツリの古型の残存 】
根源・・・農作予祝祈願
「田端祭」「種播祭」「タナマツリ」ともいう。
「タナ」・・・種子のこと
「タナバタ」・・・田端すなわち水口
苗代播種の日の祭りが行われ、炒豆・焼米とともにキリコという小さな
切り餅を苗代の水口に供え、寄ってくる子供などに分けてやるが、祭壇
には桜などの季節の花を供えるほかに木の枝なども立て、鳥の羽や鳥
の足形のワラ細工などを置くのも、神の形代であったかもしれない。
七月六日の晩にこの祭りをして願い事を書き、神迎えをした立ち物に
吊るし、笹竹などに茄子・胡瓜など農作物の実物、あるいは模型を吊るし
祭って、七日の早暁にその竹を流すか、田畑の中央に挿している。
六日に棚を軒下に造り、「七夕棚」と称しているのは、古形で、
藁製、また胡瓜・茄子の牛馬を神の乗り物として供えている。
盆の精霊迎えと同様のこの七夕祭りは、年の切り換え日に、
新たなる年の神(山の神・農の神・祖先神)をこの棚に迎えるひであり、
六日の晩は年越しにあたるのであろう。
それで流しものの行事が行われたのである。
『日本民族辞典 大塚民俗学会編』弘文堂:参照
【 棚(たな) 】
陸地のタナ・・・山の傾斜の少し緩やかになった部分
これはタイラ(平)と呼ぶほどには広くもなく、その上に完全に
平らかでもない場所である。丹那・棚場・タナエ(棚合い)とも
いう地形、上方で急傾斜地の場所に対する緩傾斜地にあたる
ものがタナであるが、流れにのぞんだ平地がタナとなる。
水上のタナ(タチともいう)・・・魚が水中にいる深度、魚のいる層位
人間の生活の中のタナ・・・木の板を渡すこと
必ずしも物を乗せる台でもない
船のタナ・・・波除の側板
物見櫓造りのものを、サズキ(サジキ・銭敷)に対し、
懸崖造(かけづく)りのものをタナという。
盆だな・・・カンダナ
壇や囲ってあってもタナという。
小塚を土で作ってもタナという。
古くは「板擧(タナ)」とも書く。
【 穀物(たなつもの) 】
「日本紀」・・・保食神〈うけもちのかみ〉(宇迦之御魂〈うかのみたま〉)の神物語
古代の穀物霊のひとつ――ウカ・ウケ・ケは食物のこと
水田種子=タナツモノ(米)
陸田種子=ハタツモノ(粟・稗・麦・豆)
後には両者をタナツモノとしている。
沖縄・・・穀霊を「ユリ」という。
新麦の初穂祭りに麦粉の供物を庭に投げつけ、
女房を悪口した咎で、この穀神に見放されている、
古来の信仰・・・大歳の客譚・竜宮童子譚・白米城譚
(穀霊が特定の人に憑きまわる)
【他説】
☆タナブ・タナル=「孕(はら)む」意に源を持つ語かもという説。
☆穀類は小粒なので小さい神の呪力を与えるという説。
【 手布・手巾(たな) 】
物忌み用のごく小さな布切れ。
それで最も穢れやすい局部を覆い隠した。
その布を織る女性がタナバタツメ(棚機津女)という聖女。
≪古事記――湯河板揚(ゆかわたな)≫
神を迎えるには、水辺に棚状に差し出し設けた桟橋式の棚(湯河板揚)
の上に、地機(いざり機〈ばた〉)を据え、神への布を織っていた。
使う長さだけの布をいうことになり、用途によって長短の布になる
わけで、帯とは関係はない。
≪出産の時のオブイ手綱(児を背負うためのもの)≫
ウブの神・産神(うぶがみ:後天魂の一つ)迎えとして、馬を率いて山の神を
迎えにいくが、馬を飼わぬ家では、この背負いタナを持って行き、安産の後
には、再びこれを持って、産神を神社か分かれ道、または山裾まで送って行く。
すなわち、神を背負うにも、このタナを用いることが原義に近い。
☆褌(西日本)・手拭い(東北地方)・腰帯までものちにタナというようになった。
≪物忌み中のしるしのもの≫ (タナバタツメと説くのは否とする説)
「額髪結在染木綿(ひたいにゆえるしめゆふ)」風の聖女のシルシ。
もともと神事や神秘な労働のとき用いるもので、
秋田県あたりで、ヒロタナ、ハナタナと呼び、年頃に相応しい色合いを付け、
労働をするとき女が目だけ出し顔に巻きかぶる、秋田県・新潟県のハンコ
タナ(手拭い半分の幅のタナの意で害虫よけ・汗よけ用)もそのひとつ。
『日本民族辞典 大塚民俗学会編』弘文堂:参照
七夕(2)へつづく。。。